Cher Lamperouge
12.悪魔に恋をした





シャーリーがルルーシュ・ランペルージという人物を気にかけるようになったのは、中等部二年で同じクラスになってからだ。もともと名前と顔は知っていた。ずば抜けて格好いいと女子の間では噂だったし、副会長として生徒総会では司会も務めていた。初等部の妹をすごく大切にしている。一番仲の良い友達はリヴァル・カルデモンドで、彼らは大抵共にいたが、不思議なことにそれぞれ好き勝手なことをしていることが多かった。ルルーシュ・ランペルージが本を読んでいれば、リヴァルは携帯ゲームを攻略していて、時々交わされている会話も他愛がなく、女子の友情とも男子のそれとも違うようにシャーリーは見えた。けれどクラスの男子の中心にいるのは間違いなくリヴァルであり、そしてルルーシュ・ランペルージだった。表立って出てくるわけではない。けれども二人は何かあれば意見を仰がれ、すべてを決める権限を持っていた。
変な人、とシャーリーは思っていた。リヴァルはクラスと関わる分まだ良い。けれどルルーシュ・ランペルージは違う。にこやかに応対しながらもクラスどころか相手を見ていない、そんな人物だとシャーリーは思っていた。



「―――好きです」
教師に呼び止められて遅くなってしまい、水泳部へ向かう途中、シャーリーはそんな声を耳にして思わず足を止めた。場所は中庭だけれど、奥まったそこを訪れる生徒は少ない。急いでいたとはいえ近道なんてしなければ良かった、とシャーリーは鞄を抱きしめる。他人の告白を立ち聞きする趣味はない。静かに足を引いて回れ右していると、次の声が発されてしまった。
「ありがとう。だけどごめん。君の気持ちには応えられない」
それはルルーシュ・ランペルージのものだった。教師に問題を示されて回答するときと何ら変わらない、冷静で穏やかな声が耳を打つ。
「・・・・・・理由を、聞いてもいい?」
「君のことを、君と同じ気持ちで好きではないから。だから応えられない」
「それでもいいって言っても?」
「俺が許せない。それじゃ君に対して失礼過ぎる」
「失礼でもいい。失礼でもいいから付き合ってよ。好きなの! ランペルージ君が好きなの!」
黄色い声が跳ね上がる。その剣幕は叫びに近く、シャーリーは自分に向けられているのではないと分かっていても肩が震えた。恋をしているにしては、恋をしているからこそ、懸命で必死で、そして醜い感情の吐露。腕の中の鞄を抱きしめる。
「付き合いだしてから好きになることだってあるよ! だから、ねぇ! 付き合ってよ!」
「・・・・・・ありがとう。君の気持ちは、とても嬉しい」
その瞬間、何故かシャーリーはルルーシュ・ランペルージがどんな表情を浮かべているのか想像出来てしまった。きっと笑っている。女子に評判の整った顔で、綺麗に穏やかに。
密やかに、冷酷に。

「だけど俺が君を好きになることは絶対にない。―――悪いけど、他の奴を探してくれ」

ごめん、と言葉が綴られ、少しして草を踏んで駆けていく足音が聞こえる。幸いそれはシャーリーとは別の方向へ行ってくれたようだが、もう片方は避けてくれない。
「フェネット」
声に身体が跳ねる。さっさと去れば良かったと今更ながらに後悔する。だけど遅い。もう、すべてが遅い。現れた紫の瞳はまっすぐに自分を捉えた。
「今見聞きしたこと、誰にも言わないで貰えるかな。彼女に不名誉な噂を立てたくない」
「・・・・・・わ、かった」
「ありがとう」
微笑むルルーシュ・ランペルージは美しい。その表情は穏やかで、いつだって朗らかで、それなのに変だとシャーリーはずっと思っていた。その理由は分からない。だけど違和感を覚えていた。優しさは本質だろう。しかしそれだけではないものを、先程の拒絶に感じた。あれはパフォーマンスだ。ルルーシュ・ランペルージのパフォーマンスだ。そう思ったら言葉が止まらなかった。
「さっきの、言い過ぎだよ」
去ろうとしていた足が止まる。背中は中学二年ということもあって薄い。背は同じくらいかもしれない。そんなことをシャーリーは思う。
「『好きになることは絶対にない』なんて言い切れないじゃない。もっと違う言い方をした方がいいよ」
何で自分は知らない少女を気遣っているのだろうか。振り向いた顔は相変わらず綺麗で、同じ中学二年とは思えない。
「曖昧な言葉で半端な期待を持たせたくない。俺に応える気はないんだから、諦めて他の奴を好きになる方が彼女のためだろう?」
「でもそれってランペルージ君の考えでしょ!? 好きなだけでいいって思う子だって」
「フェネット」
首が傾げられ、黒い髪が揺れる。まぶしい。夕焼けが校舎の硝子に反射してすべてを隠す。

「どうして君がそんなに必死なんだ? 俺の恋がどんなものだろうと、君には関係がないだろう?」

声は変わらず穏やかで優しいのに、何故かシャーリーはルルーシュ・ランペルージがどんな表情を浮かべているのか想像出来てしまった。絶対に笑っている。女子に評判の整った顔で、綺麗に穏やかに。密やかに、冷酷に。鮮やかに美しく、すべてを見透かして想い人は笑う。
シャーリーは自らの恋が始まった瞬間に終わったことを、知った。





じゃあ、この想いにも意味がないの・・・?
2007年5月17日