Cher Lamperouge
22.踊りましょう、王子様





午後の授業を全部放棄して覚悟を決めた。放課後は大抵クラブハウスにいるから。そう言った顔を思い返し、リヴァル・カルデモンドの言葉を反芻し、あの紫玉の瞳を瞼に描き、カレンは深く息を吐き出す。手を伸ばした扉は見た目に違わず重量があった。サロンを兼ねたエントランスホールには窓からの光が差し込み、室内を厳かに見せている。その中に、ルルーシュ・ランペルージは立っていた。振り向き、あぁ、と声を漏らして、微笑み。
「やぁ、カレンさん」
今もなおさん付けで呼ばれ、思わず眉を顰める。近づいて距離を詰める。三歩離れた位置まで近づき、カレンはルルーシュ・ランペルージを見上げた。返事はもう決めていた。弱みは十分すぎるほど握られているのだ。与えられた選択の時間は、一体何のためだったのだろう。強制しなかった理由がカレンの自主性を問うたのなら、信頼を寄せることも出来るかもしれない。力ではなく、頭脳を駆使するというその主義に。
「聞いてもいい?」
「何?」
「あなたは『正攻法でブリタニアを手に入れる』って言ったけど、具体的にはどうするつもり?」
問いかけに、返ってきたのは酷薄を帯びた顔だった。美しく傲慢で、見事なほどに麗しい。
「皇族に取り入る。ブリタニアは帝王が終身支配する帝政なのだから、国を変えるには皇帝に取り入るしかない。だが今上帝を変えることは不可能だ。よって殿下に取り入り、その人物を俺の力で玉座につける」
遠望な、想像もしていなかった遠謀を説かれ、カレンはこれ以上ないほど目を剥いた。薄く開いた唇が乾き、言葉がうまく綴れない。根底からブリタニアを変えることなど、考えたこともなかった。
「・・・そ・・・・・・んなこと・・・っ」
「出来るさ。ランペルージ家は男爵であり、貴族は皇族の後ろ盾につくことが出来る。それに俺には奥の手もある」
指を寄せた唇は艶かしく鮮やかな緋色。歪められた眉は形よく、細められた瞳は深い。秘密だと言うかのように、ふと瞼が伏せられる。硬質な横顔。覚悟は決意に、誓いに変わった。そう、決めた相手は誇れるような人がいい。
「ひとつだけ約束して」
見上げて瞳を合わせる。すとんと何かが落ちたかのように、カレンの心は穏やかだった。ついていける。ルルーシュ・ランペルージになら。
「ブリタニアを手に入れるっていう望みを、絶対に諦めないって」
「約束する。俺が目的を投げ出したときは、その手で殺してくれていい」
「あなたがそれを目指している間は、あなたの駒になってあげるわ。好きなように使えばいい。スパイにでも、人殺しの道具にでも」
「そんなことは頼まないさ。当面は俺の身辺を守ってもらえればそれでいい」
「なるほど、騎士ってことね」
「あぁ。貴族の対面を保つためには、それなりの体裁を取り繕う必要があるからな」
仕方なさそうに言う様子が本当に面倒くさそうに見えて、カレンは思わず笑ってしまった。酷薄で、響きだけは麗しく、理詰めでありながらも相手に選択の余地を残す、きっと暴君よりも恐ろしい先導者だ。誘いが甘く聞こえる。きっとそれは悪魔の証。
「カレンには生徒会にも入ってもらう。ミレイとリヴァルは俺に関わりがあるから繋ぎを取れるようにしておけ」
「その二人も知ってるの?」
「与えている情報はそれぞれによって違う。すべてを知っているのは俺の妹と執事とメイドくらいだ」
自分にサバイバルナイフで切りつけてきた日本人を思い出し、カレンは僅かに眉を顰める。そんな肩を軽く叩き、主は笑いかけてきた。
「母親は今、ゲットーの診療所にいるんだろう? 更生施設を手配するから、そっちに移してやれ」
面会も出来るし、日本人にも優しい。そう告げた言葉はやはり甘く響いた。ルルーシュ・ランペルージについていこう。ブリタニアを手に入れる、その日まで。
決意にカレンは唇を噛み締めた。主が殿下なら忠誠のキスも出来るのに。そんなことを思いながら。





ついていってやろうじゃない、ルルーシュ・ランペルージ!
2007年6月5日