Yes, my master!





左目を抉り出したままゼロにくっついていたロイドは、出血多量で命が危うくなる前にラクシャータへと引き渡された。医療のエキスパートもである彼女に治療と義眼の作成を依頼し、しばらくしてロイドは顔に包帯をぐるぐると巻いた状態で帰ってきた。トレーラーのソファーでそれを迎えつつ、ゼロことルルーシュは仮面の下で眉を顰める。それほどにロイドの表情は真剣だったのだ。先ほどの子供のような歓声と抱擁が嘘のようで、周囲でめいめいに仕事をしている幹部たちも気になっているのか、警戒を怠らずちらちらとロイドとゼロを注視している。特にカレンと藤堂の視線は険しく、そんな中、ロイドは切り出した。

「あのぉ、僕、あなたのことを何てお呼びすればいいですか?」

何言ってるんだこいつ、という考えが仮面に出ることもないだろうに、ロイドは的確にそれを読み取り、眉を下げて頭を掻く。
「治療の間ずっと考えてたんですけどぉ、お名前をお呼びするのはまずいでしょう? だからどうしようかなーと思いまして」
「普通にゼロと呼べばいいだろう」
「駄目ですよぉ! 僕はあなたの騎士になったんですから! 黒の騎士団だけじゃなくて、私生活でもあなたをお守りするんですよ? だったら、ほら、もっと特別な呼称で呼びたいじゃないですかぁ!」
うきうきとロイドはゼロの右隣に腰かける。いろいろ考えたんですよぉ、と彼は喋り始めた。
「まず無難なところで、陛下、殿下、閣下、猊下、聖下、台下」
「却下だな」
「とおっしゃると思ったんでぇ、軍っぽく隊長、キャプテン、軍曹、曹長、兵長、伍長、尉官のどれか、佐官のどれか、もしくは将官のどれか、それか元帥なんてのは?」
「黒の騎士団は軍隊じゃない。それも却下だ」
「じゃあ上様、殿様、殿、御前、御大、貴殿」
「おまえは私が一国一城の主に見えるのか?」
「立派に主じゃないですかぁ。黒の騎士団の」
しかしお気に召さないのか、ゼロはマントの肩をすくめる。上様ってちょっと良いかもと思ったのは扇で、御大に心惹かれたのは意外にも藤堂だ。
「お頭、頭領、首領なんてのもありますよぉ? もしくは代表、初代、総長とか」
「私は暴走族のリーダーか」
「ちょっと品がないですよねぇ。じゃあ親分、姐さん、ボス、ドン、組長、若頭や代貸、香主なんかも却下で」
「・・・・・・おまえ、よくそこまで考えたな」
「他ならぬあなたのことですから」
考えてる間も幸せでしたよ、とロイドはうっとりと右目を細める。ずるい、とカレンは思った。自分の方がずっとゼロの役に立って戦ってきたというのに、この男は再会してすぐに騎士に収まってしまった。しかもそれが公私に亘ってだというのだから、より一層悔しさが募る。ゼロの素顔を知っているというのもうらやましいし、過去に親しかったという点もカレンはずるいと思わずにはいられない。
「後は国系だと大統領、首相、総書記、王、女王、王子、皇太子、姫、王女、皇女」
「却下」
「個人的には姫とか可愛いと思うんですけどぉ」
「おまえ、軍に戻るか?」
「戻りません戻りませんごめんなさい! えーとえーと後はMr、Mrs、Ms、Herr、Frau、Sir、Mamm、Master、Drなんかもありますよぉ!」
「比較的まともになったな」
「もしくはご主人様、お館様、お社様、旦那様、若、坊、嬢、先生、師匠、教授とか」
指折り数えてロイドは思い出していく。
「後はオーナー、マスター、ロード、ダンディー、ジャック、マドモアゼル、ジェントルマン、レディ、マダム。それくらいしか思い浮かびませんでしたぁ」
すみません、とロイドは謝るけれども、ゼロや団員たちからしてみれば、よくそこまで考えたといった感じである。ディートハルトは顎を撫で、「マスターは良い響きですね」と感想を述べた。そう、とロイドも顔を上げる。
「マスターっていいと思ったんですよぉ! ロードだとブリタニアとかぶっちゃいますしね。でもここは日本ですし郷に入っては郷に従え? ってことで日本語で呼ぼうと思いましてぇ!」
ぱっとロイドは両腕を広げる。

「主(あるじ)っていうの、いかがですか!? 僕の主! いい響きぃ!」

あるじ、あるじ、と嬉しそうに繰り返すロイドに仮面の下で溜息を吐き出し、ゼロは好きにしろと呟いた。何だか大変な騎士を持ってしまったのかもしれない、と彼は少しだけ思うのだった。





主、主、今すぐ紅茶を入れますからねぇ!
2007年3月8日