【「神は逝く」を読むにあたって】
この話は、R2第14話「ギアス狩り」のネタバレを含みます。
ネタバレが嫌な方はどうかご遠慮ください。いつもに増して捏造が激しいので、どんな話でも大丈夫という方のみご覧くださいませ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻りくださいませ。むしろレッツリターン!
▼ 大丈夫です、読みます ▼
人間の運命を左右し、戦いを引き起こす神は、人に紛れて存在する。かつてはそれが、マリアンヌという女だった。
それでも愛していたと告げられたとき、ルルーシュのすべてが瓦解した。
呪われた皇子。V.Vの声だけが耳について離れない。
神は逝く
その人物は、ふらりとエリア11の政庁前に現れた。静かな足取りに音はなく、目的を持っている風でもないのに、確かに巨大な門の前で立ち止まる。並び立つ兵士たちは眉を顰め、それでも任務を果たすためにその人物へと声をかけた。
「君、政庁に何か用でもあるのか?」
乱暴な言葉で尋ねなかったのは、相手が年端も行かない子供のように見えたからだ。しかしよくよく観察してみれば、背も高く手足も長く、頼りない細さを除けば成人間近の少年であることに気がつく。それなのにどこか危なっかしい印象を受け、しかもそれが不審者に対しての警戒を起こさせないものだったから訳が分からない。続ける言葉に迷った兵士たちはそれぞれに視線を交わし、どうしたものかと途方に暮れる。
「・・・・・・通してくれ。俺は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだ」
「ルルーシュ・・・?」
「ブリタニア皇帝の第十一皇子だ。嘘じゃない。・・・・・・嘘をつくのは、もう、疲れた」
皇子を名乗った少年の瞳は、ぼんやりと政庁の高い建物を見上げている。けれどそれがゆっくりと降りてきて、兵士たちを順番に見つめた。その瞳の色の深さにぞくりとして、反射的に地面に膝を着く。気づけば周囲にいた兵士たちは皆、アスファルトに膝を着いて皇族への礼を取っていた。ぎぃ、と静かな音を立てて門が開かれ、少年が一歩を踏み出す。
「ありがとう」
声は抑揚がなく、疲れ果てている印象を受ける。短いジャケットの裾が頼りなく揺れていて、細い両足は折れそうにさえ見えた。
兵士たちはずっと、進んでいく姿に対して頭を垂れ続けていた。
「ルルーシュ、先輩?」
政庁の中、ありえないはずの人物を見た気がしてジノが名を呼べば、少年がゆっくりと振り向いた。少し長い前髪が風に膨らんで、紫の瞳を隠すように降りてくる。立ち止まって身を返す仕草はどこか緩慢で、危うさをジノに感じさせる。それでもただのアッシュフォード学園の生徒でしかない彼がどうして政庁にいるのか、そちらの方が疑問で駆け寄ろうとすると、後ろから刺すような声がジノを留めた。
「待って!」
「アーニャ?」
珍しく張り上げられた声に同僚の彼女を見れば、信じられないようにルルーシュを見つめている。いつも手にしている携帯電話を握り締め、小さな歩幅でジノの隣をすり抜け、ルルーシュに近づいていく。目を瞬いて見上げてくるアーニャに、ルルーシュは僅かに唇の端を動かした。
「・・・・・・嘘をついた。すまない」
アーニャの携帯を握る手に力が篭った。それでもすぐに膝を着いた彼女に、ジノの方が瞠目する。
「お帰りを・・・お待ちしておりました」
「カレンとナナリーに会いたい。案内を頼めるか?」
「御意」
頭から爪先まで礼を取り、アーニャは微笑んでから扇動するために歩き出す。何が何だか分からないジノは、歩き出した二人の後を追うしかなかった。アーニャの足取りは今まで見たことがないくらい嬉しげなものだったし、その後ろを歩くルルーシュの雰囲気は、学園で見せる副会長の彼とはまったくもって異なっている。事情を問うことが出来ず、ただジノは彼らの後ろにつき従った。
その場に現れたルルーシュに対し、三人の見せた反応は三様だった。ナナリーは喜びに顔を綻ばせ、スザクは警戒に銃を持ち、カレンは泣き笑いしそうになった後ですぐにはっとしたように顔を俯けた。ありがとう、とアーニャに礼を告げ、ルルーシュは一歩を踏み出す。向かう先はナナリーで、気づいたスザクが立ちはだかろうとするけれども、ナナリー自身がそれを遮った。
「スザクさん、退いてください」
「ナナリー、だけど・・・っ!」
「退いてください。私に、お兄様とお話をさせてください」
「駄目だよ。君も知っただろう。ルルーシュはゼロだ」
「それでも私のお兄様であることに変わりはありません。・・・スザクさんに命令したくないんです。お願いします」
重ねて願われ、スザクは躊躇した後に身を横に避ける。ありがとうございます、とナナリーが礼を述べ、ルルーシュがスザクの横を通り過ぎた。視線は一度も向けられず、眼差しはナナリーだけに注がれている。それでも、とルルーシュの後ろ姿に向けてスザクが銃を構えれば、遠くでジノが「アーニャ!」と声を荒げた。ちらりと見やれば、アーニャがスザクに対して銃口を向けている。ルルーシュに害を加えるものを赦さないと、その瞳が雄弁に告げていた。
「お兄様。ルルーシュお兄様ですよね?」
「ああ、そうだよ。久しぶりだね、ナナリー。元気そうでよかった」
「お兄様も。お会いできて良かった・・・っ!」
言葉尻が涙に歪み、実際にナナリーはルルーシュの手のひらを握り締めて大粒の涙を零し始めていた。その泣き顔に、僅かにスザクの心を罪悪感が締め付ける。けれども妹の髪を撫ぜるルルーシュを目に映せば、そんな気持ちはあっという間に消え失せた。彼はゼロのなのだ。そしてユーフェミアとシャーリーを殺した存在。許すことは出来ない。
「お兄様、私、お兄様にお話したいことが」
「ああ、分かってる。だけどすまない、ナナリー。時間がないんだ。俺に許される時間はもうない」
「時間?」
「そうだ。ナナリー、俺の妹。これから言うことをよく聞いて欲しい。辛い真実かもしれないが、きっとおまえの身を立てる救いとなってくれるだろう」
手を取り合って、ルルーシュはかつてクラブハウスで暮らしていたときのように、優しい声音で妹に語りかける。けれどその内容にスザクは息を呑んだ。カレンやアーニャ、ジノも同じで、当のナナリーは顔色を失った。
「ナナリー、おまえの母親は俺の母、マリアンヌではない。同じ皇妃だけれども、おまえを産んですぐに亡くなってしまった女性だ。彼女と親しかった俺の母が引き取り、その後自分の娘としておまえを育ててきた。・・・・・・分かるな? 俺とおまえは、異母兄妹なんだ」
「う、そ・・・・・・」
「嘘じゃない。父上から聞いた。ナナリー、おまえはマリアンヌの娘ではないけれど、皇女であることに変わりはない。その事実に胸を張ってくれ」
例え血の繋がりが半分になろうと、俺はおまえを愛しているよ。
もう一度妹の、異母妹の髪を撫でて、ルルーシュは立ち上がって彼女から離れる。告げられた真実が信じられないのか、ナナリーは兄のその行為を許してしまった。震える両手を頬に当て、蒼白な顔を俯ける。いつもなら抱き締めて宥めるだろうにそうとはせず、ルルーシュは今度はカレンの方へと足を向けた。スザクが我に返って銃を掲げる。
「動くな!」
言葉に、ルルーシュが足を止めた。視線がゆっくりとスザクを捉え、感情を見せない瞳が見つめてくる。
「ルルーシュ、カレンから聞いたよ。やっぱり君がゼロだったんだね。記憶が戻っていたんだ」
ルルーシュの視線がまたカレンに向けられ、そのことに彼女自身が泣きそうに顔を歪める。リフレインという薬を使われたとはいえ、自分自身の口でゼロの正体を明かしてしまったことが許せないのだろう。屈辱と申し訳なさに、カレンの目尻から涙が零れる。ふと、ルルーシュが微笑んだ。
「ああ、そうだ。俺がゼロだ」
そう言って、またカレンに向かって歩き出す。
「動くな! それ以上動けば撃つ!」
「そうしたらスザク、私があなたを撃つ。その方は第十一皇子、ルルーシュ様。あなたが殺していい存在じゃない」
「アーニャ、君までギアスに操られたのか!?」
もどかしくなってジノを見るけれども、彼は事情が分からないながらもスザクとアーニャのどちらにも付く気はないらしく、首を振ってナナリーの傍へ近寄る。屈み込んで「大丈夫ですか?」と問い、泣き崩れるナナリーの肩を抱いた。その間にもルルーシュはカレンの前に辿り着き、捕虜に対する透明な防弾ガラスだけが二人を遮っていた。
「カレン。すまない、遅くなった」
ガラスに手をつき、ルルーシュが謝る。大粒の涙を流していたカレンは、首を横に振った。赤い髪がぱさぱさと揺れて、着せられているドレスの裾が乱れる。
「駄目っ・・・! 私、帰れない! ゼロの正体を喋ったのよ! あなたのところに帰る資格なんかない!」
「構わない。黒の騎士団にはおまえが必要だ」
「でも・・・っ!」
「それに、ゼロはもう俺じゃない。ゼロは消えたんだ」
「・・・・・・え?」
カレンがぴたりと動きを止め、スザクも思わず目を見開く。微笑んでいるルルーシュの横顔は穏やかで、彼はそのままの表情でスザクを振り向き、さも当然のように願いを口にする。
「このガラスを開けてくれないか」
「・・・・・・そんなことが出来ると思うのか」
ルルーシュの言うことは信じられない。そしてカレンは黒の騎士団のエースだ。逃がすことは勿論出来ず、スザクは銃を構え続ける。しかし新たな人物の声が場に響き、静かにガラスの扉が開き始めた。
「只今お開け致します、ルルーシュ殿下」
「ローマイヤーさん!?」
「ありがとう。ナナリーがいつも世話になっているみたいで、礼を言う」
「勿体無いお言葉です。・・・・・・怖れながら皇帝陛下がお呼びですので、広間へとお向かい頂けますか?」
「分かった。ジノ、ナナリーを頼む」
完全に開かれたガラスの内へ手を差し出し、ルルーシュはカレンが歩み出てくるのを待つ。その手のひらとルルーシュの顔をしばらく見つめていたけれども、カレンは嗚咽を堪えながら、縋るように己の指を触れさせた。ルルーシュは泣きじゃくる彼女を誘うようにして歩き始める。スザクの前まで来るとその足を止め、同じように微笑んで誘いをかけた。
「スザク、おまえも一緒に来てくれ。謁見の間に向かう」
「・・・・・・ルルーシュ、君は何が目的なんだ」
「話は歩きながらしよう。時間は使えない」
アーニャに視線を投げかけて着いてくるように言い、ルルーシュはローマイヤーから頭を下げられて部屋を出る。最後にナナリーに微笑みかけた横顔は、今まで見たどの表情よりも兄らしいものにスザクには見えた。
多くの人がいるはずなのに、政庁は驚くほどに静かだった。人影どころか足音さえ耳に届かず、動く気配すら感じられない。まさかルルーシュが何かしたのかとスザクは訝しく思ったが、それよりも先に聞いておきたいことがあった。背中に向けている銃は、未だに下ろしてはいない。いつでも引き金を引ける状態で、スザクは背後から問いかける。
「ルルーシュ。シャーリーを殺したのは君か?」
動揺にびくりと肩を震わせたのは、手を繋がれているカレンの方だった。否定の言葉が欲しいのだろう。隣を歩くルルーシュを見上げる瞳には懇願が浮かんでおり、違うでしょ、と声にはせずに問うている。しかしルルーシュは首を縦に振ってみせた。
「そうだ。シャーリーを殺したのは俺だ」
「・・・っ!」
「俺を殺したいか、スザク。だが、まだ殺さないでくれ。ここで死んでは意味がない」
「君の言い分なんかどうでもいい! 何が『殺さないでくれ』だ! ユフィだってシャーリーだって殺してきたくせに!」
「ああ、そうだ。ユフィもシャーリーも俺が殺したようなものだ。だからこそ俺は、今ここで死ぬわけにはいかない。少なくとも、おまえに殺されては意味がないんだ」
銃口が背中を突いたことに気づいているだろうに、ルルーシュの足取りは揺ぎ無く静かだ。カレンが振り返って息を呑み、庇うようにして間に入ってくる。アーニャの銃は横からスザクの脇腹に添えられており、一発の弾丸で四人が同時に死に到る状態だ。
「話を聞いてくれ、スザク」
「・・・・・・話すことなんてない」
「これが最後なんだ。俺にはもう許されるべき時間はない。だから頼む。カレンもアーニャも聞いてくれ」
迷わない足取りは、己の行く道が分かっているかのようにしっかりとしている。スザクからルルーシュの表情は見えない。
「俺は、神なんだ」
「・・・・・・ああ、そう。だから何をしても許されるって? ゼロを名乗って多くの人を殺して、それでも許されるって!?」
「違う、スザク。神の意味が違うんだ。誰もが祈る『神様』じゃない。『神』は実在し、人の運命を左右し、戦争を起こさせる能力を持った存在だ」
「戦争を起こさせる・・・・・・?」
「ああ。父上とV.Vが殺そうとしている存在、それが『神』だ」
曲がり角を曲がる。そこにもやはり人の姿はなく、ルルーシュは先を目指している。
「かつて『神』は、俺の母上の中にあった。ブリタニア帝国第三十二皇妃、マリアンヌ。彼女の内側に神は巣食っており、母上の周囲には常に戦いがあった。母上自身が軍人で戦場に立っていたこともあって目立たなかったが、引き金となっていたのは間違いないだろう。俺の母は、神だった」
また角を曲がる。並んでいる扉には見向きもせずに、ルルーシュは前に進む。
「母が神であることに気づいたのは、V.Vだった。ギアスは神の眷属であり、嚮団の当主は無理やりに不老不死の身体を与えられる。だからきっと、V.Vは母上のことを憎んでいたんだろう。それ故にテロリストを装った刺客を、母上に向かわせた」
「まさか、それが」
「そうだ、それが『アリエスの悲劇』の真相だ。だが、死んだ母上はすでに神ではなかった。だからV.Vと父上は、受け継がれたであろう次の神を探すべく、世界中に戦争を仕掛けた。そうすれば戦いを招くであろう神が、きっと現れると思って」
広い空間に出た。末広がりを見せている階段に、ルルーシュは足をかける。こつ、こつ、と静かな音が響く。
「あの夜のことを、今になって思い出した。あれは、母上が死ぬ前の日だった。俺は何かに呼ばれるようにして目覚め、テラスに向かった。そこには母上が立っていた。振り向いた瞳は、両目とも赤かった」
階段を上がりきり、右に曲がる。その際に見えたルルーシュの瞳は、母親を継いで紫だ。
「両肩を掴まれ、痛かったのを覚えている。訴えても母上は聞いてくれず、その瞳は俺を見ていなかった。押し付けられた額が熱くて気を失い、目覚めたらベッドの上にいた。だから夢だと思っていたんだが、おそらくあれが『神』の継承の儀式だったんだろう」
「じゃあ」
「ああ、だから俺は『神』だ。人の運命を左右し、戦争を引き起こす。ユフィもシャーリーも俺が殺したようなものだ。すべての戦いは俺の責任だ。すべて、俺の」
他よりも広く長い廊下に出る。正面に小さく見える扉は謁見の間の入り口で、厳かな印象からそれを察したのだろう。カレンがルルーシュの手を引いた。それでも歩く足は止まらない。
「父上が長い時間をかけて辿り着いた、それが『アーカーシャの剣』だ。スザク、おまえも見たことがあるんだろう? あの場所で死に、その血のすべてを祭壇に染み渡らせて初めて、『神』はその存在を消滅させることが出来る。殺すことが出来るんだ。だからスザク、俺はおまえに殺されるわけにはいかない。俺は『アーカーシャの剣』で、父上に殺されなければならないんだ」
「待って! 何言ってるの、嫌よそんなの! 訳分かんない!」
「父上は約束してくれた。神が死ねば、もう戦いに意味はない。エリア11も日本に戻し、解放してくれると。黒の騎士団も咎めないと言ってくれた。だからカレン、おまえはもうアッシュフォード学園に戻れ。リヴァルたちと一緒に卒業してくれ」
「嫌よ、そんなの・・・っ! ルルーシュはいないんでしょ!? そんなの・・・っ」
「ああ、俺もみんなで卒業したかった」
引き止めようとしていたカレンの力が弱くなり、再び涙を流し始める。手を引っ張って隣に招き、ルルーシュは彼女の頭を抱き寄せた。ありがとう、世話になった。そう囁いて赤い髪に唇を寄せる。ついにカレンの足が止まり、その場に崩れ落ちた。ルルーシュの指が彼女の頬を撫で、そして離れる。
「アーニャ」
「・・・はい」
「長き不在を謝罪する。アールストレイム家が、母上に尽くしてくれたことは忘れていない。これからはナナリーを頼む。母が違うとはいえ、彼女は俺の妹だから」
「はい。アーニャ・アールストレイムは、ルルーシュ様の下に」
「ありがとう」
アーニャが足を止める。そのことに気がついただろうに、ルルーシュは扉を目指し続けている。スザクが振り向けば、アーニャはビロードの絨毯に膝を着き、顔を伏せてルルーシュを見送っていた。小さな手が目元を拭うような仕草を見せて、そのことにスザクはまたルルーシュの背中を見る。
「思えば確かに、俺は『神』だった。俺がいたからこそ、きっと日本は戦場になり、エリア11になってしまったんだろう。その後もゼロとして立つことにより戦いを起こし、数多の命を犠牲にした。自覚はなくても、俺は神だ。V.Vが言ったように、呪われた皇子なんだろう」
扉が近づいてくる。この先には謁見の間が広がっており、そこにはローマイヤーの言葉が正しいならば、ブリタニア皇帝がいるはずだ。神を殺す準備をしてきた皇帝の元に、神を名乗るルルーシュが向かおうとしている。
「だが、父上は、母上を愛していたと言ってくれた。神だと知って尚、愛していたのだと言ってくれた。愛してしまっていたのだと、そう言ってくれた。だからこそ実の兄であるV.Vが母上を殺したと知ったとき、何をすることも出来なかったのだと。そう吐露し、すまなかったと言ってくれた。スザク、俺のブリタニアへの復讐は、その瞬間に終わったんだ。だからもう、俺はゼロじゃない」
「ゼロじゃなくても、君がユフィたちを殺したことに変わりはない」
「そうだな。おまえに殺されてやれないことは悪いと思う。だが、頼む。俺の死にせめてもの価値を持たせてくれ。『アーカーシャの剣』で父上に殺されるために、俺は今までを生きてきたんだ」
父親、殺される、その二つの単語にスザクの銃を持つ手が震えた。気がつけば扉が目の前にあり、後は開くだけのところまで来ている。来てしまっている、と何故かスザクは思ってしまった。遠くからカレンの嗚咽が聞こえてくる。アーニャの動いた気配は無い。ルルーシュの背中は目の前にあり、スザクの手は銃で塞がっている。ゆっくりと扉を開けて、中へと身を滑り込ませる瞬間、彼は振り向いて紫の瞳を和らげた。
「ルル―――・・・っ!」
名を呼ぶことも、手を伸ばすことも、何も出来ずに。扉は音を立てて閉まった。死地への扉が、閉まったのだ。
殴られるようにして叩かれている扉から背を離す。毛の長い絨毯を踏みしめるように歩み、段を昇り、玉座の前へと行き着く。そこは空で、隣にはブリタニア皇帝であり、ルルーシュの父親でもあるシャルルが立っていた。その手は深みの強い赤いマントを手にしており、丁寧にそれを広げ、ルルーシュの背中へとかけてくれる。襟を正し、装飾を結んでくれる手のひらは優しく、とても温かくて、ルルーシュの顔が歪んでしまった。今にも泣いてしまいそうで、唇を噛んで俯く。
「・・・・・・すまない」
大きな手に抱き寄せられて、その強さに、逞しさに、更に泣きたくなってしまった。記憶の中には無い。幼すぎて忘れてしまったのか、今与えられているのがルルーシュにとって、初めての父親からの抱擁だった。震える腕を持ち上げて、いいのかと問うように躊躇いながらその背に添えれば、更に強く抱き締められる。だからルルーシュも、父親の背に腕を回した。
「何、を、謝られることがありましょう。俺は、父上の子として産まれることが出来て、幸せです」
「すまぬ、ルルーシュ」
「父上・・・っ!」
抱き合ってしばらく互いに涙していると、黄昏の扉が現れる。細く開かれている向こうに存在するのは異なる世界で、ルルーシュは自ら父親の手を取って歩き出した。背後では謁見の間の扉がまだ叩かれている。幸福であれと願う。自分ひとりの死で片がつくのなら、これ以上に簡単なことはない。父親の愛情を手に出来た今、死に何の恐れがあるだろうか。ルルーシュは幸福に唇を綻ばせた。黄昏の扉が閉まる。
その日、神は逝った。
第14話、V.Vが殺せると思った人。はい!
2008年7月13日