Cher Lamperouge
23.清明に風光る
「なぁ、聞いたか? ルルーシュとカレンが付き合ってるって噂!」
生徒会室に入ってきたリヴァルに満面の笑みで問われ、カレンはうんざりと肩を竦めた。隣席の主は反応すらせず、書類に目を通している。逆に署名を走らせていたミレイはぱっと顔を上げて笑った。
「それ、もう三年の方まで回ってきてるわよ。あのルルーシュ・ランペルージに、あのカレン・シュタットフェルト。この二人じゃ文句も言えないって、みんなハンカチをぎりぎり噛み締めてるみたいね」
「まぁそうだよなー。で、どうする? 否定しとく?」
「いいわよ、放っておけば」
「お、大胆!」
「誤解させておいた方が都合がいいもの。ねぇ、ルルーシュ?」
ドライヤーでストレートにさせている髪をかき上げて隣を向けば、主はくすりと唇を歪める。
「カレンがそれで良ければ」
「じゃあ問題ないわね」
「当人たちはそうとして、会長はそれでいいの?」
リヴァルの含みを持たせた言葉に、カレンもミレイを振り返る。主との関係がどんなものだか考えたことが無かったわけではないが、少なくとも恋愛ではないと思っていた。主を見つめるミレイの瞳には、忠誠の念が色濃く浮かんでいる。恋情も、もしかしたらあるのかもしれない。けれどそれを二の次にする強さと決意を、カレンは感じ取っていた。
「別にいいわよ? シャーリーには何も言わない方がいいだろうけど」
今日は水泳部でいない女生徒の名が挙げられる。彼女の恋情にはカレンも気づいていた。主を見る、好意と複雑な感情を含んだ眼差し。ニーナは憧憬が強かったが、シャーリーは明確だった。
契約を結んでからこっち、カレンは休まずに学校に来ている。シュタットフェルト家からランペルージ家に向かい、そこから主とその妹と同じ車に乗って学園に登校する。授業の合間や昼食を共に過ごし、放課後も同じくランペルージ家に帰り、その後自宅に戻る。事情を知らない周囲からしてみれば、付き合っていると思われても仕方が無いだろう。
実際、そんな問いをカレンはいくつか受けていた。明確には返答せずに濁しておいたが、シャーリーから向けられる笑顔の下にある疑念には他と違うものを感じていた。彼女が主に向けている想いは、恋よりも複雑だ。だからこそカレンは、シャーリーを危惧していた。恋は人を想像外の行動に走らせる。イレギュラーになるくらいなら、潰すべきだとも考えていた。
「リヴァル、探索部隊の方はどうだ? もうゲットーから撤収したか?」
「あー、それはまだっぽい。一回洗ったけど何も出なかったから、シンジュクだけ洗いなおしてるみたいでさ」
「なるほど。それじゃクロヴィスの解任も時間の問題だな」
「んじゃ、次は?」
「コーネリアで決まりだろう。ナンバーズの中ではエリア11は最もテロ活動が活発な地域だ。それをすべてコーネリアが壊滅させ、更地にしてユーフェミアに渡す。妹溺愛のコーネリアがやりそうなことだ」
主はくすりと笑うが、カレンは発見されなかったものの方が気になった。自分たちがクロヴィスの総督府から強奪してきた毒ガス。カレン自身はグラスゴーで出てしまったためにどうなったのか分からなかったのだが、軍による捜索では見つかっていないという。わざわざ隊を組むことからして、余程重要な代物だったのだろう。しかし毒ガスではないだろうと、主は言った。クロヴィスにその度胸は無いとも。
「じゃあ探りは」
「―――誰か来るわ」
「ヴェルダンディーのラスク食べたーい。ブルーベリーのやつ、美味しいのよねぇ」
「俺は胡麻かな。ルルーシュは?」
「プレーンで」
「つまんないわねぇ」
「何でですか。チーズでもジャムでもクリームでも何でも合うでしょう」
「そうだけど、ルルちゃんっぽすぎるって言うかぁ」
「こんにちは。遅くなってごめんなさい」
「いらっしゃいニーナ、待ってたわよー!」
ドアを開いて現れた会計の少女を、ミレイは両手を開いて受け止める。丁度いいからお茶でも入れましょうか、と立ち上がり、手伝いまーす、とリヴァルが申し出る。カレンとは逆隣の椅子を主が引いて、ニーナはそこに腰掛けた。日常は穏やかに流れている。学園の生徒会室で反逆の計画を。素晴らしい青春だと、カレンは緩やかに微笑んだ。
願わくばこの日々が更なる充実を得ますように。
2007年6月5日