【「噺に五つの鳥が鳴く」を読むにあたって】
この話は、R2第23話「シュナイゼルの仮面」のネタバレを含みます。ネタバレが嫌な方はどうかご遠慮ください。
五個目の話はジノに厳しいので、どんな話でも大丈夫という方のみご覧くださいませ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻りくださいませ。むしろレッツリターン!
▼ 大丈夫です、読みます ▼
よくぞご無事で! / ルルーシュとジェレミア
「ジェレミア。おまえ、戦艦からアッシュフォード学園の敷地に飛び降りて骨折するどころか無事に着地してみせたそうだが、一体高度何メートルまでなら飛べるんだ?」
「このジェレミア、ルルーシュ様が望まれるのでしたら大気圏外からでも飛び降りましょう!」
(陛下、きゅんとするの巻)
次回23話の15秒予告より / カレン
何重にも重なるブリタニア軍を突破して、ようやくカレンは皇帝の座すアヴァロンへと紅蓮聖天八極式を打ち込んだ。空と繋がった廊下に暴力的な風が吹き、目の前の相手の衣服を巻き上げて揺らす。ルルーシュが、そこにいた。神聖ブリタニア帝国第99代皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。簒奪者。革命者。正義の皇帝。悪虐皇帝。紅蓮の輻射波動を、生身の身体に突きつける。ルルーシュさえ殺せば、この戦乱に終幕が訪れるのだ。殺せばいい。今、ここで。そのためにカレンはナイトメアフレームを駆ってきた。スイッチを押せ。輻射波動を放ち、彼の身体が膨張して弾き飛んで空へと還るのを見送ればいい。それだけですべてが終わるのだ。ルルーシュ。ゼロ。ルルーシュ。カレンの愛した、いとしい人。
「出来ない・・・っ!」
気づけば操縦桿を握る手が震えていた。声が掠れていた。頬を大粒の涙が伝っており、そのままに紅蓮のコクピットへと落ちていく。モニターの向こう、ルルーシュがいる。真っ白な衣服に身を包み、風に煽られながらも毅然とその場に立っている。眼差しはたじろぐことなくカレンを見上げていた。美しい瞳だった。その目に見つめられることが喜びであり、秘密を共有することが幸せであり、剣となれることが誇りだった。カレンのすべては、ルルーシュに直結していた。
「駄目・・・あたしには、殺せない・・・っ・・・殺せない! 嫌! 嫌よ! どうして、どうしてっ!」
覚悟を決めてきたつもりだった。世界を悪で制そうとしている彼を止めることが、もはや己の義務のように感じていた。手にかけるつもりだった。その意志を固めてきたつもりだった。それでも、いざ相対してみれば心は感情のままにカレンを泣かせ、恋が涙となって溢れ出てくる。殺せない。殺さなくてはならないというのに、殺せない。不可能を自覚してしまった瞬間、カレンは戦士でなくなった。
『ルルーシュ、無事か!?』
割り込んできたピンク色の機体が、紅蓮の右腕を振り払う。ルルーシュを背に庇うようにして現れたパイロットの声は、カレンも知るC.Cのものだった。今もなお、彼女はルルーシュと共にいるのだ。カレンの望んだ、その位置に。
ランスロットの向こうに、ルルーシュがいる。気高い瞳を和らげて、彼は寂しげに微笑んだようだった。それはあたしに向けて? 願ってしまったカレンはただの、恋をしている女の子だった。
(あなたがわたしを弱くした。)
優しき棺 / ルルーシュと蜃気楼
蜃気楼のカラーリングを変えようかという提案がなされた。もともとは黒の騎士団で開発された機体であり、それにブリタニア皇帝が乗ることから印象を一新したいという狙いがあったのだろう。けれどもそれは、当のパイロットであるルルーシュによって却下された。黒でいいのだと、彼は己の機体を見上げて言ったのだ。
「蜃気楼は、ロロの棺だ。この機体に乗る度に、俺はロロを思うだろう。そしてひとりではないことを改めて知る」
「確か、陛下につけられた機密情報局の監視役でしたっけ?」
「弟さ。ロロ・ランペルージ。嘘吐きのルルーシュ・ランペルージを愛してくれた、唯一の弟だった」
黒光りする鋼に、制服を思い出す。輝く金色の縁取りに、ハート型のロケットを思い出す。所々の赤にギアスを思い、そのすべてが弟になぞらえることが可能で、ルルーシュを柔らかな微笑に導く。
「それにしてもこの機体のドルイドシステム、相当のものですよぉ! 攻撃においても防御においても、かなりの難解な演算が瞬時に必要! ランスロットとは別の意味でパイロットを選ぶ機体ですねぇ。その点では不本意ですけど、陛下の機体にドルイドシステムを搭載したラクシャータの判断を認めざるを得ないですよ」
「俺は運動神経で劣っているからな。こういった、頭脳で補うタイプじゃないと軍人とは互角に戦えない」
「十分に素質はありますって! もともと『閃光のマリアンヌ』の血を引いてるんですから」
「さぁ、どうかな」
首を傾げて手を伸ばす。指先から掌底へと伝っていく、冷ややかな感触。数多を破壊するナイトメアフレームであっても、ルルーシュには大切に思えて仕方がなかった。ロロの魂が、蜃気楼に残されている。そうとすら感じる、加護。色はやはり黒だ。変更はしないと、ルルーシュはロイドに向けて強く断言した。
(兄さん。大丈夫、僕がいるよ。)
シュナ様ですから。 / シュナイゼルとスイッチ
「はい、ぽちっとな」
(ナナリーが押しそうなタイミングで、本物のフレイヤの発射スイッチを押してそうだなぁ、と。)
正義の在り処 / ジノとシュナイゼル
第99代ブリタニア皇帝ルルーシュを葬った後、ダモクレスを上昇させたシュナイゼルは、そのままフレイヤを世界各地の紛争地域に向かって射出した。瞬く間に伝えられる、国家崩壊の報。EUと中華連邦を中心とした巨大都市、そして何より日本。それらにシュナイゼルはフレイヤを落とし、街をすべて更地に変えた。映った東京は、すでに跡形もなかった。本当の日本奪還だと喜び、これからの未来を喜んでいた黒の騎士団も、何もかも。別れの際に紅蓮の前で手を振っていたカレンさえ面影はなく、ただ穴の開いた大地だけがジノの目に映った。これが、シュナイゼルによる統治か。許されることではない。
「嫌だ、駄目だ、違う、良くない。そんなことばかりを繰り返して、君は愚かだね、ジノ・ヴァインベルグ」
柔らかにシュナイゼルは語りかける。その手はブリタニア皇帝とその騎士さえ討ち、今は世界を手中に収めている。穏やかで賢い男だ。少なくともジノはそう思っていた。今の、今まで。
「否定なら誰だって出来る。問題なのは、そこから創造していく力だ。それは駄目だから、こうした方がいい。こうするために、自分はこう動く。そういった努力を君はまったくしていない。ナイト・オブ・ラウンズともあろう者が嘆かわしいよ」
「な・・・っ」
「ジノ、君は父上―――シャルル皇帝に取り成されて、ナイト・オブ・スリーの席を手に入れたね? だから私が父上に反逆を企てたとき、君は反対した。正しい行為だよ。ブリタニア皇帝に忠誠を捧げているのなら。しかし君は次の皇帝に就いたルルーシュにも反意を示したね? そこに一つ目の矛盾が生じる。そのことからも、君がブリタニア皇帝に従っていたわけじゃないことは明らかだ。ルルーシュは自ら名乗ったとはいえ、記録上は正式なブリタニア皇帝だったのだから」
「私は! 私は、彼がシャルル皇帝を殺したからこそ、その行いを許さなかった!」
「そこに二つ目の矛盾が生じるよ。君はルルーシュが父上を殺して玉座に就いたから、彼の名乗りを認めなかった。それなら不思議だね、どうして君は黒の騎士団に籍を置いたのだろう。黒の騎士団は、記録上とはいえ正式なブリタニア皇帝に対する反抗組織、いわばテロリストだ。テロリストが皇帝を討ったら、それもまた弑逆だろう? 君が認めなかったルルーシュと同じ、忌まわしき行為ということになる」
不思議だね、とシュナイゼルは手元のスイッチをなぞる。飾り気の無いそれは、女神を降臨させるための呼び鈴だ。優しげな所作はジノの命すら掴んでいるようで、その行動にぞっとする。
「君はルルーシュを否定するために、黒の騎士団についた。そして今、ルルーシュと枢木スザクが死に、覇権は私の手の中に転がり落ちてきている。しかし君はまた、私を否定した。かつて私を否定したように、ルルーシュを否定したように。ジノ、君は何を望んでいるんだい? ビジョンが明確に見えないよ。子供の駄々に付き合ってあげられるほど、私も世界も暇ではなくてね」
「シュナイゼル殿下! あなたのしていることはルルーシュと何ら変わらない! 世界を武力で制圧するなど、断じて許される行為ではない!」
「じゃあ誰が玉座に就けば、君は享受するのかな? ナナリーかい? でもあの子も、フレイヤのスイッチを押しているんだよ。自覚があったにせよ無かったにせよ、指先ひとつですでに何十万もの人間を殺しているんだ。そんな人物を、君は皇帝に据えることが出来るかい?」
「・・・・・・っ」
「今更だけど教えてあげよう。ジノ、君の描く理想の平和に一番近いものを描いていたのは、君が断罪したルルーシュだよ。あの子と枢木スザクは、自らを悪とすることすら厭わず、世界の再建を実現させようとしていた。だけど君は何も知らずにただ彼らを否定し、そして殺した」
「そんな・・・」
「君はルルーシュの何を知って否定したんだい? そして君は、私の何を知り肯定したのかな? その目は、耳は、身体や頭は飾りかい? だとしたら悲しいね。ジノ・ヴァインベルグ、君はとても愚かだ」
シュナイゼルの手のひらが上がる。それと同時に周囲の壁がぱかりと開き、無数の銃口がジノの身体へと向けられた。愕然と顔色を失くしたジノに、ただシュナイゼルは穏やかに微笑み続ける。それすら仮面だったのかと、ジノは最後の最後で気がついた。
「理想の実現を他人に任そうとした時点で、君の人生は決まっていたんだよ。願わくば、次の人生では君も己の主役とならんことを」
パァン、といういくつものを音をジノは意識の外で聞いていた。手を、足を、脳を、心臓を、小さな弾丸が貫いていく。崩れ落ちていく視界の中、シュナイゼルは優雅に佇んでいた。彼は世界を足蹴にしている。今後人々がどこに導かれていくのか、ジノにはまったく分からない。ただそれは、酷く地獄に似ているだろう。すまない。そんな呟きを最期に、彼の人生は絶えた。
(ジノの行動には些か疑問が残るので・・・。)
2008年9月15日