Cher Lamperouge
11.Beloved my bet!
ルルーシュ・ランペルージという人物を知ったとき、リヴァルは面食らうと同時に唇を吊り上げた。そして仲良くなろうと勝手に決めた。それは美しい容姿や穏やかな物言い、優秀な頭脳が理由ではない。動機は単純、ルルーシュ・ランペルージは「割り切った友人関係を築くタイプ」だと直感したからだ。相手のテリトリーを侵さないと同時に、自らへの侵入も拒む。他人を信頼しない、頼るのは自分のみ。けれど相手の力量を正しく見定めて、そうと気づかれないように利用する。
その手腕に気づいたとき、リヴァルはお見事だと手を叩いてしまった。だからこそなおさら友人になりたいと思った。リヴァルは難解な美人が好みだと自覚していた。そしてリヴァル自身、あまり他者に踏み込まれたりしたくない、個を愛する人間だった。踏み込むのは、自分を振り回すのは、自分の決めた相手だけで良い。
「どーも、ランペルージ君。お昼一緒してもいい?」
四時間目のチャイムが終了すると同時に、相手の席へと向かった。入学してまだ一週間も経っていない今、女子はともかく男子に特定のグループは出来ていない。誰もが声をかけ合ってばらばらに昼を取っている中、リヴァルはいち早くルルーシュ・ランペルージを捕獲した。予想では、彼は目を瞬いた後に笑って了承を示す。それは現実に実行され、リヴァルは前の席を失敬して向かい合った。
「俺はリヴァル・カルデモンド」
「ルルーシュ・ランペルージだ。よろしく」
「よろしくー」
近い距離で見ると、やはり整っている美貌だ。中学一年という幼さから少女のようにも見えるが、硬質な瞳が少年であることを主張している。柔らかな光を灯している目も、本来はもっと強い輝きを帯びるのだろう。少し見てみたい気もするが、それは後でいいとリヴァルは思う。
「ランペルージ君さ、部活決めた?」
「呼び捨てでいいよ、カルデモンド。部活はまだ迷ってるけど、多分生徒会に入ると思う」
「生徒会? 会長って、えーと、理事長の孫だっけ?」
「そう、二年のミレイ・アッシュフォード先輩。縁があって誘われてるんだ」
示された名前にはリヴァルも覚えがある。入学式で壇上にあがり、歓迎の挨拶を述べた女生徒。美人といえる容姿で年齢よりも落ち着いているのに、新入生をほぐす明るい笑顔が印象的だった。好みのタイプだと思ったのも記憶に新しい。
「カルデモンドは?」
「んー実はまだ。高校に入ったらバイトをしようと思ってるんだけど、中学じゃまだ出来ないし。適当に楽なとこ入る予定」
「ここは部活が強制だからな」
「それが面倒だよなぁ。まぁ寮制ってことを考えれば、そうしないと遊び歩くから仕方ないんだろうけどさ」
「エリア11が成立してまだ三年も経たない。預かっている生徒を学園外に出して危険な目に遭わせたくないんだろう」
「でもランペルージって自宅通学だよな。何で?」
「初等部に妹がいるんだけど、足が不自由だから寮では難しくて」
「ふうん、実際は?」
ルルーシュ・ランペルージが侵されることを許さないと分かっていての問いかけだった。昼休み、教室は喧騒で満ちている。聞こえてくる女子の甲高い喋り声、校庭に駆けていく男子の足音、何百という気配、学園という箱庭。笑顔を変えずに、雰囲気を崩さずに、まるで何てことのないように返事はリヴァルへと返された。
「カルデモンドはもう少し賢いと思ってたよ」
穏やかな微笑は携えられたまま。見事だとリヴァルは思った。自分の思考は完全に読まれている。その上での言葉だとすれば、笑ってしまうのも仕方ないだろう。きっと笑う自分さえも予想されている。試されていたのは自分も同じ。
「ボーダー?」
「話してやっても構わないが、それにはあまりに初対面過ぎる。直感を馬鹿にするつもりはないが、試験期間は必要だろう?」
「話すつもりもないくせに良く言うなぁ」
「話すつもりはあるさ。だけどそれは、おまえが使えるかどうかを見極めてからだ。認めた分だけ情報を提示しよう」
「あーやっぱり俺様だ」
呟けば、そこでようやく笑みが変わった。今まで以上に魅力的な、相手を制圧するような、絡め取るような表情には傲慢が良く似合う。
「分かってて近づいてきたんだろう? 見抜いたその目には感心する」
「俺を隣に置いとけば、ランペルージは興味本位の輩を退けられるけど? 俺を媒介に他の生徒と距離を取れる」
「俺の隣に来るのなら、冷静と詭弁、臨機応変の才が必要だ。ボーダーを超えることは許さない」
「メリットは?」
「極上の美人の隣にいれること以上に何がいる? ああ、それと」
唇を綻ばせ、ルルーシュ・ランペルージは目を細めた。
「俺を名前を呼ぶ許可をやろう。おまえのことも名前で呼んでやる。万感の意を込めて―――親愛なる友、リヴァル?」
一瞬の間の後、リヴァルは爆笑した。クラスメイトたちが皆驚いて振り向くけれど堪えられない。腹を抱えて机を叩いて、オレンジジュースがストローから噴き出した。言った本人は涼しい顔で持参の弁当を食べている。あぁ、なんて素晴らしい。
ルルーシュ・ランペルージはリヴァルが想像していた以上に難解だ。そして美人だ。今までの人生の中で最もストライクにはまる好みのタイプ。頷かない理由はない。
「オッケーオッケー! よろしく頼むぜ、ルルーシュ!」
「扱き使ってやるよ、リヴァル。おめでとう下僕人生」
「容赦ねーしっ!」
あはははは、とリヴァルは今度こそ椅子から転げ落ちる勢いで笑った。デザートのチョコレートが落ちたけど構わない。全寮制の煩わしい学校に入っただけの価値はあった。
ルルーシュ・ランペルージとの、親愛なる悪友とのこの出会いは、リヴァルにとって生涯を代表する歓迎すべき出来事となる。
人間は裏表があるから面白いんだろ?
2007年5月14日