君と僕は敵同士です。 / アニメ17話ネタ、スザクとルルーシュ
スザクは校門、ルルーシュは中庭。交流手段は握る携帯電話のみ。ルルーシュ・ランペルージことゼロと、枢木スザクことランスロットのパイロット。友情距離、現在270メートル。
『ごめん、スザク。俺がゼロなんだ』
小さな機械から聞こえてきた告白に、スザクはきょとんと目を瞬いた。咄嗟に「エイプリルフール?」と呟いてしまえば、律儀にも「バレンタインデーの方が早いぞ」という答えが返ってくる。ルルーシュがゼロ。え、本当に?
『黙ってて悪かった。だけどおまえも白兜のパイロットってことを黙っていたんだから同罪だよな』
「白兜って。あれにはランスロットって名前が、ちゃんと」
『円卓の騎士か? 生意気な』
「ルルーシュだって何でゼロなの。無なんて君らしくない」
『すべてを無に帰す。これ以上相応しい名なんてないだろう?』
自信満々に言われてしまえば、ああそっか、なんてスザクも納得してしまう。よく考えれば判ったことなのに、どうして今まで気づけなかったのか不思議で不思議で仕方がない。ゼロの主張はルルーシュのそれとぴったり重なるのだ。そういえば、かつてゼロと会話をしたときの罵られ方もルルーシュと一緒だった。
「そっか、君がゼロなんだね」
『ああ。おまえは白兜のパイロットなんだな』
「だからランスロットだってば」
『あんな化け物、白兜で十分だ』
「酷い。化け物っていうなら君のところの赤い機体だってそうじゃないか。腕がびよーんって伸びてさ」
『紅蓮弐式を馬鹿にするな。おまえなんか脱出装置もついてないくせに』
「あ、それ痛い」
『いつか死ぬぞ、馬鹿』
「ルルーシュだっていつか死んじゃうよ。コーネリア総督、かなりゼロにご執心だし」
からかいを混ぜると、電話の向こうで舌打ちが聞こえる。そういえばゼロは何度かコーネリアとの対戦において黒星を喫している。その一端に自分の存在があることに気づき、スザクは苦笑したけれども。
『それで、スザク』
「何、ルルーシュ」
『俺はおまえを白兜が直っていない今のうちに捕まえてイレブンと一緒に血祭りに挙げてインディアンのごとくウホウホ言いながら周囲をくるくると歌い踊りたくはない』
「うん。僕も運動神経が意外と鈍い君を全力で追いかけて追い詰めて捕獲してロイドさんに引き渡して実験体にしてもらった挙句ホルマリン漬けにはしたくないよ」
『おまえ、本当にいい性格になったよな』
「ルルーシュも結構捻じ曲がったよね」
お互い様だと言って携帯のこちらと向こうで笑い合う。あっはっはっは、と軽快な声が重なった。
「それじゃ、友情は継続だね?」
『そのようだな』
「嬉しいよ、ルルーシュ」
『俺もだ、スザク』
うふふーあははー。花がぽんぽんとスザクの周囲に舞っていく。電話の向こうでも同じ現象が起こっているらしく、ポップコーンの弾ける様な音が聞こえ、電波を介してスザクの元まで花が届いた。スザクの飛ばすのが関東タンポポなのに対し、ルルーシュの花は漆黒の薔薇だ。何の差かは分からない。
『ただスザク、困ったことが一つあるんだ』
薔薇が消える。こてんとスザクは首を傾げた。
『俺はおまえから半径270メートル以内に入ることは出来ない』
「・・・・・・ルルーシュ。僕今、校舎に向かって歩いてるよ?」
『知ってる。ちなみに俺は校舎から逆に遠ざかっている』
「裏門?」
『ああ。おまえ、今スピード上げただろ』
「何で判るの?」
『伊達にゼロはやっていないさ』
「そうだね。この前は簡単に先を読まれちゃったし、僕もいろいろ頑張らないと」
『頑張るな。化け物め』
「だからランスロットだってば。それで?」
『今のはおまえが化け物だと言ったんだ。とにかく、俺はおまえから半径270メートルの距離に入れば、おまえを好きにすることが出来る』
きょとんとスザクは目を瞬いた。何それ、と疑問に抱くよりも先に「好きにすることが出来る」って何をされるんだろうと思ってしまったのは、スザクもうら若き青少年だからだろうか。ええと、どちらかというとされるよりしたいんだけど、とどこか違うことをスザクが考えていると、電話の向こうでルルーシュがコンコンと通話口を叩く。
『帰ってこい、スザク』
「ああ、ごめん、ルルーシュ」
『だからな、俺はおまえの半径270メートル以内に入る気はない』
「え。でもそれじゃあ友情が築けないよ。お弁当のおかず交換も出来ないよ」
『おまえの友情基準は一体どうなってるんだ』
「授業中に手紙回したりとか、放課後クレープ食べに行ったりとか」
『女子高生か』
「ルルーシュならスカートも似合うと思うな」
『おまえの筋肉質な足は直視し難いだろうな。男女逆転祭は地獄だぞ』
「いいよ、軍の任務って言って逃げ出すから」
『逃がして堪るか。巻き込んでやる』
「絶対逃げる。それで、僕がルルーシュに何かしてもいいって話だっけ?」
『逆だ。俺がおまえに何かするんだ』
「えー」
『ほー』
残念、と呟けば、そうかそうかと呆れが返される。校舎までついてしまったので、スザクは靴を履き替えると教室を通り過ぎて屋上に向かった。270メートル。270メートル。リズムをつけて唱えていると、音痴という評価が下された。
「ルルーシュ、その距離ってどうにかならないの?」
『ならなくはない。そのためにはおまえの協力がいる』
「何? とりあえず言ってみてよ」
『サングラスをかければいいんだ。眼鏡ではなく、透過率の低いレンズ』
「学校でサングラスって校則違反じゃない?」
『問題はそんなことじゃない。俺にサングラスが似合わないってことだ』
「そう?」
『俺に似合うのは眼鏡だろう。おまえは黒縁ビン底眼鏡がお似合いだろうが』
「ルルーシュって何気に酷いよね。僕の視力は2.0だよ」
『化け物め。そして更に問題なのは、おまえにもサングラスが似合わないだろうということだ』
「ああ・・・・・・うん」
『どうする、スザク』
「どうしようか、ルルーシュ」
屋上で柵越しに一周してみると、ちょうど裏門に制服姿の誰かが立っているのにスザクは気づいた。試しに手を振ってみる。振り返される。それにしても遠い。これも直線距離270メートルなのだろうが、やっぱりお弁当は交換できないよ、とスザクは呟く。
『サンドイッチでも投げるか?』
「僕はブルーベリー入りのおにぎりを投げるよ」
『全力で避けてやる』
本当に全力で逃げそうな声にスザクは笑う。柵に腕を預けてみると、爽やかな風が髪を揺らした。
「目を隠せばいいんだね? 眼帯は?」
『麗しくない』
「ルルーシュ。君、僕との友情と自分の容姿とどっちが大事なの?」
『白兜のパーツで作ったやつならしてやらないこともない』
「じゃあロイドさんに頼んでみるよ。何かいろいろ面白そうな機能もつけてくれそうだけど」
『防弾仕様にしてもらってくれ。ビン底にはするなよ』
「花柄でレースを山のようにつけてもらうよ」
『ほほう。それをおまえが装着するわけか』
「楽しみだね、ルルーシュ」
『楽しみだな、スザク』
あははははは、と今度は刺々しい笑い声が二つ重なる。それじゃ、とルルーシュが遠目に手を振った。
『眼帯が出来たら呼んでくれ』
「黒の騎士団?」
『いろいろとやらなきゃいけないことが多くてな』
「ランスロットが直るまでは大人しくしててよ」
『気が向けばな。イレブンは殺気立ってるから気をつけろよ』
「うん。ルルーシュも気をつけて」
『全力で?』
「全力で」
二人して声を合わせて「オレンジ」と言い、爆笑のうちに通話を終了する。ルルーシュの細い身体は裏門から消えていき、スザクはひらひらと手を振って見送った。友情距離は現在270メートル。空は青くて、雲は白くて、ルルーシュはルルーシュで、スザクはスザク。笑えるほどにいつもどおりの日常で、スザクは両腕を伸ばして天を仰いだ。
「友情ばんざーい!」
(ばんざーい!)
白の宮殿、黒の皇女 / シュナイゼル殿下と第三皇女ルルーシュ
広い宮殿は常に静かで、緑の木漏れ日と小鳥のさえずり、咲きほこる花々が気配のすべてとなっている。その中を優雅に歩く離宮の主にしてブリタニア第二皇子、シュナイゼルという名の彼は、美しい容姿と類まれな才を持ち、第一皇子を差し置いて次期ブリタニア皇帝との呼び名をほしいままにしていた。頭を下げる使用人たちの前を通り過ぎ、彼は一番奥の部屋へと足を進める。自動ではなく、木で作られたドアを押し開けると、まぶしい光が部屋中を満たしていた。天井の代わりに半球を描いているガラスのドームの向こうから、青空と共に優しい日差しが降りかかっている。植えられている木々に、ささやかながら水を流している噴水。大理石の敷き詰められている人工的な庭園の中に、色鮮やかな花が咲いている。シュナイゼルが部屋の中央へ足を進めると、一台のベッドが見えてきた。床に劣らない純白のシーツと支える金属のシルエットが美しく、柔らかなマットレスの上から細い腕が落ちている。くすりと、シュナイゼルはその美貌に笑みを浮かべた。足音は消していないから、自分の存在には気がついているのだろう。けれど迎えようとする様子はなく、横たわっている身体は動かない。ベッドの横まで来ると、シュナイゼルは零れている腕を取り、そっと日に焼けていない内側をなぞった。
「クロヴィスが死んだよ」
握っている腕の先で、二本の指がぴくりと動いた。桜色の爪は形良く、シュナイゼルは惹かれるままにそれをなぞる。色は白く、関節も目立たない、まるで人形のような指先、手のひら。親指の付け根に唇を落とせば、かすかな温もりが生きていることを証明する。
「殺したのはゼロだ。分かるな? エリア11で台頭してきた、反ブリタニア勢力」
シーツの上に広がるのは、またも白。飾りのないドレスが身体のラインを映し出す。広がっている裾はわずかに乱れており、目を細め、それを直す。艶めかしいふくらはぎが薄い布の下へと消えた。滑らかな足を指先で辿る。丸い膝、柔らかく弾力のある太股、くびれている腰、静かに上下を繰り返している腹。華奢な身体に似合わない豊満な胸は、横になっていることでその大きさを変えている。薄布一枚を隔てて、指先は鎖骨にたどり着いた。首筋を撫で上げ、耳をくすぐる。
「次の総督にはコーネリアが就任した。だが皇族を殺した輩には、地獄よりも惨い制裁を与えなくては民衆に対し示しがつかない」
少しだけ丸みを残す顎、柔らかすぎる頬、すっと通った鼻筋に、みずみずしい果実のような唇。押し当てて縁をなぞれば、うっすらと紅が開かれた。差し込んだ指先で前歯を開けさせ、深い色の舌を絡め取る。
「コーネリアは武人故、戦場で殺してしまう可能性がある。そうならないよう、絶対の確保を」
シーツに散っている髪は長く、見事なコントラストを描いている。絹のような黒。深みがあり、碧にも蒼にも見える。絡まず落ちていくそれに色よくし、シュナイゼルは指先を閉ざされているまぶたへと添えた。皮膚を下、うごめく眼球。震えたまつげは長く、押し上げられていくまぶたは、人形が人間へと生まれ変わっていくかのようだった。この世のものとは思えない美しい紫が、シュナイゼルを、空を仰ぐ。
「ゼロの確保を。出来るな?」
「・・・・・・はい」
「いい子だ」
ゆるりと頬を撫ぜ、シュナイゼルは微笑みかける。白に溺れる少女の手を引き起こすと、長い髪が背で揺れた。素肌の足が大理石の上に舞う。
「出陣だ、黒の皇女―――ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
まぶたが再度下ろされ、そしてゆっくりと瞳を露わにしていく。その姿に先ほどまでの人形じみた気配はない。鋭すぎるまなざしが、彼女を確かな人だと証明していた。
(シュナルルでルル←スザクで、ゼロルルになる予定でした)
十分たる理由によって / 生徒会でゼロばれ
放課後の生徒会室で、不在のシャーリーを除く面々はそれぞれに仕事をこなしていた。ミレイは次のイベントの企画を練っており、リヴァルは手元の書類を清書している。ニーナはパソコンのキーボードを叩いており、スザクとカレンは距離を取りながらもファイルの整理をしている。ルルーシュは予算案にペンを走らせていたけれども、ふとその指先が止まった。誰もが自分の仕事をこなしていたために気づくことはなかったけれども、緩やかに白いまぶたが下ろされ、次いで持ち上げられ、露わになった瞳。
「・・・・・・っは! ははははははっ! あはははははははっ!」
突如上がった狂ったかのような笑い声に、生徒会の面々はびくりと肩を震わして発した人物を振り返る。視線を一身に浴びることになったルルーシュはペンを放り出しており、その左手は自身の顔を覆っている。垣間見える表情は常の涼しい横顔ではなく、狂気に満ち満ちたものだった。どうしたの、と声をかけさせる隙もなく、ルルーシュは常より低い声で笑う。
「そうか、ルルーシュ、分かったよ。後は私に任せておまえはお休み。大丈夫だ、私に任せておけばいい。おまえの望む世界は私が作り上げるから、おまえはゆっくり休め。愛しているよ、私の半身」
「ルルちゃん・・・・・・?」
おそるおそる名を呼んだミレイに、ルルーシュは顔を向ける。椅子から立ち上がった彼は緩やかに左腕を下ろした。あらわになった左目が、今は鮮やかな紅に変わっている。彼は唇をつり上げて笑った。ルルーシュは決して見せない、睥睨するかのような顔で。
突然笑い声を上げ、自らの名を呼んで立ち上がったルルーシュに、ミレイは恐怖を感じた。ニーナもそれは同じらしく、彼女は椅子の上で身を引き、小さな悲鳴を漏らしている。リヴァルは困惑を顔に浮かべていて、ルルーシュ、と声をかけようとしたスザクは、突如自分を見た紫と紅の瞳に言葉を飲み込まされた。一対だった紫玉の宝石が、今は片方だけ色を変えている。血のように鮮やかな赤。彼はスザクから視線を逸らす。次いで向けられたのは、警戒するように目を細めていたカレンだった。
「・・・・・・カレン」
呼び捨てられた名に、びくりと肩が震える。カレンの瞳が大きく見開かれたのをスザクは見た。構えていた彼女の身体から力が抜けていく。ルルーシュはもう一度名を呼んだ。
「カレン、私が分かるか?」
「う、そ・・・・・・」
「私が分かるか?」
二度目の問いに、はい、とカレンが頷く。その瞳には涙が浮かんでおり、感極まったその様子は紛れもない喜びだった。分かります、と彼女はルルーシュを見つめる。
「来い、私の騎士よ」
「はい・・・っ!」
持ち上げられた制服の黒い腕の先、ルルーシュの手に駆け寄り、カレンは両手ですがりつくように握りしめる。涙さえ流して喜びを表す彼女を見下ろして泰然と微笑むルルーシュは、完全に常の彼ではない。カレンがただの女子学生でないことを知っているスザクにとって、彼女がそんな風に歓喜する相手は一人しか思い当たらなかった。だけどそれは違う、と心中で呟く。だって数瞬前まで、彼はいつものように生徒会の書類を片づけていたのだ。軽い皮肉と柔らかい言葉を交わしながら、いつものように。
「ルルーシュ・・・・・・?」
リヴァルが彼の名を呼ぶ。しかし、紫の右目と、紅の左目を持つ彼は高慢に笑った。
「ルルーシュではない。私の名は、ゼロ」
誰もが息を呑む。カレンが誇らしげにスザクを見やった。
「黒の騎士団のリーダー、ゼロだ」
(こんなゼロばれ。ルル大好きなゼロ様はスザクに絶望を与えることを喜びにしそう)
2008年2月9日