【「てんで性悪キューピット!」を読むにあたって】

この話は、R2第12話「ラブアタック!」のネタバレを含みます。
ネタバレが嫌な方はどうかご遠慮ください。加えてルルーシュが女の子ですので、どんな話でも大丈夫という方のみご覧くださいませ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻りくださいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼












































貞操の危機を真面目に感じた。同時に世界の改革を進めようと本気で誓った。
後にルルーシュはブリタニア軍から奪取したカレンに、当時のことを遠い目をしながらそう語ったらしい。





てんで性悪キューピット!





キューピットの日。それは学園を去ることを決めたミレイ・アッシュフォードが己の卒業記念として開催することにしたイベントだ。名称はとても可愛らしく、けれど中身は帽子を交換し合った男女を問答無用でカップルにするというブリタニア皇帝もびっくりの強制力に満ちている。現代の結婚年齢の遅延を憂いている団体が聞けば涙ながらに喜ぶだろうイベントに、ロロも喝采しながら机を叩いた。
「つまりこれは、僕とルルーシュ姉さんもカップルになれるってことだよね!? そうだよね、姉さん!」
「違うな、間違っているぞ! 確かに俺とおまえは男女の括りには当てはまるが、その間には姉弟という法律の壁が存在している!」
「でも少なくともこの学園の中ではカップルになれるってことだよ! 僕頑張るよ、姉さん!」
「おまえは会長と違ってこのモラトリアムを卒業しない気か!」
同じように机を叩いて反論するけれども、ロロはもはや姉の話を聞いていない。恋人になったら一緒に買い物行って、映画を見て、ご飯を食べて、なんてよくよく考えれば現在と大して変わらないお出かけコースを頬を染めて思い描いている。時を止めるギアス所持者という最も心強い味方が何故か最悪の敵に回った気がして、ルルーシュは頭を抱えた。ソファーに腰掛けていたヴィレッタは転入生のナイト・オブ・ラウンズの資料を投げ打ち、現在の主であるルルーシュを向く。
「しかし今回は本気で逃げないと危険だぞ? 強制的にカップルにするだなんて、アッシュフォードは何を考えているんだか」
「間違いなく娯楽しか考えていないだろうな・・・。いざとなれば咲世子と交代する。頼んでもいいか?」
「はい、もちろんです。この篠崎咲世子、家名に懸けましてもルルーシュ様の帽子をお守りすることを誓います」
力強く頷いてくれた影武者に、ルルーシュはほっと表情を緩ませる。けれどヴィレッタは相変わらず眉間に皺を寄せたまま、周囲をピンクに染めているロロをちらりと見やって進言する。
「・・・・・・むしろ今回は、貞操を守ることを第一に優先すべきでは?」
「怖いことを言うな、ヴィレッタ!」
「あら、でも私もそう思いますよ、ルルーシュ様。せっかくの機会ですもの、高嶺の花を摘もうとする輩も多いのでは」
「郷に入っては郷に従え! 婚前交渉を良しとしない日本文化はどこに消えた!?」
「ブリタニアの武力の下に」
にこりと咲世子が微笑めば、ぎゃあ、とルルーシュがらしくない悲鳴をあげて己の身を抱き締める。その所作のせいで肢体がぎゅっと縮こまって、細い割りに大きさのある胸が制服と共に柔らかく形を変えた。摺り寄せられた膝と太腿の張りに若さを羨みつつも、確かに極上の餌だとヴィレッタと咲世子は再認識する。捕まえて帽子を交換するだけでこの魅力的な身体が得られるのなら、どんな男とて紳士の仮面を脱ぎ捨てて狼と化すに違いない。しかも中身に頭脳明晰でちょっと抜けてて可愛らしい性格までついてくるのだ。
「・・・・・・明日は片っ端から男共を潰していくか」
「ええ、頑張りましょうね」
蒼白な顔で己の貞操の危機に怯えるルルーシュに、ヴィレッタと咲世子は誓い合った。もちろんスケジュール帳に姉とのデート予定を書き込もうとしているロロでさえ、彼女らの標的に含まれている。



「というわけで生徒会長の卒業記念イベントなんだけど、スザクは総督補佐で忙しいから参加できないよな? ラッキー!」
政庁に不釣合いの学生服で、それでもれっきとしたナイト・オブ・ラウンズのひとりであるジノは、スザクの答えも聞かずに一人で幸運を喜んでいる。拘束した紅蓮弐式とそのパイロットについての処遇を話し合う会議に出席しようとしていたスザクは、思わず部屋の入り口で足を止めて呆然としてしまった。ええと、何だ、キューピットの日? 帽子を交換し合った男女がカップルになるだなんて、何だその素晴らしい、いや違ったとんでもないイベントは。さすがはミレイ会長、と頭のどこかで納得していると、ジノはばんばんと大きな手でスザクの背中を叩いてくる。
「いやさぁ、学園で運動神経で俺の相手になるのはスザクくらいじゃん? だからおまえがいなければ俺の独壇場だし、そしたら彼女もゲットできるわけだし?」
「彼女?」
「アッシュフォード学園の至宝、紛れもない高嶺の花! いやぁ俺、あれほどの美人は初めて見たよ!」
きゅぴーん。具体的な名前は出されずとも、二つの代名詞でスザクの脳は適確に話題の人物を理解した。つまりジノが言っている彼女というのは、ルルーシュのことだ。ルルーシュ・ランペルージ。今はアッシュフォード学園の三年生に所属している女生徒で、生徒会でも辣腕の副会長として知られている。短い黒髪に限りない艶を持ち、少しでも力を込めてしまえば赤く染まるほどの白い肌、色づいている唇が開かれればキスをしてしまいたくなるし、何より制服に包まれていても分かる抜群のプロポーションは男子生徒の垂涎の的だ。乱暴な言葉遣いをするけれどもそれが容姿とのギャップになっており、時に見せる高慢な仕草にはヒールで踏まれたがっている輩も多いと聞く。しかし本人はむしろ男よりも女に優しく、だからこそ女生徒からもお姉様と慕われているらしいルルーシュを、つまりジノは狙っているというのだろうか。ようやく思考がそこに辿り着いて、スザクは思わず叫んでしまった。
「駄目だよ!」
「何が?」
「何がって・・・・・・えっと、だから、その、強制的に恋人になるなんて、そんなの良くないんじゃないかな」
「でもこんなの、所詮切っ掛けだろ? ようは恋人という枠組みを先に作っちゃって、その後でお互いを知り合えばいいんだから」
「でも!」
声を必死に荒げて主張するスザクを、会議室内にいた面々は興味深げに眺めていた。ロイドなどはもはやわくわくといった心持ちで目を輝かせているし、セシルは止めるべきなのかどうか悩みながら首を傾げている。ギルフォードは若さを目の当たりにして己の青春を思い返していたし、他の面々は会議開始時刻をとうに過ぎていることを気にしつつも、上司たちが何も言わないので何も言えない。良くないよ、絶対良くない、とスザクはジノに向かって何度も繰り返している。
「第一、ルルーシュは運動神経が皆無なんだよ!? ジノに追いかけられたらすぐに捕まるに決まってるじゃないか!」
「あ、やっぱり? 大丈夫だって、優しくするから」
「何が! ルルーシュのことだから義理堅くイベントにちゃんと参加するだろうし、そうしたら必死で逃げるだろうし、逃げるルルーシュが可愛いから他の奴らは手加減して追いかけて少ししてから捕まえればいいとかそんなことを考えるだろうし、顔を真っ赤にして辛そうに息を荒げるルルーシュを前に男が何を想像するかなんてひとつしかないし、それに走ったらスカートが絶対めくれるだろうし、ルルーシュのことだから下に短パンとかはいてないだろうし、そうしたらルルーシュの、ルルーシュの黒のビキニが」
「はいしつもーん! なぁんでスザク君は彼女の下着を知ってるのかなぁ?」
「だってほら、そこは僕も男ですから! 階段を昇ってる好みの女の子がいたら美味しいなぁ眼福だなぁと思っても仕方ないでしょう!? しかも捕まって帽子を交換したら強制的に恋人!? 駄目だよ、そんなことになったらその日のうちにルルーシュが大人の階段を昇らされちゃうじゃないか! 確かにあのルルーシュを前にしてお預けなんて、そんなの絶対に無理に決まってるけど、それでもほら、やっぱりこういうことは両者の了承と心の準備が必要なわけで」
「スザク君なら待ってあげられるのかしら?」
「三日なら! 三日なら耐えてみせますルルーシュのために! それに待ってる間にいろいろ用意できるし、そうしたら指輪も買いに行けるし、夜景の見えるレストランも予約できるし、僕の誕生日ももうすぐだから役所に婚姻届も取りに行けるし、もちろん最高級のスイートルームの予約も出来る! 結婚式はブリタニア式でウェディングドレスは外せないし、それに枢木神社で白無垢も外せないし」
「結婚おめでとう、スザク君」
「ありがとうございます! というわけで駄目だよ、ジノ! ルルーシュを無理やりなんて、そんなの男として良くないよ! やっぱりここは正々堂々男らしく、正面から当たって砕けなきゃ!」
「砕けるのかよ」
「僕は砕けないけどね!」
「でもスザクは総督補佐だから、明日のイベントには参加できない。ごめんなぁ。でも大丈夫だって、俺がちゃんと彼女を大人にするからさ」
ジノの余裕たっぷりの表情に、ぎゃあ、とスザクがらしくない悲鳴をあげて己の頭を抱きかかえる。どうして僕はナナリーの補佐になっちゃったんだろう、とさえ呟く彼は、もはや件のルルーシュが憎きゼロであることなど頭の中から消え去っているに違いなかった。



同じ頃、ブリタニア本国では上位皇位継承者たちが円卓を囲んでいた。最も上座の位置についているのは第一皇子オデュッセウスだけれども、インパクトとしては彼が最も弱かった。雰囲気では妖艶な第一皇女ギネヴィアに呑まれているし、色彩と髪型では第五皇女カリーヌに見劣りしている。悠然とした施政者の風格では当然ながらシュナイゼルの方が優れており、オデュッセウスは気の弱さも手伝ってもはや背景の一部と化していた。
「あぁでもナナリーなんかどうでもいいけど、ルルーシュ姉様がいたら話は別だったかも」
カリーヌが呟いて、わざとらしい所作で己の顎に指先を当てて首を傾げる。懐かしい名前だね、というオデュッセウスの言葉はもはやバックミュージックと一体だ。
「だってルルーシュ姉様は本当に綺麗だったもの。今生きていれば絶対にナナリーなんかと似てなくて、物凄い美人になってたと思うわ」
「そうだね。あの子はマリアンヌ皇妃にとても似ていたから」
シュナイゼルが微笑めば、ギネヴィアは少しばかり眉を顰めたけれども渋々といった感じで同意する。
「そうね、あの黒髪は綺麗だったわ」
「ギネヴィア姉様ったら、素直じゃないの! ルルーシュ姉様はね、生きてたらきっと凄い美人になってるわ。肌なんか絹みたいに綺麗で、それで瞳はアメジストみたいなの! スタイルも良くてきっとドレスが凄く似合うわ!」
「あの子のことだから化粧はほとんどしないでしょうね。肌の手入れもろくにしないで、それでも肌理の細かさを保っているのよ。スタイルも良いでしょうけど、おしゃれには気を使わないで過ごしてそうだわ」
「そういえばルルーシュを着せ替え人形にするのが、ギネヴィア姉上はお好きでしたね」
「妹を愛でて悪いのかしら、シュナイゼル?」
「いいえ、そんなことはありませんよ」
ちらりと向けられた眼差しに、シュナイゼルはにこりと微笑み返す。第二皇女のコーネリアはマリアンヌに憧れていたからルルーシュも愛でていたが、第一皇女のギネヴィアはマリアンヌを無視していたけれどもルルーシュのことは可愛がっていた。武ではなく政治に優れた妹を傍に置いておきたかったのだろう。そんなことを考えるけれども、事はもっと単純だとシュナイゼルは予想している。ギネヴィアは美しいものが好きなのだ。おそらくルルーシュも手元において、彼女好みの魅力的で艶やかな女性に育てたかったに違いない。ピンヒールの似合うような、そんな妹に。
「ナナリーよりもルルーシュ姉様が生きていてくれたらよかったのに!」
カリーヌのそんな言葉を、オデュッセウスが「駄目だよ、そんな風に言ったら」と嗜めたけれども、やはり彼は背景だ。兄上はどこに行ったのかな。そんなことを当の本人の角隣の席で考えながらシュナイゼルは優雅に紅茶で喉を潤す。
個性の強すぎる皇子皇女たちを前に、ナイト・オブ・ワンであるビスマルクはいつもながら疲労に満ちた溜息を吐き出していた。



そしてキューピットの日、当日。ルルーシュは心強い味方を得ていた。
「女の子を無理やりなんて、そんなの良くないよ! ルルは私が守るからね!」
両手をしっかりと握って宣誓してくれるシャーリーの優しさに、ルルーシュは涙が出そうだった。友情って素晴らしいものなんだな、とこれからの戦いと貞操の危機に怯えていた心が朗らかに癒されていく。他の女生徒たちもクラスや学年を問わずにルルーシュの周囲に集まってきていて、誰もが真剣な眼差しで誓ってくれる。
「ルルーシュお姉様は、私たちが守りますから!」
「そうよ、男なんかには絶対に触らせないからね!」
「ランペルージ先輩は学園の宝なんですから!」
「みんな・・・・・・ありがとう」
ぐすりと本気で泣きそうになりながら礼を述べれば、女生徒たちは嬉しそうに頬を染めて「当然です!」と拳を握り締めてくれる。輪を作っている彼女たちの向こうでジノが「こりゃ大変そうだなぁ」と頭を掻いてぼやいていが、「女の子には手荒なことしたくないんだけど」と小さく呟いている時点で彼がルルーシュを諦めていないのは一目瞭然だ。ゲームスタートの時が来たのか、ピンポンパンポーンと恒例のチャイムが学園中に響き渡る。
『はぁい、ミレイ・アッシュフォードです! それじゃあゲーム開始の前に、最後のルール変更を通達します!』
変更、と首を傾げたルルーシュを、かつてないほどの嫌な予感が襲った。それは余りにも強すぎて、遠く離れた中華連邦にいるC.Cがピザを落として立ち上がり、ブリタニア軍に拘束されているカレンが何故か「ゼロ!」と叫んだくらいの悪寒だった。事の元凶、アッシュフォード学園の本日までの覇者は華麗に言い放つ。
『帽子を交換してカップルが成り立つのは、同性同士でもオッケー! 愛に性別と年齢は関係ないのよ? というわけで頑張って、ルルーシュ!』
周囲がすべて敵と化した。友情を確認していたシャーリーをはじめ、女生徒たちからの視線の方がもはや男よりも狼だ。アーニャが「モルドレッド・・・」と呟いて一足先に教室を出て行く。
『それではキューピットの日、スタート!』
泣きたい、と心底思いながらルルーシュは教室を飛び出した。全校生徒が大盛り上がりの今日この日、処女を捨てるにはあまりにもデリカシーに欠けすぎると思った彼女は、やはりどこかずれた感覚を持つアッシュフォード学園の新生徒会長だった。





第12話で疑問だったのは、何故コーネリア姉上が「ギアス」を知っていたのかです。ユフィがギアスで操られていたこととか。この分だとゼロがルルーシュってことも覚えてるんでしょうかねぇ。
2008年6月29日