Cher Lamperouge
31.絶望を愛してる





トンネルの奥に配備されていた日本解放戦線のナイトメアフレーム、雷光をヴァリスで撃ち抜き、勢いのまま空中でホテルの基礎支柱も破壊したスザクは、ランスロットの中から信じられない光景を見た。人質の中に含まれていた生徒会のみんな。七年のときを経て、友達だと言ってくれた旧友。彼らを助けたい一心でコーネリアの無茶な命令にも従い、リニアカノンに突っ込んだ。自分が日本解放戦線の相手をしている間に、他の人たちが彼らを助け出してくれる。そう聞いていたから、スザクは安心してランスロットを操っていたのに。それなのに、崩れ落ちていくホテルの一室。目の前のそこに旧友がいる。紫の瞳。スザクの友。
「ルルーシュっ!」
伸ばした腕がガラスを破り、窓枠を壊す。無骨な指先が細い身体を拾い上げ、旧友が手を掴んだことで隣のカレンをも引き上げた。もう片方のの手のひらで二人を暴風から守り、スザクはその場から跳躍する。ホテルが完全に崩れ去り、湖が醜い波紋を凪立たせた。
『スザク君、人質は無事よ。テロリストは殲滅を確認』
セシルの声に、手のひらから自分を見上げてくる旧友の無事な姿に、スザクはほっと息を漏らした。

特派のトレーラーに戻りかけたところで旧友の身分や都合に気づき、スザクはセシルに断りを入れてから軍から少し離れた場所に降り立った。この位置なら戻ってきた他の人質たちとも合流できるだろう。手のひらから二人を下ろすと、スザクはコクピットのハッチを開けて飛び降りた。
「ルルーシュ!」
「スザク!?」
瞳を瞬いて驚きをあらわにする姿を上から下まで見回して、怪我がないことに安堵する。隣のカレンもどこか痛めているという様子はない。良かった、とスザクは心から呟いた。
「スザクがこのナイトメアのパイロットなのか・・・?」
「・・・・・・うん。よかった、ルルーシュが無事で」
じんわりと視界が緩んでいく。紫の瞳が細められたことにスザクは気づかなかった。パイロットスーツの手首で目を擦るけれども、逆に涙が加速する。よかったと、それだけが唇から何度も零れた。よかった。よかった。よかった。君が無事で。君が無事で。

―――助けることが出来て、本当に良かった。

それはスザクにとって無意識だったのだろう。吐露した言葉に、縋り付いた腕がぴくりと反応したことに気づかない。旧友がとても美しく笑ったことにスザクは気づけない。
「スザク」
促す声は優しかったか。甘かったか。内まで入り込み、どろどろに溶かしていく毒を持ってはいなかったか。微笑んだ旧友は、どんな目で自分を見ていたか。スザクは知らない。スザクは気づけない。ただ頬に触れてきた手だけが温かな熱を伝えてきて、生きていることを感じさせてくれる。
「俺が今こうして生きているのは、おまえが助けてくれたからだ」
「ルルーシュ・・・・・・」
「ありがとう、スザク。おまえのおかげだ」
柔らかく、スザクの心に入り込むそれは、確実に疵を捉えた。捕らえ、笑った。ぼろりと零れた涙を、旧友が指先で拭ってくれる。

「おまえが俺を助けたんだよ。ありがとう、スザク」

堪え切れず抱きついてしまったスザクは気づかなかった。旧友の凄むような美しい微笑にも、カレンの眼差しに含まれていた意味も。何も気づかずに、ただ旧友にきつく縋り付いた。
おまえは俺を助けてくれた。悪魔の囁きは心地よくスザクを満たしてゆく。





なるほど、これがおまえの疵か。
2008年4月6日