Cher Lamperouge
6.ころして涙
アッシュフォード家の主は三人いた。そのうち一人はすでに喪われた。守れなかった。残る二人も失われた。爵位を奪われたアッシュフォードの手は、遠い島国まで届かなかった。戦端が開かれ、すぐに終結し、日本がイレブンと名を変えたことで一目散に彼の地へと移転した。そして主たちの軌跡を追った。ブリタニア本国がすでに死亡と認定していても、僅かな希望を抱いて。もう一度、あの漆黒と琥珀の宝石と見えると、信じて。
格子越しに相対した人間の情報を、ミレイは祖父から伝えられていた。枢木スザク。先に自害した日本首相、枢木玄武の息子。そんなものに意味はない。価値があるのは、枢木スザクがアッシュフォードの主たちと親しかったという事実だけだ。だからこそ知っているかもしれない。主たちの行方を。
驚いたように見開かれた瞳が、次の瞬間険しく細まる。向けられる敵意に、ミレイも同じものを返した。親しかったとはいえ、イレブンの主たちに対する態度は度を過ぎていた。買い物に出かける度に殴られたとか、食事に毒を盛られたとか、そんなもの、そんなもの、聞いたときどんなに泣きたかったか。殺してやりたいと思ったか。
「ルルーシュ殿下とナナリー殿下はどこ?」
どこに在られるのですか? お二人ご一緒ですか? お元気ですか? 寒くはありませんか? お腹は減っておりませんか? 聞きたいことは山のようにある。
「・・・・・・知らない。本家に着いて食事を取って、目が覚めたら俺はここに入れられていた」
お守りできず申し訳ありませんでした。もう少し人手を割いていれば、もう少し周囲に目を光らせていれば、もう少し目立たぬよう控えていれば、もう少し、もう少し、やり直したいことは山のようにある。
「ルルーシュとナナリーはブリタニアに帰ったんじゃないのか?」
「とんだ甘ちゃんね。自分たちを負かした国の皇子皇女をそのまま返すと思うの? 加えてお二人は人質としてエリア11に遣わされた御身」
どこに在られますか? 声を張り上げれば届きますか? 許して下さらなくても構いません。ですからどうか、ご無事な姿を、宝石のように輝いていた笑顔を、どうか見せて下さいませ。そのためならどこへなりと馳せ参じますから。どうか、どうか。
もう話すことはない。枝を伝って木から降りると、窓から格子を掴んでがんがんと揺さぶる音がする。見下ろしてくる瞳は懇願していた。ここから出して、と。ミレイは笑い、土蔵を後にする。そろそろ戻らないと怪しまれてしまう。願う声なんて聞こえない。
「―――日本なんて嫌いよ。こんな、御二人に優しくない国なんて」
主たち、どこですか?
探して探して探したけれど、愛しい方々は見つからない。
2007年5月8日