Cher Lamperouge
27.恋と友情の灰





ルルーシュ・ランペルージという存在は、シャーリーの中で特別な位置を占めている。優しくありながらも冷酷で残酷。人を人とも思っていない。そんな印象を受けるのに、だけどそれだけではないのだと心が言う。実際にルルーシュ・ランペルージは穏やかで優秀だった。人当たりも良く、シャーリーにも気を使ってくれる。言葉を投げかければ答えてくれる。それなのにどうしてだろう。シャーリーはルルーシュ・ランペルージが善人とは思えなかった。近づけば傷つけられる。そう、分かっているのに。
分かって、いるのに。



「スザク君っ!」
廊下で見つけた新生徒会役員に声をかけると、相手はすぐに振り返ってくれた。けれどその茶の髪の向こうに漆黒の髪を見つけてしまって、シャーリーは思わず息を呑む。しかしすぐに平静を装う。知り合って、想うようになってすでに三年。引きずられないよう気を引き締める所作にも慣れてしまった。
「どうしたの、シャーリーさん」
「シャーリーでいいよ。あのね、今週末の河口湖の話なんだけど・・・・・・もう、聞いた?」
想い人をちらりと眼差しで見つめれば、スザクはきょとんと目を瞬いて己の後ろを振り返る。悪い、と涼やかな声が謝罪した。
「言い忘れてた」
「ルルーシュ、君ってば・・・」
「うっかりしてたんだ。悪い、シャーリーから話してやってくれ」
「う、ん」
名を呼ばれてときめくだなんて、小学生の恋じゃあるまいし。それでも正直すぎるほどに鼓動を速める胸を押さえ、シャーリーはスザクに向かって笑いかけた。
「今度の週末ね、会長が生徒会のみんなで河口湖に旅行に行かないかって。どうかな?」
「あ・・・・・・ごめん、僕は軍があるから・・・」
「そっか・・・。じゃあ仕方ないよね。無理しないでね?」
「うん、ありがとう」
眉を下げて俯くスザクは、申し訳なさを全身で体現する。こんなに感情をストレートに出すタイプが、親友だなんて。親友というカテゴリーに誰かを属させるなんて、シャーリーは考えたことも無かった。リヴァルとは違う。共に笑う親友。それが、枢木スザク。後ろを振り向き、スザクは己にとっての親友に、シャーリーにとっての想い人に話しかける。
「ルルーシュも行くの? 河口湖」
「あぁ、その予定だ」
応える声は、自分に向けられることの無い親しみを含んでいる。笑顔も。何もかもが違う。特別なのだと、仕草のすべてが言っている。
「リヴァルはバイトがあるから無理らしいが、会長とニーナとシャーリー、それとカレンが参加だな」
「うわぁ・・・・・・ハーレムみたいだね」
「精々フットマンのごとく仕えてくるさ。土産は買ってきてやるよ」
「ご当地グルメ?」
「色物が好みだろ?」
額を寄せるように、肩を震わせて笑いあう。誰に対しても控えめな態度を取るスザクの唯一の例外もまた、シャーリーの想い人だ。新たな一面はまた、シャーリーの心を揺るがす。近づけば傷つけられる。そう、分かっているのに。スザクが特別で、同じ笑みを向けてもらえることはないと、分かっているのに。
それでも手を伸ばしてしまうのは、この胸を焦がす想いが衝動を突き上げるから。
開いた唇を、シャーリーは閉じる。乾いたそれは言葉を載せない。想い人の名を、シャーリーは呼ぶことが出来ないのだ。





三年間、ずっと、ずっと見てきてるんだよ。ねぇ、
2007年6月24日