Cher Lamperouge
16.ユメであえたらステキ
シュタットフェルト家の令嬢、カレン・シュタットフェルト。17歳、牡羊座のB型。シュタットフェルト家当主である父親と、イレブンである母親を持つ。学校での成績は優秀だが、病弱で欠席しがち。二枚目の報告書をめくり、主はくすりと笑みを漏らす。
「本名は紅月花蓮。死んだ兄の遺志を継ぎ、反ブリタニアであるレジスタンスグループに参加」
「トウキョウ、特にシンジュクで活動をしている小規模なグループです。兄の紅月直人がリーダーだったようですが、今は扇という人物がその役目を継いでいます。メンバーは赤い鉢巻をしているそうです」
「母親は日本が侵攻された直後、迫害を逃れるために娘をシュタットフェルト家に差し出した。そして自分は同じ屋敷でメイドとして働く。仕事振りは散々なようだか、心意気だけは見事じゃないか」
「そのようですね。薬物に手を出しているようなので、それも何時までもつかと言ったところですが」
「リフレイン、か。依存性と中毒性、廃人の可能性と引き換えに、過去を見せてくれる薬」
「戻りたいですか?」
「何時にだ?」
戯れの問いに、戯れの答えが返される。ランペルージ家に入って六年、ディートハルトは主の成長していく様を見てきた。妹を抜かせば咲世子と並んで、きっと最も近い場所で、その成長を。
紫玉の瞳は艶を放っている。この色が種類を変えることを知っている。己の過去が幸せであったと、おそらく主は言わないだろう。失くしたことで得たものもある。そして繰り返されていく。
「過去は未来への教訓だ。役立てるものであって逃避に使うものではない。己の手で操作できるのは、現実と未来だけなのだから」
報告書を机の上に置き、主は興味なさそうに言い捨てる。その訓示にディートハルトは叩頭した。だからこそ自分は、この人の下にあるのだと狂喜しながら。
「カレン・シュタットフェルトはどうしますか?」
「しばらくは観察だ。使えると判断したら手に入れる」
「そうですね。騎士も一人くらい必要ですし」
「クロヴィスがコーネリアと交替する頃が狙い目だな」
「ご予想の時期は?」
「約一年、そこまで持てばクロヴィスもいい方だ。今後はユーフェミアにも目を向けておけ」
「ああ、コーネリア第二皇女が副総督として連れてくる可能性が高いですしね。どこまで教育されているか」
「どこまで姉妹愛が邪魔をしているか」
唇を吊り上げ、主は立ち上がる。
「今夜はナナリーと寝る約束なんだ。邪魔するなよ」
「了解しました。お休みなさいませ」
「おやすみ、ディート。良い夢を」
リフレインよりも、という言葉にお互い笑った。過去など踏み台でしかない。過ぎたものを変える力など、人は持ち得ないのだから。だからこそ主は未来のために今を築く。
望むものを、手に入れるために。
「可憐」→「花蓮」に変更。カレンの公式漢字は不明。
2007年5月25日