【「優しく生きたかったね」を読むにあたって】

この話は、R2第21話「ラグナレクの接続」のネタバレを含みます。
ネタバレが嫌な方はどうかご遠慮ください。どんな話でも大丈夫という方のみご覧くださいませ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻りくださいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼












































父と母、その魂を永劫消し去り、手にした玉座は酷く堅く、そして泣きたくなるほどに優しかった。夜毎に夢に見る。大切だったのだと、愛していたのだと言ってくれた。否定したけれども、それは真実だったのではないかと。ナナリーを含めて家族四人で手を繋ぎ、笑いあう未来。渇望していた未来がラグナレクの先にあったのではないかと。そんな後悔を夢に見ては目覚め、闇の中で絶望を覚える。それでもひとりではないから、やっていける。
闇の中、振り返ることを許さない存在がいるから、やっていける。





優しく生きたかったね





皇帝業というのは、案外簡単なものだ。拍子抜けするほどのそれは、ルルーシュに僅かながらの失望と安堵を抱かせる。けれどその平穏は、現在のブリタニアがどこにも侵攻していないからだろう。姿を消したままの第二皇子シュナイゼルと第二皇女コーネリア。彼らの沈黙が何を意味しているのか想像がつくからこそ、ルルーシュはこの退屈な時間を極力活かさなくてはならなかった。やるべきことは山積みだ。そしてそれは皇帝業などではない。
「この度は皇帝陛下へのご就任、心よりお祝い申し上げます。加えまして、こうしてお目通りの機会をお与えくださいましたこと、深く感謝申し上げます」
広い玉座の間で、ビロードの絨毯に神楽耶が膝を着いている。下げられている頭は許しなく上げることは不可能で、彼女の長い黒髪の先は絨毯と触れ合っていた。玉座についているのは第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアで、その横に立つのはナイト・オブ・ゼロの称号を得た枢木スザク。左右の壁には衛兵が並んでいるけれども、他の皇族の姿は見られない。黒の騎士団との停戦条約を結んだのはシュナイゼルとはいえ、それは今も守られているため、彼らは皇帝への接見を申し出ていた。もちろんルルーシュが許したからこそ設けられた場である。神楽耶の背後には扇とカレン、星刻とジェレミアがいた。
「面を上げよ」
ルルーシュの眼差しを受けて、スザクが言い放つ。神楽耶が緩やかに上半身を起こした。扇は躊躇しながら顔を伏せ、カレンは歯を食いしばっている。星刻の眼差しは厳しく、ジェレミアの表情には歓喜が浮かんでいる。それらを冷ややかに眺め、ルルーシュは足を組み替えた。
「して、超合集国最高評議会議長がどのような用件か。我がブリタニアは政権交代を果たした直後ゆえ忙しないのだが、そこもとはそれを理解しているのだろうか」
「存じております。このような申し出、皇帝陛下におかれましては御不快になられるかと思いますが、どうかわたくしたちの訴えをお聞き届けください」
「言ってみろ」
「・・・・・・エリア11を、日本を、我ら日本人の手に戻していただきたいのです。かの地におけるブリタニア軍の撤退と、政治への不干渉を、どうかお願い申し上げます」
深く、再度神楽耶が頭を下げた。額が床に着くほどに下げられたそれは、土下座以外の何物でもない。神楽耶の背が伏せられたことで扇の視線がルルーシュと重なり、彼も慌てて頭を低くする。毅然と顔を上げたままのカレンと星刻を順番に見やり、ルルーシュは小さく肩を竦めた。
「面白いことを言う。我が国が自力で得た植民地を無償で手放せと、おまえたちはそう言うのか?」
「・・・・・・出来ることならば、何でも致します。金銭で片が付くのなら、未来永劫払い続けることも厭いません」
「国民を金で買うか。なるほど、素晴らしい施政者だな」
嘲笑に神楽耶の肩がぴくりと震えた。扇が堪えきれずに顔を上げて玉座を睨み付ける。
「俺は・・・っ・・・俺たちは、おまえが何をしてきたかを知っている! それをばらされてもいいのか!?」
「不思議なことを言う。俺の何をおまえたちが知っている? そしてそれを公にしたところで、一体何が変わるんだ? ブリタニア皇帝への反逆と見なし、エリア11への弾圧がより一層酷くなるだけだろう」
「・・・っ!」
「言葉を慎め。皇帝陛下の御前であるぞ」
スザクが一歩足を踏み出し、その手を腰元の刀へと触れさせる。カレンが僅かに足に力を込めて、いつでも動けるように態勢を整えた。神楽耶が悲しげに眉を顰めたのが印象的で、ルルーシュはふっと唇を緩める。
「そもそも願い出れる傲慢さに感心するよ。黒の騎士団はシュナイゼル兄上と密約を交わし、戦闘を中止している。ならば現在行方知れずのシュナイゼル兄上を匿っているのもおまえたちだろう? 返してはくれないか? 兄上はブリタニアにとって必要な方なんだ」
「わたくしたちはシュナイゼル皇子とは何の関係もございません」
「ほう? それではこうしようか。シュナイゼル兄上とコーネリア姉上、お二人をブリタニアへと連れ戻してくれたなら、エリア11を日本に返してやってもいい」
「・・・・・・売り渡せと仰るのですか?」
「得意だろう? 人身御供は」
くくく、とルルーシュが喉を震わせれば、神楽耶の顔が強張った。扇はすでに顔色をなくしており、その様は気の毒なほどとなっている。ルルーシュが小さく手を上げれば、壁際に並んでいた衛兵が二人やってきて、扇を両脇から引きずり上げる。
「具合が悪いようだ。介抱してやれ」
「なっ・・・や、やめろ! 放せっ!」
「心配しなくとも、尋問などはしやしないさ。進んで喋ってくれるのなら拒みはしないが?」
「・・・・・・すまない! 俺が悪かった! だから、ゼロ・・・っ!」
「連れて行け。おまえたちも下がってよい」
「「「Yes, Your Majesty!」」」
一糸乱れぬ敬礼をし、扇を引きずってすべての衛兵たちが玉座の間から出て行く。停戦条約を結んでいるとはいえ、敵である神楽耶たちを残して衛兵が去るのは考えられない。さっと見上げたルルーシュの瞳はすでに紫に戻っていたが、星刻は忌々しげにその両目を睨んだ。
「・・・・・・それがギアスか」
「知っているなら話が早い」
「その力でわたくしたちを操ったのですか? ゼロの起こした奇跡はすべて偽りであったと?」
神楽耶の問いかけにルルーシュはきょとんと瞳を丸くし、隣のスザクを仰ぎ見る。少しばかり視線を交し合った二人は、同じような所作で仕方なさげに肩を竦めた。
「シュナイゼル兄上は、相変わらず一部の利用できる情報しか提示していないらしい」
「あの方らしいね」
「まったくだ。知らないのなら教えてやるが、俺のギアスは絶対遵守の命令を下せる代わりに、ひとりに対して一回しか使用できない。つまり一度命令を下した人間に、二度目は不可能ということだ」
神楽耶と星刻が怪訝そうに眼差しを険しくする。
「ここにいるスザクには、すでに『生きろ』というギアスをかけている。カレンには、随分と前にアッシュフォード学園で使用した。『何故テロリストに属しているのか』という問いかけに答えろという命令だった」
「まさか、あのとき・・・!?」
「続けて命じた『シンジュクのことは何も言うな』や『教室に戻れ』という言葉には、カレンは従わなかっただろう? それに証明されるように、俺のギアスは一人に対し一度しか使えない。最も、そこにいるジェレミアのキャンセラーによってリセットされれば、その回数は無限になるが、それすなわち永続的な命令は下せないということでもある」
玉座からルルーシュはジェレミアを見る。絶対的な主としていたルルーシュが皇室に、しかも皇帝に返り咲いてくれたことが歓喜なのだろう。表しがたいほどの喜びを浮かべ、ジェレミアはルルーシュを見つめている。そんな相手にルルーシュは柔らかく微笑みかけた。
「久しいな、ジェレミア。先は置いていく形になってしまい済まなかった」
「いいえ、我が君! ルルーシュ陛下の御身がご無事で何よりです」
「戻ってすぐで悪いが、今ここにいる全員にキャンセラーをかけてほしい。論より証拠、自分たちの懸念は自分たちで解くのが良かろう」
「Yes, Your Majesty!」
ジェレミアが立ち上がり、そして気づいたかのようにスザクを見やる。その意味するところを理解したのか、ルルーシュは頷いた。
「構わない。やってくれ」
「はい。いきます」
ジェレミアの機械の目が小さな音を立てて開閉し、逆さの紋章が赤く輝いて周囲を染める。ギアスをかけられていない神楽耶や星刻に変化はなかったが、玉座の隣に立つスザクの両目が赤く輝き、緩やかにその色を失っていく。僅かの間の後で瞼を伏せ、彼は安堵したように深く息を吐き出した。
「何か違和感は?」
ルルーシュの問いかけに、神楽耶は首を横に振る。星刻も己の手を見下ろした後に、いや、とだけ応えを返した。ルルーシュは足を組み替えて姿勢を楽にし、話を続ける。
「そもそも俺は黒の騎士団の面々にギアスをかけたことはほとんどない。使用したのは、主に敵に対してだ。それだって行動を強いるだけで、心を変えようとしたことは決してない」
「それでは、ユーフェミア皇女の件は・・・?」
「あれは事故だった。ルルーシュに日本人を殺す意志はなく、ユフィにもそのつもりはなかった。ギアスがその威力を増した際に起きた、忌まわしい事故だったんだ」
答えたのはルルーシュではなく、スザクだった。きつく拳を握り締めていたけれども、その険しい表情の中に殺意は見られない。ルルーシュも瞳を伏せることなく、そのままの態度でスザクの隣に座している。彼らの間にあった理解と不理解による憎しみを知っていたカレンは、その様子に目を瞠った。彼らは並び立っている。銃を向け合うことなく、互いの隣に立っている。
「それでも俺がギアスを行使してきたことは事実だ。そして日本の再建が第一の目的でなかったのも事実。俺は俺の目的のために黒の騎士団を、世界を利用した」
「目的とは何だ」
「俺が、俺の大切なものを守ることの出来る世界を作りたかった。大切な人が笑っていてくれれば、それだけで良かったんだ」
柔らかく細められた瞳に、神楽耶が息を呑む。とても些細な私憤によって始められた反逆が、ここまで増大し、世界を席巻しようとしている。今更ながらに恐ろしくなって、彼女の着物の下の肌が粟立った。
「しかしその世界を実現することは、もはや許されない。俺たちは次の段階へ進まなくてはならなくなった」
ルルーシュが足を解いて立ち上がる。スザクの横に並び、彼らは高い位置から神楽耶たちを見下ろした。かつて漆黒の衣装ばかりを身にまとっていたけれども、今の彼は白く飾りの多い華やかな礼服に身を包んでいる。鮮やかで美しかったけれども、何故か似合わないと星刻には感じられた。本人もそれを了承した上で白を纏っているのだと、そう感じられた。
「今後は、俺とシュナイゼルとの戦いになる。おまえたちは黙って見ていればいい。構っている余裕はないし、正直下手に動かれると邪魔でしかない」
「シュナイゼル殿下に勝利して、どうするというのです。あなたはもはやブリタニア皇帝なのに」
「善悪は表裏の紙一重だ。だからこそ嘘のない世界を父上は求め、そして俺はそれを否定した。けれどそれは仮面ばかりの世界を肯定したわけではない。善意の裏に悪意がある、そんな世界を俺は認めない。シュナイゼル兄上の作る、そんな世界は」
ルルーシュが片手を持ち上げて、己の瞳の前に翳す。ぎくりと神楽耶は息を呑んだけれども、その瞳が紅に輝くことはなかった。ただ長い前髪を払い、強く光を放ちながらルルーシュは場を見据えている。
「シュナイゼルの行動には、必ず表と裏がある。ユフィの行政特区日本がそうだ。あれはいくつもの効力を携えていた。不遇を訴える日本人の限定数とはいえ救済、それによるブリタニアへの忠誠の増大。黒の騎士団を無力化すると同時に、ユフィ自身の皇位を奪取。難題を残したまま開始された特区の崩壊は目に見えていた。けれどシュナイゼルはそれを支持した。何故か? 特区が失敗しても、シュナイゼル自身には何ら傷が付かないからだ」
スザクが苦しげに唇を歪める。それでも彼は剣に手を伸ばさない。
「俺がゼロであることを明かしたのもそうだ。ゼロがブリタニアの皇子であり、ギアスという異能を用いていたことを黒の騎士団に明かした行為、あれにもいくつもの効力が秘められている。何より黒の騎士団の瓦解。自ら手を下さずとも、俺を、ゼロを、ギアス所持者を、第十一皇子を葬り去れる。主軸を失った黒の騎士団など、シュナイゼルの前では赤子も同然だ。黒の騎士団を内に取り込み、それすらも自らの戦力とする。いっそ見事なほどに善意と悪意が同時に存在している。それがシュナイゼルという男だ。シュナイゼル・エル・ブリタニア。俺が最も怖れた、愛しの兄上」
「・・・・・・だから、シュナイゼルを殺すというのか? それではあまりに単純すぎる。第一、ギアスを用いて国を支配していては、いずれ破綻を来たすだろう。そのときおまえはどうする?」
「いい質問だ、星刻。俺は世界を作ってみせる。押し付けの唯一も、紙一重の善悪も、人智を超えたギアスもない、人の世界を。他人に優しくあれる世界を作る。それが俺の望みだ」
「『俺たちの』、だろ? ルルーシュ」
「ああ。そうだな、スザク」
言い直された言葉にルルーシュが振り向き、スザクと共に笑いあう。その様子はあまりに自然だった。さも当然のように二人は立ち並んでいたけれども、告げられた内容はつまり、彼が玉座を辞するということでもあった。シュナイゼルを葬った後に、ルルーシュは自らも皇帝を退くのだろう。ギアスのない世界というのは、そういうことだ。突き詰めて言えば、彼らは自らを殺すことで新たな世界が作れるのだと、そう語っている。
「やめてよっ!」
カレンが泣き叫ぶようにして立ち上がった。拳はきつく握り締められており、その顔は堪えるようにして歪んでしまっている。いや、と緩く首を振って、カレンは訴える。
「あんたたちが死んで、それでいいと思ってるの!? 遺されるあたしたちはどうなるのよ! あんたたちが作り上げた、あんたたちのいない世界で、のうのうと生きていけって言うの!? ここまで来て!? そんなこと出来ると思うの!?」
「ごめん、カレン。だけど僕たちは今まで自分のしてきたことの責任を取らなくちゃいけない」
「死んで取れる責任って何! 生きてこその贖罪でしょ!?」
「・・・・・・ありがとう」
スザクが礼を告げると、茫然としたようにカレンの瞳から力が抜ける。ルルーシュは自ら段差を下り、神楽耶の前に降り立った。膝を着いたままだった彼女に手を差し伸べ、立つように促して、その両手を握る。真意を探るようにして見上げてくる神楽耶に、ルルーシュは優しく微笑みかけた。
「俺たちとシュナイゼルがいなくなれば、エリア11はきっと日本に戻るだろう。そのための手筈は整えていく」
「・・・・・・わたくしたちに、お手伝い出来ることはないのですか?」
「ああ、ない。今まですまなかった。だからこそ最後くらい、俺たちに贈らせてくれ」
「ゼロ、様」
ぽろりと神楽耶の目尻から零れた涙を、ルルーシュは苦笑しながらも指を添えて拭い去る。そのまま頬を滑らせるようにして髪をすき、優しく引き寄せた額に唇を落とした。ゼロ様、と再度囁いた彼女からゆっくりと身を離し、今度はその後ろに立つ星刻と向き直る。
「おまえにはとんだ迷惑をかけてしまったな。ゼロがいなくなって、さぞかし黒の騎士団は動かし辛かっただろう」
「まったくだ。どうしておまえは何度も勝手に去ろうとする」
「性分なのかもしれない。基本的に自分のことしか考えられないんだ。だからこそいつも、周りが見れなくて痛い目に遭う」
「・・・・・・力には、なれないのか」
「俺たちが去った後を頼む。ブリタニアが弱体化することで、世界はまた割れるだろう。そこを何とか抑えてほしい」
「おまえは相変わらず、厄介なことばかりを私に押し付ける」
「頼りにしてるのさ。星刻、おまえは俺が認めた男だから」
手袋を外して差し出された手を、星刻は同じようにして握り返した。ゼロだったときの方がより多くの言葉を交わしたけれども、それでもこうして触れ合うのは初めてだ。体温を分け合っているからこそ心を感じられているのかもしれないし、それだけ素を曝しあっているのかと思うと、面映いと同時に後悔も襲ってくる。どうして自分は彼の負担を軽くすることが出来なかったのだろうと、星刻は今更ながらに感じた。それでもルルーシュは笑いかけ、握っていた手を放す。
「カレン」
そっと近づけば、項垂れていた肩がびくりと震える。それでも顔を上げることはなく、ルルーシュは苦笑いをしながらカレンへと手を伸ばした。指先を握ろうとすれば、それはパンッという音を立てて弾かれる。勢いよく髪を振り乱して、カレンはルルーシュを見上げた。その頬にはすでに涙がいくつも伝っていて、ルルーシュはその悲壮に瞳を細める。
「あなたの騎士に、なりたかった・・・っ!」
訴えはとても愛に満ちていて、ルルーシュはそっと微笑を浮かべる。
「あなたの、騎士になりたかった! あなたを守りたかった! すべてのものから・・・っ・・・心も、身体も、守りたかった! 守ってあげたかった! あなたの・・・ゼロの、騎士に、なりたかった・・・っ!」
「カレン」
「泣かせたくなかった! あなたの、一番の理解者になりたかった! そんな決意をさせるためなんかじゃなくて・・・笑って、いて、ほしかったの! 笑っていてほしかったのよ! ルルーシュ、あなたにずっと!」
泣きじゃくる腕を引っ張って、その身体を抱き締める。胸に顔を埋めるようにして涙するカレンを、ルルーシュは痛ましいものを見るかのように見つめていた。ずっと尽くしてきてくれた彼女に向かい、万感の意を込めて囁き返す。
「ありがとう、カレン。君はずっと騎士だった。ゼロという存在の、唯一の騎士だったよ」
まだ涙の止まらない目元に口付けて、その身を離す。縋るように離れない指先を一本一本丁寧に剥がし、ルルーシュはカレンに背を向けた。階段を上り、再びスザクの隣に立つ。パン、と両手を叩いて、彼は鮮やかに笑ってみせた。
「散会だ。次に会うときは、戦いのない来世で」
それは、酷く切ない別れの言葉だった。



神楽耶とカレンと星刻を扇と一緒に帰らせ、ジェレミアはブリタニア軍へと復帰させた。彼のキャンセラーは、ルルーシュとスザクがこの世界を去った後にどうしても必要なものなのだ。皇族たちにかけたギアスを解いてもらわなくてはならないし、そうでなくては新たな世界は立ち行かない。ルルーシュを第一とするジェレミアに、自分よりも長く生きろと納得させることは手間取るだろうな、とルルーシュは考えていた。
「顔色が悪い。あまり寝てないんじゃないかい?」
「・・・・・・夢見が悪いんだ。いい加減、この神経の細さにうんざりする」
はぁ、と溜息を吐き出して、ルルーシュはテーブルの向こうのスザクを見る。感覚的に分かる。すでに、彼にかけた「生きろ」というギアスはその効果を失っている。それはスザクの希望だったので、ルルーシュは受け入れていた。
「良かったのか? あのギアスは少なくとも、おまえを戦場で死なせない役には立てた」
「それでまたフレイヤを発射しろって? 冗談じゃない。どうせ撃つことになるのなら、今度は僕自身の意志で引き金を引きたい」
そうすれば少なくとも責任を背負おうと思うことが出来る。スザクは静かにそう言って、手にしていたクッキーを口に運んだ。
「シュナイゼル殿下は、来るかな」
「必ず来るさ。兄上は俺や父上と似ていて、そして正反対だ。だからこそ、必ず来る。善意という名の悪意を携えて」
「それを葬ってようやく、僕と君は責任を取ることが出来る。自分のためだけに世界を傷つけてきた、その責任を」
諦観というには悲しみと喜びを含んでいる笑みを浮かべあって、ルルーシュとスザクはそれぞれの紅茶のカップを持ち上げる。
「感謝するよ、スザク。おまえという同志がいるからこそ、俺はまだやっていける」
「僕こそ。最期に見るのが君の顔かと思うと、ぞっとするけどね」
「俺もだ。それでも未来が、優しいものであればいい」
「他人にとって、純粋に優しく在れる。そんな世界であれば」
悪戯に瞳を細め、二人は強く笑いあう。
「スザク、おまえの強さに」
「ルルーシュ、君の慈愛に」
コツン、と音を立てて二つのカップがぶつかった。
「「乾杯!」」





オール・ハイル・ルルーシュ! 21話ラスト五分、願望が夢を見せたのかと思いました・・・。
2008年8月31日