ロイルル小説アンソロジー「Sweet Secret」の原稿に使おうと思ったけれど、やっぱり使わなかった話です。冒頭部分だけ書いていたので、それをお送りします。





輝ける日々、君と幸あれ





事の発端は、常備している紅茶の葉が底を尽きてしまったことだった。いつもは咲世子が買ってきていてくれているのだが、予想外の早い減りに彼女も気づかなかったのだろう。頭を下げる咲世子を手を振ってなだめ、ルルーシュは散歩がてら自ら買い物に出ることにした。紅茶の減りが早いのは、C.Cがピザと共に消化しているからである。あまりにカロリー高なためせめてコーラから紅茶に変えさせたのだが、あの細い身体のどこに一体入っていくのだろう。一度精密検査を受けさせてみたい。そんなことを考えながら、ルルーシュは住居であるクラブハウス、つまりアッシュフォード学園から一番近いスーパーマーケットに足を運んだ。
ルルーシュは買い物という作業が好きだ。放っておいたら丸一日スーパーで過ごせるくらい、几帳面で計画を立てるのが好きで、それを実行に移すのが好きだった。けれど今日は紅茶だけを買い、早く戻ってナナリーとお茶でも飲もう。そんな計画を立て、ルルーシュは飲み物の陳列されている棚に向かい、目当ての品を探し出した。幸運にも残りは一個。ラッキーだな、と思って伸ばした手は、紅茶の缶に届く直前で誰かの手と重なった。隣を振り向けば、同じ品に手を伸ばしている男がいる。白い白衣のようなコートに灰色がかった髪の毛、眼鏡の奥の瞳はアイスブルー。何か見たことある、とルルーシュは思った。相手も紅茶を手に取ることなくルルーシュを見下ろし、そのままのしばし見つめ合う。きゅるるるるるる、と高速で思考が回転する。記憶の引き出しが開けられては閉められていく。目的の過去を見つけたのは二人同時で、ルルーシュはさぁっと顔色を変え、男は嬉々として歓声を上げた。
「あぁ! 第十一皇子ルルー」
その瞬間、ルルーシュは左目を赤く染めて叫んでいた。

「俺とおまえは親友だ!」

きゅいーんとギアスが働き、男は僅かの間立ち尽くした後、にっこりとルルーシュに向けて笑いかけ、握手の手を差し出した。
「よろしくねぇ、親友!」
こうして、ルルーシュはロイド・アスブルンドという親友を得てしまったのだった。



ぱたんと力なくドアが閉められ、C.Cはルルーシュが帰ってきたことに気づき振り向いた。けれど彼のあまりの様子に、思わず目を瞬いてしまう。
「ルルーシュ?」
声をかけても反応はない。シンプルな私服を身にまとっている彼は、紅茶を買いに近くのスーパーまで行っていたはずだ。その道程に危険はほとんどないはずで、一体何が起こったのか不思議に思わずにはいられない。紅茶らしいものが入っているビニール袋を握りしめ、彼は片手を壁について俯いている。猿でもできる反省ポーズだ。
「・・・・・・C.C、一つ問う」
声すら暗い。C.Cはルルーシュが後悔したり落ち込む様を何度となく見てきたけれども、その中でも一・二を争うほどのへこみ具合だ。何だ、と問い返せばどんよりと地を這う声が返ってくる。
「例えば、例えば俺が、このギアスで誰かに『俺とおまえは親友だ』と命じたとする」
「命じたのか」
「例えばの話だ。それくらい察しろ」
「そうか、例えばの話だな」
時折、C.Cはルルーシュがこの上なく馬鹿で可愛いと思ったりすることがある。ピザのクーポンを集めて手に入れたぬいぐるみを抱きしめながら、C.Cは「例えばの話」に耳を傾ける。
「その場合、本当に親友になるのか?」
「ああ、なるぞ」
「具体的には?」
「例を示さなかったのなら、おまえが抱いている親友関係のイメージがそのまま相手に強制されることになる」
「つまり俺の思う通りの親友に、相手がなると?」
「そういうことだな」
ルルーシュが崩れた。床に膝をつき、小刻みに肩を揺らし始める。ビニール袋がかさかさと音を立て、C.Cはベッドから身を起こした。
「つまり、つまり何か、俺はあのマッドサイエンティストと毎日メールしあったり電話しあったり休日は一緒に遊びに行ったり試験勉強を一緒にやったり弁当を一緒に食ったり服とか互いに選びあったり恋愛相談とかしたりされたり路地裏で喧嘩に巻き込まれたり夕日に向かって叫んだり列車の通らない線路を歩いたりしなきゃいけないわけか!?」
時折、C.Cはルルーシュがこの上なく馬鹿で愛しいと思う。
「ふざけるなっ! そんなのスザクともしたことないのに!」
「ルルーシュ、おまえの価値観は何時の時代のものだ?」
「うるさい! 人の主義に口を出すな!」
「私としてはシュージィとアッキーラが理想だな」
「それは邪道だ! 基本は『Stand by Me』だろう!」
「それは見たことない。どんな話だ?」
「少年四人が旅に出る青春映画の傑作だ!」
「おまえ、結構余裕だな」
「そうだな、いっそ余裕になってやる。あのマッドサイエンティストから軍の情報を引き出せるだけ引き出してやるさ!」
はははははは、というゼロの笑い声をあげ始めるルルーシュに、C.Cは飽きれたように視線を投げかけた。一見クールそうに見えるルルーシュが、結構情に流されやすいことは十分に知っている。そんな彼が強制的とはいえ「親友」を使い捨てするとは到底思えないし、かなりの確率で無理だろう。それどころかルルーシュの性質からすると公私混同は親友間でも控えるだろうし、それをギアスによって刷り込まれた相手はおそらく軍の情報を漏らすまい。それを考え、C.Cは溜息を吐き出した。
つまりルルーシュとマッドサイエンティストとやらは、いたって普通の親友にしかならないのだろうと思って。





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2008年4月13日













































この話はロイルル小説アンソロジー「Sweet Secret」の原稿に使おうと思ったけれど、やっぱり使わなかった話です。冒頭部分だけ書いていたので、それをアップ。
ルルーシュがうっかりロイドさんと親友になってしまって、ハチャメチャだけれど徐々に本当の親友っぽくなっていって、だからこそルルーシュがギアスの命令であることを苦悩するような、そんな話になる予定でした。しかしあまりにギャグチックな出だしになってしまったのでお蔵入りに・・・。
結局は「ロイドさんのルルーシュへの愛はギアスなんかよりも強いんだよ!」という感じになるはずでした(オイ)
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!