Cher Lamperouge
8.星は流れた





無理を言ってねだり、ミレイは祖父がランペルージ家へ向かうのに同行させてもらった。胸が高鳴って、身体がふわふわして、居ても立ってもいられない。けれどそれも、ランペルージ家に到着するまでだった。
屋敷はかなりの広さを持っていた。男爵はブリタニア爵位の中で最も低いが、それでも見事な邸宅だった。二階建ての屋敷は大きすぎず小さすぎず、庭は青々とした芝生にたくさんの花、木々が風にそよがれて噴水の水がきらきらと光っている。美しい屋敷だった。アリエスの離宮よりも広い、美しい屋敷だった。
「お待ちしておりました、ルーベン・アッシュフォード様、ミレイ・アッシュフォード様。ご当主がお待ちです」
扉を開いたのは背の高いブリタニア人の男だった。振る舞いは執事のそれだが、服装はラフなスーツ姿で、どことなく慇懃無礼な印象を受ける。案内される廊下は調度品よりも花が多く飾られており、趣味の良い内装になっていた。ほう、とミレイは吐息を吐き出す。ランペルージ夫妻はエリア11に来た直後に亡くなったと聞いているが、きっと優しい人だったのだろう。そう思い、ミレイは祖父について廊下を進んだ。応接室もさりげなく豪華に作られており、ソファーひとつ取っても手を抜かれていない審美眼に、感嘆せずにはいられない。けれど、それも扉が開くまでだった。
「ようこそお出て下さいました、アッシュフォード様。私がランペルージ家が当主、ルルーシュ・ランペルージです」
その人は美しかった。ミレイの思い描いたどの想像よりも美しく、麗しかった。漆黒の髪は艶と深さを増し、白皙の肌は透き通るかのよう。紫の瞳は柔らかく細められており、浮かべられている笑みは幼さを残しながらも当主としての品格を感じさせる。ミレイは駆け出したかった。けれど祖父がソファーから立ち上がって床に膝を着いたから、それに習った。深く、深く、叩頭する。
「―――御久し振りで御座います、ルルーシュ殿下」
祖父の言葉に、主はくすりと笑みを漏らす。
「どなたかとお間違えではないのですか? 私はルルーシュ・ランペルージです」
「御身をお助けすることが出来ず申し訳御座いませんでした。その処罰、いかようにもお受け致します」
「どうして私がアッシュフォード様を罰するのですか? 爵位を失われたとはいえ、アッシュフォード様は大侯爵であられた御方です。男爵ごときの私がどうして罰することが出来ましょう」
「ルルーシュ殿下」
「私はルルーシュ・ランペルージです。それ以外の何者でもありません」
かたくなに否定を続ける声。僅かに低くなっているそれも、美しいその姿も、隠せない気品も、すべてが主だと言っているのにそれを否定する。どうして、とミレイは叫びたかった。主たちが皇室から逃げたがっている。その気持ちも行動も理解は出来る。でも、自分たちにくらい打ち明けてくれたって。手足となるべく参じたのだから、どうか秘密を共有させてくれたって。
そんなミレイの心中が聞こえたわけでもないだろうに、主は一言言い放った。それはそれは他人行儀に。それ故にとても、美しく。

「私がルルーシュ・ランペルージでも良いとおっしゃるのなら、お話をお伺い致しましょう?」





どうして、ですか・・・?
2007年5月10日