【「ゼロの嘲笑」を読むにあたって】
この話は、残虐的な描写や気持ちの悪い表現を含みます。どんな話でも大丈夫という方のみご覧くださいませ。
向けられる先がルルーシュですので、今回ばかりはルルーシュ好きの方は止めた方が良いかもしれません。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻りくださいませ。むしろレッツリターン!
▼ 大丈夫です、読みます ▼
ジェレミアの指示でブリタニア軍が撤収していく。遠ざかっていくサザーランド。渦を巻く熱狂、抑圧の霧散。そして始まる、史上最悪のカルナヴァル。
ゼロの嘲笑
コーネリアの扇動を受けて、一般市民たちが我先にと人質を解放するべく飛ぶようにして駆けて来る。トレーラーに次々とよじ登り、群がるように拘束具と格闘する。外れた、という声が徐々に上がり、カレンや扇、シュナイゼルたちの身が自由になった。それは兄の胸に抱きつくようにして泣き伏していたナナリーも同じで、男が足元の鎖を解き、女がその肩を強く握って身を起こさせる。嫌、放して、お兄様。訴えは「ご無事ですか、ナナリー様!」という興奮した声に取って代わられた。溢れているいくつもの涙が見えてないはずもなかろうに、ナナリーの瞳が開かれていることを確認すると、男と女の関心はすぐに足元へと移り変わる。横たわる、悪逆皇帝。男の足が躊躇いもなく、その身体をトレーラーから蹴り落とした。ナナリーの伸ばした手は届かない。
転げ、転がり、落ちていく死体。道路を埋め尽くしていた人々は何かが降ってくることにぎょっとしていたが、その正体を悟ると目の色を変えた。歓喜の歓声が、徐々にその色を変貌させる。蠢き始める憎悪という名の衝動。男が動かぬ手を踏みつけた。また別の男が、黒髪の頭を蹴り上げた。女が笑い声を上げる。子供が「誰、あれ」と母に尋ねる。「あれは悪者よ」と女が答える。視線が死体へと集まっていく。人質を囲んでいた人々でさえも、その足先を一点へと変えていく。何、と神楽耶が眉根を寄せて呟いた。
革靴が、脇腹にめりこんだ。スニーカーが膝を潰す。表しがたい音がして、何千もの人がいるだろうに、小さなそれはとても良く通りに響いた。いくつもの歪んだ笑みが浮かべられ、女の手が白い衣服へと伸びる。血に濡れているのにも構わず引き剥がせば、同時に伸びた無数の手が、衣服をすべて剥ぎ取っていく。まるで毟るように、食らい尽くすように。
誰もの目に狂気が映し出されていた。圧政から解放された喜びが、苦しめた対象への攻撃へと変わる。マニキュアの爪が二の腕に食い込む。明らかに浮かび上がっている肋骨を嘲笑して、子供がその上で両親に言われるままにジャンプした。ぐしゃ。響いた音に拍手が挙がる。上手上手、褒められた子供は嬉しそうにまた飛んだ。肋骨は明らかにその曲線を失った。
「やめて・・・っ! やめなさい! お兄様から離れなさい!」
「どうしてですか、ナナリー様。あれは魔王ルルーシュです。あなたの兄なんかじゃありません」
女が不思議そうに首を傾げる。ナナリーは手を伸ばすけれども、トレーラーの上からでは到底兄まで届かない。周囲を見回しても楽しげに光景を眺める者ばかりで、そのことにぞっとして、自ら兄に向かって這い進み始める。お兄様。けれどそれも、梯子に手をかけたところで「危険ですよ」と男に止められ、強い腕の力に拘束された。
ハイヒールが頬を貫いた。艶のある黒髪が引きちぎられ、脳天の肌色を曝し出す。ほら、と空に舞い散らされた黒糸から誰もが気持ち悪がって身を反らし、けれど唇だけは歪み吊り上げている。入れ替わり立ち代わり人々は場所を譲り合う。腕はすでにいくつもの関節を作り出し、奇妙な形に変形していた。痣の青と血の赤、肌の白が入り乱れて、滑稽な様子に笑い声があがる。星刻が天子の瞳を塞いだ。駆け出そうとするカレンをジノが押さえる。人は集団となることによって、その残虐性を開花させる。藤堂は目を瞠り、繰り広げられる残虐な宴に立ち尽くしていた。わしにもやらせてくれ。老人の声にそっせんして道が開けられ、歩み出た腰の曲がっている男は、そうれ、と明るい掛け声をかけて脚代わりの杖を高い位置からまっすぐに落とした。紫の目が潰れる。おおっと褒めたてるような歓声があがる。
「やめろ! 死者にも尊厳はある!」
「尊厳、この男に!? こいつは悪魔だ! 散々俺たちを苦しめたんだ、これくらい当然だろうっ!」
コーネリアにすら言い返し、一般人たちは死体を弄び続けている。すでに黒髪はなくなっていた。耳も引きちぎられ、何かも分からない器官が目に見えている。鎖骨は砕け、肩は潰され、アスファルトで磨り潰された腕は骨の厚さすら保っていない。指は半数失われている。下肢は特に嬲られていて、股間を踏みつけた若い少女が万歳するように両手を挙げた。足首は逆の方向に曲がっていて、肌はすでに僅かしか見えていない。血に塗れ、傷に溢れ、泥に汚れ、肉が覗き、骨の白が場違いなほどに輝いている。すごい、すげえ、驚嘆がいくつも上がり、もっとやれ、もっと酷く、欲望がいくつも飛び交う。カルナヴァルは熱狂的に盛り上がり、助けられた人質たちが茫然と崩れ落ちるまで続けられた。
詰られ、嬲られ、この世の残虐な行為のすべてをし尽くされた肉体は、もはや死体と呼ぶことすら不可能になっていた。塊。そう、表現するしかないだろう。腕も足も失われ、胴体に頭だけが辛うじてついている、そんな奇妙な物体を、人々は息を切らしながら見下ろしていた。満足だ。瞳だけはぎらぎらと光を滾らせながら、それでも表情は満悦している。これで最後だと男が言い放ち、火のついたままのライターを塊に向けて投げつけた。肉の焦げる音が立つ。鼻を捻じ曲げるような臭いすら、人々を興奮させることにしかならない。煙が上る。
ようやく意識を戻した人々は、首をめぐらせてひとつのトレーラーを見上げ始める。その瞳にはもはや燻る塊など目に入っておらず、ただ漆黒のマントだけを唯一とするかのように讃えている。ゼロが己の腕を振り、長いマントを翻した。それだけの仕草に歓声が上がる。先ほどとは真逆の、光に溢れた民衆の歓喜が。
「人々よ! 我を恐れ、求めるがいい! 力ある者が理不尽な行為を行う限り、私は何度でも現れる! 我が名はゼロ―――世界に対する反逆者である!」
拍手が、喝采が、すべてを染めるかのように沸きあがる。もはや人々は足元の何にも関心を寄せない。ただ、ナナリーだけが震えながら、兄の遺体だったものに手を伸ばした。届かない。涙がぼろりと、紫の瞳から零れ落ちる。彼が命を懸けて守った世界は、人々は、こんなにも、こんなにも。
あのラストだと、こういう可能性も無きにしも非ずかと思いまして・・・。
2008年10月2日