Cher Lamperouge
10.すべてを譲渡します





「はじめまして、ナナリー・ランペルージです。これからお世話になります」
琥珀の髪を揺らして、もう一人の主は微笑んだ。腰かけている車椅子は最新式のもので、持ち主の意思を汲んで自由に動くことが出来る。差し出された手を握り返し、ミレイは唇をかみしめた。主だけの意思ではない。最初はそうだったのかもしれない。けれど、今はもう二人の決意に変わってしまった。世界はそれほどに無慈悲に、主たちから幸福を奪っていった。自分は守り人になれなかった。だけど、だけど。
「お傍にいることをお許し下さい・・・・・・ランペルージ様」
歯を食い縛り、ミレイは請うた。玄関ホールで膝を折った。惨めだと思われてもいい。不様だと笑われてもいい。今更何をと拒まれても当然だ。
「信じて頂けなくても、頼って頂けなくても構いません。私たちアッシュフォードがマリアンヌ様を、ルルーシュ様とナナリー様を守れなかったことは事実です。だからこそどうか、ご遠慮なくアッシュフォードをお使い下さい。信頼など、置いて頂けないことは承知しております。ですがどうか、私たちをご利用下さい。使い捨てられても構いません。見返りなど、なくとも」
床に手をついた。主の漆黒の靴が目に入る。傷一つないそれは主が自らの手で手に入れたものだ。ランペルージを名乗るようになって約二年。その財はもはや、アッシュフォードに匹敵する。すべて主が築いたものだ。だからこそミレイには、請うことしか出来ない。己の無力を知っている。仕えることなど、自らの満足でしかない。それでも、それでも。
「見返りなどなくとも構いません。どうか今一度、我らに機会をお与え下さい。今度こそ盾になってみせます。いいえ、盾としてお使い下さい。ランペルージ様のお好きなように」
頭を下げ、ミレイは請うた。独りでなど行かせない。力はいくらあっても良いはずだ。特に、身を守る力は。
祖父は何も言わない。だからこそミレイは、この行いが正しいのだと思った。無様でもいい。プライドなど捨ててしまえ。主のためなら、いくらだって頭を下げよう。
ふっと、笑みが降ってきた。見上げれば、主たちは艶やかに笑っている。
「自ら下僕になると? アッシュフォード様ともあろう御方が」
「爵位を剥奪された今、ただの家に過ぎません。誰に忠誠を誓おうと我らの自由」
「そうですね、けれど信頼することは出来ない」
「十分です」
ミレイも笑った。いささか不格好だったかもしれない。主たちのように美しくはなかっただろう。それでも顔を背けなかったのは、これ以上見失わないため。
主たちは世界を敵と判じたのだ。ならばとことん追及してもらい、疑ってもらい、見張ってもらうしかない。裏切らず力になり続け、そしていつの日か、おまえは立派な部下だったと、そう言ってもらえれば、それだけでいい。

「アッシュフォードは、ランペルージの下に」

ミレイの誓いに、主は笑った。漆黒が美しく輝き、琥珀が愛らしく花を咲かせた。それだけで十分だった。





持てるすべてを、あなたのために。
2007年5月12日