VS 共犯者





アジトからの帰路、当然のようにくっついてきたロイドに、ルルーシュは何度も下手に出歩かないよう言い聞かせた。別に外に出るくらいなら良いのだが、ルルーシュの住まいとしているアッシュフォード学園のクラブハウスは生徒会でも利用しており、そこに所属するカレンにゼロの正体はばらしていないのだから気をつけるように言い、そしてスザクとも決して顔を合わせないよう言い聞かせた。ロイドは笑顔で良い子の返事を返したが、微妙にうさんくさいとルルーシュは思う。けれど捨て置くことは出来ないので、とりあえず連れて帰った。時刻は既に日付を越えており、ナナリーと咲世子を起こさないよう、ルルーシュはそっと玄関の戸を閉じる。
「ナナリーへの紹介は明日だな。もう寝てるからハイテンションな声は上げるなよ」
「了解ですー」
「客間は明日用意するとして、今夜は俺の部屋でいいか?」
「いっそ一生そこでいいんですけど」
「寝言は寝て言え」
ルルーシュはつれなく否定するが、ロイドはそれすらも嬉しくてご機嫌だった。電気をつけずに進んでいる廊下の窓から差し込んでくる月光が、ルルーシュの髪を一際輝かせ、色白の肌を青めいたものに見せている。その様は間違いなく至高の美しさを湛えており、そんな彼を、長年望んでいた主に持てたことにロイドは喜びで一杯だった。
しかし衝撃は、ルルーシュの自室の扉が開かれると共にやって来た。
「遅かったな、ルルーシュ。・・・・・・そいつは何だ?」
パチンと音を立てて電気がついた部屋の中、少女がベッドに転がっていた。明るいイエローグリーンの髪がぱらぱらとシーツに広がっており、大きめのワイシャツの裾と袖口が揺れている。細い足は無造作に投げ出されており、彼女が身を捻ってこちらを振り向くと、太腿の付け根とその奥の白い下着、そして何もつけていない胸の谷間が三つ外されているボタンの間から垣間見える。年の頃は十代後半。表情は乏しいが結構な美少女だと、ロイドが気づけるはずもなく。ルルーシュは手に持っていた鞄を机に置き、C.Cに紹介する。
「ロイド・アスブルンド。元はブリタニア軍人で、白兜の開発者。ブリタニア伯爵の地位を持つ人間だが、今日付けで俺の騎士になった」
「・・・・・・軍人? 大丈夫なのか?」
「左目まで抉って忠誠を誓ったんだ。昔はそれなりの交流もあったし、正体が露見している今、泳がす方が危険だろう」
あぁ、やっぱりそういう考えがあるんだぁ、とロイドはちょっとばかり考えたけれども、まぁ仕方がないかと自らに言い聞かせる。どうやら離れていた七年間で、主はとても警戒心の強い人間に育ったらしい。今までの経験を考えればそれも当然だと思うし、ようはこれから努力して認めてもらえばいいのだとロイドは決意を新たにする。しかし、しかし。
「ロイド、こいつは」
「すみません、主、ちょっとだけ、ちょっとだけ待って下さいー・・・・・・」
今後はC.Cを紹介しようとルルーシュはロイドを振り向くが、それよりも先にちょっと待ったコールがかかる。手を振ってそれを発動させたロイドは、もう片方の手で額を押さえる。さっき抉ったばかりの左目は痛み止めが切れ始め、ずきずきと痛みを訴えている。すなわち夢ではない。夢だったらそれこそ困るのだが、とにかく夢ではない。主の、ルルーシュの、自室のベッドの上に、ワイシャツ一枚で転がっている少女。この現状も夢ではないのだ。つまり、目の前の光景が示唆することは一つ。
「・・・・・・主、もう食われちゃったんですかぁ・・・・・・?」
がっくりとロイドが床に膝をつく。ルルーシュは不可解げに眉を顰めたが、ベッドの上でむくりと起き上がったC.Cがそれを否定した。
「いや、まだ食ってはいない」
「本当に?」
「もう少し私好みに育ててから美味しく頂くのが一番だろう? 今は調教の最中だ」
「あぁもうっ! 主、僕が来たからには大丈夫ですからねぇ! 主の童貞はこのロイド・アスブルンドが守りますから!」
「何の話だ!」
テーブルの上にあった雑誌を丸めて、ルルーシュはロイドとC.Cの頭を叩き倒した。照れよりも複雑そうな顔をしているが、それすら可愛いとロイドとC.Cは心中で同じことを思う。頭の回転は速く性格も捻じ曲がっているというのに、ルルーシュはときどきこうして素顔を覗かせる。それが限られた親しい相手にだけだったからこそ、向けられる側の喜びは大きかった。
「ロイド、こいつはC.Cだ。俺とは共犯関係にあり、黒の騎士団にも出入りしている。軍に見つかると不味いから、そこのところのフォローも頼む」
「恋人じゃないんですかぁ?」
「誰がこんなピザ女と」
「セフレでも?」
「おまえはそれしか頭にないのか!」
雑誌による第二撃が食らわされたが、紙とルルーシュの腕力に大した威力はない。ロイドは形だけ頭を撫でる。
「だって主は17歳ですし、健全な青少年でしょ? それなのに何もないってのはやっぱり不自然ですしぃ」
「まったくだな。ルルーシュ、おまえはどうして私に欲情しない? これだけの美少女なんてそうそういないぞ?」
「おまえみたいな勝手にピザばっかり注文して俺の貯蓄を減らしていくような女に今更欲情しろと? はっ! 冗談も休み休み言え」
それこそ心外だとばかりにルルーシュは吐き捨てる。とにかく、と彼はC.Cとロイドを見比べた。
「C.C、ロイドには今後、俺の右腕として動いてもらう。ロイド、C.Cと俺は契約を結んでいる」
「何についてかお尋ねしても?」
「駄目だ。俺が本当におまえを俺の騎士だと認めたときに話してやる」
「了解しましたぁ。何も聞きません。頑張ります」
ロイドはあっさりと頷くが、C.Cの視線は相変わらず無表情に注がれたままである。ロイドが彼女に向かってひらひらと手を振ると、尚更その視線は訝しげなものに変わった。しかしルルーシュは深い溜息を吐き出し、悩ましげに頭を抱える。
「・・・・・・今日はやけに疲れた気がする」
「僕は人生で最高に幸せな日ですよぉ」
「判った。判ったからおまえも寝ろ。客間は明日用意するから、今日はそこのソファーでいいな?」
「もちろんですけど、主はどこで寝るんですか?」
「ルルーシュは私とベッドだ」
「・・・・・・本当にセフレじゃ」
「だから何でそうなる! 最初はこいつに言われてソファーで寝てたんだが、目が覚めたらベッドにいたんだ! 何度ソファーで寝ても結局はそうなるんだから、最初からベッドで寝た方が早いだろう!」
「何かいろいろツッコミたいんですけど、まぁそれはまた今度の機会にします」
ルルーシュの手を取り、ロイドはその甲に唇を寄せる。
「おやすみなさい、主。明日は一番におはようの挨拶をさせて下さいね」
これからずっと、とロイドが目を細めれば、ルルーシュは眉を顰めて離された手を持ち上げる。躊躇うようにしてそっと包帯に触れた指先は優しく、ロイドは喜色に顔を綻ばせた。
「・・・・・・痛み止めと抗生物質、飲むのを忘れるなよ」
「はい。でも気になさらないでいいんですよぉ? ラクシャータが機能満載の義眼を作ってくれるって言ってましたし」
「分かっている。だが、すまなかった」
包帯越し、触れるか触れないかというくらいの軽い口付けが落とされる。贖罪だとは分かっていたけれども、それだけ愛でてもらえるということがロイドにとっては何よりもの幸福だった。ベッドからC.Cが飽きれた様に声を投げかける。
「おまえたちこそ本当に主と騎士か? 恋人の間違いじゃないのか」
「寝言は寝て言え」
「そうですよぉ。僕は主の騎士です。恋人なんかよりも絆の深い騎士なんですから」
だから今、この上なく幸せです、と蕩けるように笑ったロイドに、ルルーシュは苦笑して毛布と新品のパジャマを放り投げた。自身もさっさとパジャマに着替え、C.Cが転がっている横に身を滑らせる。
「おやすみなさい、主」
「・・・・・・おやすみ、ロイド」
「夢の中でもあなたを守れればいいんですけどねぇ」
「おまえって奴は、本当に」
ルルーシュは呆れたように目を瞬き、手元のリモコンで部屋の電気を落とす。暗闇が満ちる中、瞼を下ろした主に、ロイドはそっと囁いた。

「おやすみなさい、ルルーシュ様。願わくば僕があなたの守り人にならんことを」

夢の中まで追いかけますから、と言って、ロイドはソファーへと足を向ける。まだ開かれたままの黄金の瞳にひらひらと手を振って、ロイドも横になって目を閉じた。
こうして彼の最良であり最高であり、人生のスタートとも言える一日は幕を下ろしたのである。





主、僕ちょっと考えたんですけど、やっぱり主の初めての相手はマリアンヌ皇妃みたいに綺麗で強くて優しくて主を愛してくれる女性がいいと思うんですよぉ!
ロイド、おまえは俺に一体何をさせたい。

2007年3月8日