スザルルアンソロ「ETERNITY」の原稿に使おうと思ったけれど、やっぱり使わなかった話です。冒頭部分だけ書いていたので、それをお送りします。
Truth is not enough!
ルルーシュは自分が流されやすい性質であることを自覚している。もちろん嫌いなものは嫌いと言うし、嫌なものは嫌と言う。けれど好悪の幅はそう広く、大抵のものを許容できる自分をルルーシュは知っていた。主観で判断するからいけないのだ。目の前にあるものは目の前のあるのが自然な形なのだと考えれば、殆どのものは受け入れることが出来る。興味を持てるか持てないかは、全く別の話になるけれども。
とにかく、ルルーシュは流されやすい自分を知っている。おまえはそう簡単に頷くなと、コーネリアに苦笑しながら頭を小突かれたのは三日前のこと。あれはもしかしたら、今目の前でにこにこと笑っているシュナイゼルに対してのアドバイスだったのかもしれない。はぁ、とルルーシュは溜息を吐き出した。
「どうかな? ルルーシュ」
貴公子然と微笑む兄の本質をルルーシュは知っている。おそらく本人は自覚していないのだろうが、シュナイゼルは100人以上いるブリタニア皇帝の子の中で、最も皇族らしい人間だ。自分の価値をとてもよく理解しているし、それをどう使えばいいのかを本能で分かっている。下す判断は非情と言われても仕方がないのに、その行為を伏し目がちで悲しげに行うからこそ彼の名声は高いのだろう。それらすべてが計算ならルルーシュとて恐れないが、シュナイゼルは素だから対抗の仕様がない。とんでもない兄だと、ルルーシュは常々思っていた。次のブリタニア皇帝は余程のことがない限りシュナイゼルで決まりだろう。第一皇子や第一皇女の抵抗など障害にさえなりはしまい。無駄な足掻きだと、ルルーシュは冷めた目で長兄長姉らを見やっている。
「折角のお言葉ですが、兄上。私は現状に満足しています。ゆくゆくはエリアの一つでも治めることが出来れば十分です」
「駄目だよ、ルルーシュ。エリアの総督くらいでは君の能力が活かされずに終わってしまう。それはブリタニアにとっても君にとっても良くないことだ」
「私は突出するつもりはないのです。皇子としての役目が果たせればそれで良し。目立つことで得るのは名誉だけはありません。その点は兄上なら良くお分かりでしょう」
暗に長兄長姉に敵視されていることを示せば、シュナイゼルは困ったように眉を下げる。相手の良心を擽る陰った笑みに、ルルーシュはやり辛いと心中で肩を落とした。この兄が嫌いなわけではないのだ。むしろ数いる兄弟姉妹の中で最も尊敬しているし、彼が皇位についたらブリタニアは良い国になるだろうとさえ思っている。けれど、それとこれとは話が別だ。自分だけならともかく、ルルーシュは妹と母親を皇位継承争いに巻き込むつもりはなかった。
「大体、兄上の軍門にはすでにコーネリア姉上とクロヴィス兄上がいらっしゃるでしょう。あの二人だけでも次代皇帝への地盤は揺るぎないと思いますが」
「そうだね、コーネリアもクロヴィスもとてもよくやってくれているよ」
「でしたら」
「それでもルルーシュ、私は君が欲しいんだ」
率直な言葉に、ルルーシュは思わず唇を閉ざす。シュナイゼルのことは嫌いではないのだが、ルルーシュは彼との会話が好きではない。シュナイゼルは本能で何が最良かを分かっている人間なので、彼と比べれば凡人を自負しているルルーシュは思考を駆使してその先を読む必要がある。つまり自分が篭絡させられる手段を読まなくてはならないのだ。何て不愉快な作業だとルルーシュは思う。
「ナナリーやマリアンヌ皇妃には決して危害を加えさせない。私の誇りにかけて誓おう」
確かに、これで妹と母の安全は保証された。シュナイゼルは口にしたことは決して違えない。だからこそ恐ろしいのだと、果たして何人の人間が知っているだろうか。おそらく片手で足りるほどだろうとルルーシュは推測している。
「コーネリアには軍事を、君には政治を頼みたいんだ。先の中華連邦との会談は実に見事だったよ。その前のエリア12での条約締結も、エリア17での憲法制定もとても素晴らしかった」
「・・・・・・父上からお聞きになったのですか?」
「あぁ、嬉しそうに話してくださってね」
嘘だろうとルルーシュは小さく笑った。少なくとも「嬉しそうに」ではなく、「楽しそうに」の間違いだろう。妹と母の身を守るため、害を為そうとする敵を潰す手段や情報を得るために、申し出た諸々の所業。あくまで代理を立てた裏からの介入だったのだが、ブリタニア皇帝がそれをシュナイゼルに話したということは、自分を第二皇子の軍門に加わらせたいと言っているに等しい。どちらにせよ拒否権はないのかと、ルルーシュは瞼を下ろさずにはいられなかった。
「ルルーシュ?」
背を屈め、顔を覗き込んでくる兄に「分かりました」とルルーシュは告げる。
「いいでしょう、シュナイゼル兄上。あなたの側につきましょう」
「ありがとう、ルルーシュ。嬉しいよ」
「ですが、ナナリーと母上の安全が守られている間だけです。二人が平和であるうちは、あなたの役に立ちましょう。先ほどの約束をお忘れなきよう」
「もちろんだ。ナナリーもマリアンヌ皇妃も、そして君も必ず守るよ」
「さしあたって俺は何をすれば?」
「エリア11の枢木玄武を知っているね? ゲットーの統治を任せている、エリア11の元首相だ。彼の行動を調べ、必要ならば適切な処置を取ってほしい」
「エリア11の総督はクロヴィス兄上ですね。分かりました。調べた情報はシュナイゼル兄上に報告すればよろしいですか?」
「同時にクロヴィスにもあげてやって欲しい。表はあの子に任せているから」
「確かに、エリア11は『年功序列』という言葉があるくらいですからね。俺のような未成年者の言葉など一笑に付されるだけでしょう」
「姿に惑わされて本質を見れないのは嘆かわしいことだよ」
掌が伸びてきて、まるで子供をあやすようにルルーシュの髪に触れる。よしよしと撫でられ、これは褒められているのか慰められているのかルルーシュは判断に困った。それが表情に出たのだろう。シュナイゼルは眦を下げて微笑んだ。
「ルルーシュ、君は私の自慢の弟だよ」
「あなたは自慢の皇帝になってください、シュナイゼル兄上」
諦め半分で告げれば、シュナイゼルは嬉しそうに頷いた。やはり流されている自分を感じながらも、ルルーシュはまぁ別にいいかな、などと思うのだった。
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2007年8月19日(2008年3月2日mixiより再録)
この話はスザルルアンソロ「ETERNITY」の原稿に使おうと思ったけれど、やっぱり使わなかった話です。冒頭部分だけ書いていたので、それをアップ。
ルルーシュが皇室にいて、マリアンヌ様も存命でナナリーも元気で、ルルは母と妹を後継者争いに巻き込まないため地味に適当に皇子として暮らしてます。
そんなルルを自分の陣営に引っ張り込みたいシュナ様。
この後の展開としては、ルルーシュは護衛のC.C.と日本に降り立って、そこでスザク&カレンと出会います。スザクは父親玄武の下で動いており、カレンはブリタニアが嫌いで日本を守りたいということで、スザクとタッグを組んでいます。つまりルル&C.C.VSスザク&カレンになるはずでした。
玄武の不正を暴こうとするルルーシュと、偶然出会ってそれに協力するよと申し出るスザク。でも当然スザクは父の邪魔をするルルーシュをどうにかするために寄越された存在で、ルルーシュも当然それに気づいていて、表面上は仲良く親友のようになっていきながらも腹の内では・・・。
と、まぁそんな感じになるはずでした。
しかしシュナ様とルルを書いたら満足してしまいました。スザク、出番すらありませんでしたよ・・・。シュナ様とルルの影響力は偉大だという結論に達した話です。
冒頭のみですが、お付き合い下さりありがとうございました!