Cher Lamperouge
26.はじめまして、旧友





化け物がランペルージの屋敷に現れて一週間後、クロヴィスはエリア11の総督の座から退いた。代わりに総督になったのは、ブリタニア第二皇女コーネリア・リ・ブリタニア。軍人として名を馳せていることから、彼女の役目がエリア11のテロリスト制圧であることは明らかだ。そして連れてこられた妹、ユーフェミア・リ・ブリタニア。お飾りの副総督は綺麗な仕事しかこなさない。
そして二週間が経ち、新たな風がアッシュフォード学園に吹き込もうとしていた。



「枢木スザクです。よろしくお願いします」
壇上、教師の隣で頭を下げた転入生に、教室はざわりとさざめいた。それが好意的なものではないことくらい本人にも分かっただろう。頑固そうな奴だなぁ、とリヴァルは肘を突いた手に顎を乗せて新入りを観察した。お辞儀をしないのはブリタニア慣習に則ってのことかしらね、とカレンは病弱な令嬢という仮面の下で唇を歪める。どうしてイレブンが、と生徒たちに嫌悪の色が広がる中、教師ももてあまし気味に教室を見回した。
「じゃあ、枢木の席は・・・・・・」
おそらく何処の席にしても、近くになった生徒は良い顔をしないだろう。誰もが視線を逸らしたが、一人だけ手を挙げた生徒がいた。スザクの目が動き、その者の姿を見止めた瞬間に見開かれる。ルルーシュ、と動いた唇をリヴァルとカレンは見逃さなかった。美しく、旧友は笑う。
「先生、僕の隣が空いています」
「そ、そうか。じゃあ枢木はランペルージの隣に」
今度は違った意味で教室がざわめいた。何でランペルージの隣に、何でルルーシュ君の隣に。シャーリーは驚いたように振り返り、ニーナは眼差しに険を乗せてスザクを睨む。けれどそれすら関係なく、白い手が隣の席を軽く叩いた。笑みは穏やかで、紫玉の瞳を受けて翡翠の瞳が揺れて細まる。それが歓喜なら幸せだったろうに。絶望なら愛しかっただろうに。
再会は果たされた。

「まさか君がこの学校にいるなんて・・・・・・」
「久しぶりだな、スザク」
「久しぶり、ルルーシュ」
服の襟を引き上げるというサインを使い、旧友たちは屋上で正式な再会を果たした。後から気配を消してついてきたリヴァルとカレンは、僅かに開いたドアの内側から耳を澄ましている。見事な場所取りをしたらしく、姿は見えないけれども風下ということで声は聞こえてくる。メールで連絡を受けたミレイが、音を消して合流した。
「本家を出ていったって聞いて心配してたんだよ。無事でよかった」
「日本がエリア11になって、枢木家にも居辛くなったからな。ナナリーと二人で彷徨っていたところを、ランペルージ男爵家の当主に拾って頂いたんだ」
「男爵家? だって君は」
「俺たちはもう死んだことになっているんだから関係ないさ。今は義父母も亡くなって、俺がランペルージ家の当主になっている」
「そう・・・・・・」
「今度遊びに来いよ。ナナリーもきっと会いたがる」
「うん。喜んで」
さて、真実はどれほど含まれているのか。正確な答えを知っているミレイは、七年振りに聞く声に瞼を下ろす。格子越しに対面した、枢木スザク。連鎖される記憶。湧き上がる殺意。今もまだ、それらは衰えることを知らない。主が手を下さないから、ミレイも殺していないだけ。
「スザクは・・・・・・さっき、教師が名誉ブリタニア人って言っていたが、本当なのか?」
「うん。・・・・・・軍に、所属してるんだ」
「ブリタニア軍に? 何でおまえが!? 何でおまえが軍なんかに・・・・・・っ!」
ルルーシュってば女優だよなぁ、とリヴァルが拍手する真似をしてみせた。
「ルルーシュ。僕たち、学校では他人でいよう」
「な・・・・・・スザク・・・?」
「だって、どう説明するんだ? 名誉ブリタニア人と友達だって。下手したら君の過去がばれるかもしれない」
「その心配はないさ。俺とナナリーが日本でどこに滞在していたのかを知る人間は少ない。それこそ、かつての日本政府の要人くらいだ」
カレンはルルーシュの過去を知らない。リヴァルも知らない。三人の中ではミレイだけが知っているが、情報を共有することはなかった。もし得たとしても、それがルルーシュ・ランペルージからもたらされたものでないのなら意味が無いのだ。だからこそ予想するだけで、真実を見つけ出そうとは思わない。
「今だから言うが、俺とナナリーの扱いはとてもじゃないが客人に対するものではなかった。しかし誰がそのことを表立って吹聴する? ランペルージ家に引き取られてから調べてみたが、俺たちは『日本に遊学に来ていた最中、通っていた学校が被災して巻き込まれ死亡』したことになっている」
「じゃあ・・・・・・?」
「そう、俺とおまえは記録上会ったことが無い。俺とナナリーは寮制の学校に入れられていたことになってるからな」
そしてご丁寧にも寮制の学校がひとつ、七年前の戦争で柱一つ残すことなく焼き払われている。死亡した生徒の数、677人。教師関係者の数、52名。爆撃したのは日本軍の戦闘機だった。皇子皇女が本当は枢木家に預けられていたのだと知るのは、ごく僅か。
「つまり、俺とおまえが親しくしない理由はないってことだ。それに俺はこの学園じゃ一目置かれているし、その俺の傍にいたほうがおまえも色々と楽だろう? おまえが日本人だということへの無駄な差別も少しは省ける」
「・・・・・・でも」
「スザク」
声が空に溶けるようだ。重いドアのこちら、薄暗い踊り場でカレンはそんなことを思う。
「俺たち、友達だろう?」
「・・・・・・七年前からずっと?」
「あぁ」
「ありがとう・・・ルルーシュ」
実に爽やかな青春の一場面。片方はルルーシュ・ランペルージ。片方は枢木スザク。多く嘘をついているのは一体どちらか、真実の含有量はどれほどのものか。旧友たちの笑い声が屋上に響いた。





ルルーシュに主演女優賞! 賛成。そうね、賛成よ。
2007年6月11日