神聖ブリタニア帝国の皇族は、ポケモン関係の職につくことが大昔からの慣わしだった。才能があるのなら最強のトレーナーであるポケモンマスターを目指し、才能が無くてもポケモンを育成するブリーダー、研究する博士、もしくは各地方のジムリーダーやポケモンセンターの医師などの職に就く。ブリタニアは古代からポケモンと共にあったため、皇族が彼らと共に生きるのは当然のことであり義務でもあった。
これはそんな世界に生きる、ひとりの人間と一匹のポケモンの物語である。
POCKET LELOUCH
現在のポケモンマスターは第二皇子シュナイゼル。グランストンナイツというドラゴン系のポケモンを五匹所有している彼は15歳のときに旅に出て、18歳で世界の頂点を極めた。彼に憧れ、今日も世界中の子供たちがポケモンマスターを目指している。
しかしルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは違った。名前から見て分かるようにブリタニア皇族に属している彼はポケモンに関わることを義務付けられている人間だが、ポケモンには並程度の興味しか持っておらず、ポケモンマスターなんて職業は進路選択のひとつにも入っていなかった。しかし不幸にも彼には才能があり、シュナイゼルの跡を継ぐべくポケモンマスターを目指す旅に出されてしまったのである。マスターになるまで帰ってくるな、とはルルーシュの父親であり皇帝でもある男の言葉だ。
溜息を吐き出しながら、ルルーシュは最初のポケモンを貰うべく、城下の人里離れたポケモン研究所を訪れた。やる気の無い彼は適当に選んだため、どうしてこんな森の中に研究所が立っているのか深くは考えていなかった。礼儀正しくインターフォンを押し、応答を待つ。
『はぁーい、もしもしどなたー?』
声はテンションの高い、どこかネジの外れたような若い男のものだった。選択を間違ったとルルーシュは即座に思ったが、ここでピンポンダッシュするほど落ちぶれてはいない。さっさと出すものを出してもらおうと山賊のようなことを考える。
「本日ポケモントレーナーになるまで帰ってくるなと命令されて家を追い出された者ですが、よろしければ最初のポケモンを恵んでいただけないでしょうか」
『あっれー? もしかしてその声、第十一皇子のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下? 我が研究所にようこそおいでくださいましたぁ!』
いらっしゃーい、というお笑いのような歓迎の言葉と同時に扉が開かれ、中の少し冷えた空気がルルーシュを包み込む。森の中にぽつんと立っているからどんなものかと思っていたが、足を踏み入れてみれば揃っているのは最新技術の粋を集めた研究機器ばかりだ。育った環境からポケモンに関して否応なしに詳しいルルーシュも、感心しながら周囲のマシンを見回す。しかしそれらよりも気になることがルルーシュにはあった。
「・・・・・・シュナイゼル兄上の気配がする」
「あは、さっすがルルーシュ殿下! そうなんですよぉ、僕とシュナイゼル殿下は同期でして、あの男もこの研究所から旅をスタートしたんですよ」
「兄上の同期・・・・・・もしかして、ポケモン博士を多く輩出しているアスブルンド家か?」
「はい、まさに仰るとおり。アスブルンド伯爵家が当主、ロイド・アスブルンドにございます。お目にかかれて光栄ですよぉ、ルルーシュ殿下」
巨大な水槽のような機器の間を縫って現れた男は、確かにルルーシュの兄であるシュナイゼルと同世代の男だった。アイスグレーの髪に薄いブルーの目。白衣をまとっている背中は猫背で、眼鏡の奥の瞳は愉悦を浮かべている。間違いなく兄上の関係者だな、とルルーシュは半目で納得した。同類項でくくれそうなあたり、救いようがなさそうだ。
「ならば話が早い。旅立ちにはポケモンをひとつ貰っていくのが義務だからな。出来れば手がかからなくていつも寝ていて放っておいても構わないようなポケモンを貰いたい」
「・・・・・・ポケモンに興味ないとは聞いてましたけど、ほんとにやる気ないですねぇ」
「ポケモンなんて好きな奴が構えばいいだろう。俺は国立図書館に勤めて毎日本を読みふけって静かに大人しく平々凡々に暮らしたかったのに、父上とシュナイゼル兄上が無理やりポケモンマスターにさせようとしている。まったくいい迷惑だ」
「でもちゃんと旅に出てるじゃないですか」
「ポケモンマスターになるまで帰ってくるな、ということは、ポケモンマスターにならなければ帰らなくてもいいということだ。しばらくは見張りがついているだろうが、隙を見て振り切って後は自由に生きてやる」
まったく皇族なんかに生まれなければ良かった、とルルーシュは憤慨しているが、ロイドが過去に数回見ることのあったルルーシュのポケモンバトルは、それはそれは見事なものだったのだ。ポケモンの特性を良く理解しており、相手の弱点を突くバトルはシュナイゼルの跡を継いでポケモンマスターになるのに相応しいと思ったほどである。しかし本人にその気が無いのなら仕方がないだろう。諦めなよシュナイゼル殿下、とロイドは心中で腐れ縁の友にアドバイスを送った。
「でもですねぇ、非常に申し訳ないんですけど、今この研究所にはポケモンが一匹しかいないんですよぉ。ルルーシュ殿下がお見えになるって分かっていれば世界中から取り寄せておいたんですけど」
「一匹? どんなポケモンなんだ?」
「先日森の中で見つけたクルルギって岩系のポケモンです。珍しいんですよぉこれ、レアで実物を見たのは僕も初めてでして」
こっちこっち、と手招きされて近づいていけば、巨大な水槽の中で人間に限りなく近い姿形の男が漂っている。茶色の髪の合間に岩の欠片のようなものが見え、それがポケモンの証だった。今年15歳になる自分と変わらない年恰好のポケモンを前にルルーシュはしばし考え、結論を出す。
「やめておく。扱いが面倒くさそうだ」
「あはは、そう仰ると思いましたー。じゃあとりあえずモンスターボールだけお渡ししますね」
はいどうぞ、と渡されたケースを開ければ、小さなボールが12個入っている。普通は赤と白のカラーリングが一般的だが、ルルーシュが皇族であることから特別に紫と白になっていた。ひとつ持ち上げてボタンを押すと、途端に野球ボール程度の大きさになる。
「モンスターボールの中はどうなっているんだ? 狭くはないのか?」
「これは僕が細工したボールですから超快適ですよぉ。ベッドはふかふかダブルベッドですし、暑くも寒くも無いですし、ご飯もポケモンが望んだものが出てきますし」
「そんなことが出来るのか?」
「この研究所と繋がってるんですよ。だからモンスターボールにいるポケモンの体調管理とかは全部僕が請け負います。こんなことシュナイゼル殿下にもしたことないんですけど、ルルーシュ殿下は特別に!」
「中は快適なんだな」
「ええ、そりゃもう! 僕の最高傑作ですから、五つ星ホテルのスイートルーム並み!」
「なるほど、それは良い」
にこりとルルーシュが微笑んだ。その笑顔があまりに綺麗で愛らしいものだったから、ロイドも釣られてにこりと笑い返す。しかし頭の隅っこで「あれーこの笑顔どっかで見たことあるような」と思ったが次の瞬間、さすがのロイドも想像していなかった事態が訪れた。
「ポケモンを捕まえるには、名前を呼んでモンスターボールを投げればいいんだったな?」
同意するよりも早く、ルルーシュはモンスターボールを投げつけた。―――自分自身向かって。
「ロイド・アスブルンド、ルルーシュゲットだ!」
赤い光がルルーシュを包み込み、ばくりと飲み込んで彼を消す。床に転がる使用中のモンスターボールを呆然と見下ろし、「あれぇ?」とロイドは首を傾げた。
「・・・・・・もしかして僕、ルルーシュ殿下ゲットしちゃった?」
あははどうしよーと呟くロイドの声は、珍しく本気でうろたえていたという。とにかくそうして試行錯誤紆余曲折の結果、ロイド・アスブルンドはルルーシュ・ヴィ・ブリタニアというポケモンを所持して、彼をポケモンマスターにさせない旅に出ることになるのだった。
公式が間違っているときに覚えたので、当サイトではロイドさんの苗字が「アスプルンド」ではなく「アスブルンド」になっております。
2007年8月23日(2008年7月12日mixiより再録)