【「凶星は二つ輝く」を読むにあたって】

この話では、ルルーシュとゼロが別々に存在します。双子です。
加えてユーフェミアに対し辛辣な表現がありますので、そういったものが苦手な方はご覧にならないで下さい。何でも大丈夫という方のみどうぞ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼












































スザクの主であるユーフェミアは、ブリタニア第三皇女でありながらも16歳という年齢から公の舞台に立つことは少ない。孤児院や病院、もしくは復興地への慰霊訪問などが多く、その際はスザクも必ず彼女の傍に控えることを義務付けられていた。ユーフェミアは実姉のコーネリアに囲われて育ったため世間知らずなところがあるけれども、本質は慈愛に溢れており、属国の人間であるスザクを騎士に任命したことからも分かるように人種への偏見もない、優しい皇女である。周囲からの視線は厳しいけれども、彼女の騎士になれたことを光栄だとスザクは思っていた。
しかし困ったことも一つあった。ユーフェミアは大の小動物好きで、彼女と姉の暮らす離宮にも多くの猫や犬を飼っている。しかしスザクは概して小動物に嫌われるという性質を持っていた。彼本人は猫も犬もハムスターも可愛くて触れたいと思っているのに、当の動物たちがそれを許してくれないのだ。それが、そもそもの発端だった。





凶星は二つ輝く





「誰だ」
ユーフェミアの特別可愛がっている猫を追って、知らないうちに入り込んでしまった他の離宮で、スザクは鋭い声に身を震わせた。その気配に思わず身構えると、樹の影から一人の少年が姿を現す。同じ歳くらいの相手は、漆黒の髪に深く色濃い紫の右眼を持っていた。
繁る若葉の緑。高い空の青、小さく漂う雲の白。気高い芳香を放つ薔薇の紅。他にも数えきれないほどの色が散乱している中で、スザクにはその人物だけが世界とは全く異なる色を持っているように見えた。髪の黒も肌の透き通った象牙色も、輝きを放つ右眼の紫も、スザクが今まで見てきたものとは根底から異なり、その人物を象るためだけに存在しているかのようだった。
シンプルなシャツとスラックスがそよぐ風に少しだけなびく。左眼を覆う眼帯がぞっとするほどに艶を帯びていて、スザクはごくりと喉を鳴らした。隻眼など関係ない、恐ろしいほどに美しい人だ。けれど放たれる威圧はユーフェミアとは比べ物になるはずもなく、コーネリアに劣らない強さを帯びていて、目の前の彼を触れることさえ許さない高潔に押し上げる。皇族だとスザクは頭のどこかで理解した。だけど膝を折ることさえ出来ない。かち合った瞳は、スザクの僅かな動きでさえ許さないと言外に述べていた。送られる声は冷徹に満ちている。
「誰だと言っている。ここがアリエスの離宮と知っていての狼藉か」
「っ・・・も、うしわけありません・・・・・・!」
「名乗れ。生かすか殺すかはその後で決めてやる」
形の良い唇が残酷に閃く。反射的にスザクの身体は片膝を折り、深く頭を下げていた。
「第三皇女ユーフェミア殿下が騎士、枢木スザクにございますっ!」
額に浮かんだ汗が頬を伝う。恐ろしいまでの格というものと、スザクは今まさに対面していた。歳も変わらない相手に、それでも身体が先に動いてしまう。屈せられるほどのものを、目の前の相手は持っている。
「ユーフェミア・・・・・・慈愛の皇女か」
呟きは小さなものだったけれど、スザクはその中に侮蔑の色が混ざっていることに気がついた。思わず身を震わせれば、それに気づいたのか少年が声を上げて笑う。
「主を侮辱されて腹が立ったのか? あれがお飾りなのはおまえも気づいているだろう?」
「・・・・・・僭越ながら、申し上げることをお許し下さい」
伏せていた顔を上げる。見下してくる紫の右眼は、玩具を見つけたかのような愉悦を浮かべていた。それをまっすぐに見つめ、スザクは言葉を返す。
「ユーフェミア様の御優しさは本物です。あの方の慈愛に多くの民が癒されております」
「そうだな、それは事実だろう。皇女は美しく御奇麗であってくれというのが大概の民の願いだ」
「でしたら」
「だが、その願いがユーフェミアに当てはまったというだけで、あれ自身は何の努力もしていない。コーネリアが奇麗なものだけを見せているせいもあるだろうが、今のままでは民衆に飽きられるのも早いだろうな。実のない花は散るばかりだ」
今度の笑いは完全な蔑みで、スザクは眉を顰める。皇室における皇子皇女たちの権力争いの激しさは、まだ騎士となって日の浅いスザクにも理解できていた。ユーフェミアとその姉コーネリアの母は皇妃としての身分が高かったため表立っての争いはないけれども、裏では多くの陰口を囁かれている。実際にスザクもその現場を何度も目にしてきた。
けれど今目の前にいる彼は、そんな口だけの輩とは違うと何故かスザクは直感していた。これだけの人物が、ただの皇子であるはずがない。しかし公の場で、スザクは彼の姿を見たことがなかった。
「私の名が気になるか?」
くすりと、少年が笑う。スザクの頬がかっと熱くなった。
「ユーフェミアは言わなかったのか? 『アリエスの離宮にだけは近づくな』と」
「・・・・・・自分はまだ、騎士になって日が浅く」
「その言い訳が通じるなら、軍事裁判に意味はない。これはおまえではなく、あれの落ち度か。そこまで平和ボケしているとは」
「ユーフェミア様は関係ありません!」
声を荒げて言い返してしまってから、スザクは自分のしでかしたことに息を呑み、顔色を蒼白に変えていく。皇族に暴言を吐くなど、それこそ打ち首になっても文句は言えない。紫の右眼がゆるりと細められ、喜色の色を浮かばせる。
「よほど死にたいと見える」
黒のシャツに包まれた腕が持ち上がり、長い指がそっとスザクの頭上へと向けられる。避けることはたやすい。けれどそうできない何かが、目の前の相手から発されていた。心だけが迫り来る恐怖に脅える。ふと、相手が唇を緩めた。

「駄目だ、ゼロ。そいつは殺しちゃいけない」

同じ、声だった。けれど目の前の唇は言葉を紡いでおらず、彼は半身を返して後ろを向く。そこには、まったく同じ容姿をした少年が一人、猫を抱えて立っていた。眼帯に覆われた右眼。左眼の紫がスザクを捉える。ゼロと呼ばれた少年は、愛しげに彼の名を呼んだ。
「ルルーシュ」
「戻ってくるのが遅いと思ったら。こんなところで油を売っていたのか」
「鼠が一匹入り込んでいたからな」
「どうせこの猫を探しに来たんだろう?」
ルルーシュと呼ばれた少年は、肩をすくめてゼロの隣まで歩み出る。彼もシンプルなシャツにスラックスを履いており、細い腕でスザクの探していた猫を抱いていた。ユーフェミアが飼い始めたばかりの、グレーの毛並みが美しい動物。スザクのことなんて歯牙にもかけなかったその猫が、今は彼の腕の中でごろごろと喉を鳴らしている。そんな様子はユーフェミアに構われているときでさえ見せたことがなく、スザクは眼を見張った。
「ほら、もう逃がすなよ」
外見の美しさに相反するようながさつな動作で、猫がずいっとスザクの前に押し出される。おずおずと受け取れば、猫はスザクが不満らしく、ふぎゃあと鳴いて爪を立てた。顔を顰めたスザクにゼロは唇を吊り上げ、ルルーシュは楽しそうに笑う。
「おとなしくしてろよ」
抵抗を繰り返す猫の頭をルルーシュが撫でると、まるで嘘のように動きが止む。その手が離れても猫はスザクの腕の中で静かに丸まり、心地よさげに眼を閉じている。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
礼を述べれば、ルルーシュの左眼がゆっくりと細められる。彼の容姿はゼロとかけらも違わず繊細な美で象られていたが、ゼロが冷酷な美だとするのなら、ルルーシュは典雅な美だった。放たれる威圧も問答無用に膝を折らせるものではなく、絡めて気づけば屈させるような、そんな香りを持っていた。いつの間にか彼の指先が自身の頬に触れていて、スザクはどくんと胸を弾ませる。喉が鳴る。ルルーシュが笑う。
「枢木スザク」
魂が吸い取られたように動けない。
「おまえに、黒の皇子の祝福を」
細い指の腹がスザクの唇を撫で、離れる。並び立ち、ゼロとルルーシュが笑う。その様はあまりに倒錯的で、見るものに得難い興奮をもたらした。風が吹き、アリエスの離宮を隠していく。
スザクが我に返るとすでに二人の姿はなく、ただ腕の中で猫が静かに抱かれていた。



広い宮殿の中を迷いかけながらもユーフェミアの離宮に戻ると、彼女は両手を開いて猫を抱きとめた。
「見つけて下さりありがとうございます、スザク」
メイドによってテラスに席が用意され、スザクは示されるままそこにつく。以前は恐縮して辞退していたのだけれども、ユーフェミアは強引にスザクを休憩の共に引っ張り出していた。にゃーあ、とスザクには理解できない言葉で話し掛け、ユーフェミアはグレーの毛並みを愛しげに撫でる。
「この子、どちらにいたのですか?」
「・・・・・・っと、それは」
「スザク?」
言葉を濁した騎士に、ユーフェミアは首を傾げる。言うべきか言わざるべきか悩んだけれども、黙っていることが後にユーフェミアの不利に働いてはいけないと思い、スザクは答えを返した。
「その猫は、ルルーシュ様が捕まえて下さいました」
ユーフェミアの肩がびくりと震える。信じられないように瞳が見開かれ、猫を撫でる手が止まった。
「探しているうちにアリエスの離宮に迷い込んでしまいまして・・・・・・ゼロ様とルルーシュ様にお会いしました」
「・・・・・・アリエスの離宮に、行ったのですか」
「はい。結果的には、ですが。申し訳ございません」
深く頭を下げる。このブリタニア宮殿においては、例え皇子皇女といえど他皇妃の離宮に許可もなく足を踏み入れることは固く禁じられている。それこそゼロの言っていた「生かすか殺すか」という話に発展してもおかしくないくらいなのだ。それを考えれば、無事に戻ってこられたスザクは運がよかったとしか言いようがない。
スザクが二人の皇子を思い出していると、ユーフェミアの手が小刻みに震えているのに気づく。
「ユーフェミア様?」
「あっ・・・・・・申し訳ありません、スザク」
「どうかなさいましたか? 御気分でも」
「いえ、大丈夫です。久しぶりにお兄様方のお名前をお聞きしたので・・・・・・その、驚いてしまいまして」
ユーフェミアは微笑んで紅茶のカップに手を伸ばすけれども、それが無理をしている動作だということは見ていれば分かった。けれどスザクはどうしてもさっきの二人が気にかかり、問いを重ねてしまう。
「ゼロ様とルルーシュ様は、ユーフェミア様にとって兄君に当たられるのですか?」
「・・・・・・ええ。スザクにはまだ話していませんでしたね」
カップを両手で囲い、ユーフェミアは話し出す。
「ゼロお兄様とルルーシュお兄様は、第十一と十二皇子で、十七・十八位皇位継承者です。お歳は私と一緒で、今年で17歳になります」
それはスザクとも同じということであり、やはり初対面の印象は間違っていなかったとスザクは思う。
「お兄様方のお母様はマリアンヌ皇妃とおっしゃられるのですけれど、もう亡くなられていまして、今はお二人でアリエスの離宮に住まれています」
「双子、ですよね?」
「はい。左目に眼帯をしていらっしゃるのがゼロお兄様、右目に眼帯をしていらっしゃるのがルルーシュお兄様です」
「無礼を承知でお伺い致しますが、その目は怪我か何かで・・・?」
黒い繊細な模様の眼帯を思い出しながら問えば、いいえ、とユーフェミアは桃色の髪を振って否定した。震える拳を膝の上に揃え、にわかには信じ難いことを言う。
「ゼロお兄様の左目と、ルルーシュお兄様の右目には、恐ろしい力が宿っているのです。―――ギアスという名の、王の力が」
それが何なのかスザクに具体的に問わせる前に、ユーフェミアは椅子から立ち上がり、膝の上に抱いていたグレーの猫を地面に下ろす。スザクが探してきたその猫はユーフェミアを見上げようともせず、伸ばされた手から逃げるようにテラスから駆け出していった。捕まえようと立ち上がりかけたスザクを、ユーフェミアが留める。
「良いのです、スザク」
「ですが、ユーフェミア様」
「良いのです。あの子の主はもう、私ではないのですから」
振り向いた顔は歪められており、その瞳は泣きそうだとスザクは思う。化粧のされている唇が吐き出すように言葉を綴る。
「ギアスは神の力。ブリタニアを守護する魔女が与える、人心を惑わす異端の術です。アリエスの離宮に足を踏み入れ、黒の皇子に魅入った者は、一瞬で心を奪われる。そう言われています」
囁き、ユーフェミアは唇をかみしめる。その赤にスザクはルルーシュを思い出した。彼の白く細い指が、スザクの唇を撫でた。僅かに漏れた吐息が押し返され、背筋が震えたのを覚えている。ユーフェミアがわななくように問う。

「スザク、あなたの主は誰ですか・・・・・・っ?」

あなたです、ユーフェミア様。そう答えなくてはならないというのに、何故かスザクの脳裏にはルルーシュの姿が浮かんでしまった。ゼロの隣、紫の左眼を細めて笑う、その姿。魂を絡め取られてしまったのかもしれない。
アリエスの離宮で、二人の皇子が笑っている気がした。





ゼロルルでスザルルでゼロカレになる予定でした・・・。
2007年2月15日(2007年9月21日mixiより再録)