西の空は夕焼けを隠し、東の空はすでに深い闇。早く帰らないとお母さんに怒られちゃう。村の外れにある の家から、小走りでスフィルは家族の待つ家へと向かっていた。少しの肌寒さを首元のマフラーが遮ってくれる。周囲の木々は風に揺れて音を立てるけれども、ずっとこの村で育ってきたのだからその不気味さにも慣れている。けれど突然かけられた声は、まったく聞き覚えのないものだった。
「スフィル・シューニャ様ですね?」
気がつけば、少し離れた位置に女が立っていた。一本道のこの細い通りに、いつの間に現れたのだろう。不思議に思って首を傾げるけれども、スフィルには答えが分からない。女は初めて見る人物で、村人でないことは確かだった。黒いワンピースが森に溶けるように裾を揺らし、白いエプロンとヘッドドレスだけが月明かりを浴びて輝いている。
「誰、ですか?」
問いかけに、女は唇を吊り上げたようだった。
「篠崎咲世子と申します。どうぞ、S.Sとお呼びください」
「エスツー?」
「世界は再び、戦乱の世へと向かい始めています。今こそあなたという存在が必要なのです。ルルーシュ様の慈愛を受け継いだ、貴い方」
一歩、女が足を踏み出す。徐々に狭められてくる距離に圧迫感を覚えるけれども、スフィルの足は硬直したように動かない。すぐ傍まで来られたことで分かったが、女はとても若く、東洋人の顔立ちをしていた。柔らかく微笑んでいるけれども底が知れない、そんな印象を感じているうちに視線が下へと下がっていく。女が膝を着いたのだ。スフィルに対して、傅くように。そしてその手に、戴くようにして黒い輝きを放つ何かを抱えている。女の紅い瞳が、スフィルを捕らえて厳かに告げた。
「世界があなたを待っています。スフィル・シューニャ、あなたが三代目のゼロです」
月が影を映し出している。森の中、細い小道、スフィルとS.Sと、そしてもうひとつ。漆黒のフォルムは美しい曲線を描き、仮面は主を乞うている。遺された慈愛が終わり、そしてまた人々は争いを始める。愚かなのです。S.Sがそっと、泣きそうな顔で囁いた。スフィルは導かれるようにして、正義の象徴に手を伸ばす。
ゼロの名を冠した瞬間、脳裏に浮かんだのは何故かルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの顔だった。悪逆皇帝とされる、それでも彼女の信じる、優しい人の顔だった。
The end...?
これにてR2最終話派生『The Last Love』は終了です。お付き合いくださりありがとうございました!
2008年10月22日