【「姫君と騎士と騎士」を読むにあたって】

この話はルルーシュが女の子で、カレンが男の子です。スザクは変わらず男です。
加えてスザク→ルルーシュ←カレンなので、そういったものが苦手な方はご覧にならないで下さい。何でも大丈夫という方のみどうぞ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!



▼ 大丈夫です、読みます ▼












































絹のように滑らかな黒髪だとか、風に攫われそうな細い身体とか、鋭さと儚さを併せ持つ瞳だとか、何時しかそんな、数え切れないくらいの所作に惹かれていた。心が自然と彼女を見つめる。
守りたいと、思う。





姫君と騎士と騎士





ルルーシュ・ランペルージという少女は、その硬質な美しさと隙のない身のこなしで、アッシュフォード学園では有名な存在だった。少年のように短い髪と涼やかな顔立ちは同性の女子からも感嘆を誘い、細いけれどもメリハリのある身体つきと一瞬のぞっとするような色艶は男子たちの視線を集めて止まない。生徒会長のミレイと並ぶ様は圧巻であり、当代の生徒会は能力も含めて最高峰だと言われていた。
ルルーシュ・ランペルージは美しかった。彼女は張り詰めた糸の上にある、今にも崩壊してしまいそうな危うさを含んでいた。

「おはよう、ルルーシュ」
生徒会室で昼食を取り、教室に戻ってきたところで声をかけられ、ルルーシュは振り向いた。今朝はなかった茶色の髪と翡翠の瞳が目に入り、自然と笑みを浮かべる。基本的に差し障りのない表情しか見せない彼女が、こんな風にごく僅かでも素顔を覗かせる相手は珍しい。その筆頭がスザクであり、彼女の笑みを受けて、彼も柔らかく微笑んだ。
「おそよう、スザク。今日は来れたんだな」
「うん。訓練が早く終わったんだ。放課後はまた戻らなくちゃいけないんだけど」
「午前のノートなら取ってあるから、後でコピーしとけよ」
「ありがとう。いつもごめん」
「そう思うなら、今度何か奢れ」
会話だけ聞いているとまるで男同士のようだが、そうでないことは見ていれば判る。スザクはいつだってルルーシュを女性扱いしている。歩いているときだって椅子が出ていればさりげなく直し、彼女がぶつからないように道を開けている。重いものはいつだって持つし、先回りして何かをすることも多く、そんなスザクの行為をルルーシュも黙認しており、まるで淑女に対する紳士のそれだと密やかに噂されていた。スザクは名誉ブリタニア人だけれども、それでも似合いの二人だと囁かれている。しかし、それは彼だけではなかった。
次の授業までの時間を穏やかに話しながら過ごしていると、ざわりと教室の空気が揺れる。扉を開けて入ってきた男子生徒は、スザクと同じく午前は不在だった。赤く肩につくほどの髪を静かに揺らし、優しげな顔で彼は微笑む。
「おはよう、カレン君。身体大丈夫なの?」
「うん。心配かけてごめん」
かけられる声に言葉を返しながらも、彼はまっすぐに躊躇うことなくルルーシュの元へと向かってくる。自然とスザクの表情が険しくなったことに、気づいたのは果たして何人いたのか。二人のすぐ前まで来て、カレンは少女めいている整った顔に笑みを浮かべる。
「おはよう、ランペルージさん」
「おはよう、カレン」
「カレン、おはよう」
「おはよう、枢木君」
にこやかに挨拶をしながらも、カレンの目はルルーシュしか捉えていない。スザクに向けられたのは形ばかりのそれだ。鞄を自分の席に置いて戻ってきたカレンは、やはりルルーシュだけを見て尋ねる。
「ランペルージさん、よければ午前のノートを貸してもらえないかな」
「悪いな。先にスザクに貸す予定になってるんだ」
「そう。じゃあ枢木君の次に貸してもらえる?」
「ああ。スザク、コピーしたらカレンに回してやってくれ」
「うん、判った」
「ごめんね、枢木君」
すまなそうに謝るカレンは、病弱な印象をそのまま映したかのような繊細な雰囲気を持っている。けれどスザクは、それとは違う何かを彼から感じていた。カレンの物腰は柔らかいし、体調のせいで学校は休みがちだけれども自分よりも成績は良い。シュタットフェルト家という名門の子息でもあるというのに、どうしてだろう。その原因はおそらくルルーシュだと、スザクは思う。カレンは、まっすぐにルルーシュの瞳を見つめて話す。ともすれば吸い込まれてしまいそうな深さと激しさを持つアメジストの瞳を、彼は逸らすことなく見つめるのだ。そして、笑う。
カレンがルルーシュに笑いかける度、スザクの不安は募っていく。急き立てられるような焦燥を覚える。それはあまりに、カレンの目が慈しみを帯びているから。カレンの視線を受け止めるルルーシュの顔に、信頼が溢れているから。苦しくなるような胸の軋みが、心の内で訴える。
予鈴のチャイムが鳴り、カレンが顔を上げる。彼はやはり柔らかく微笑んだ。ルルーシュに向けて、だけ。
「じゃあ、また」
「寝るなよ、カレン」
「寝ないよ。ランペルージさんこそ先生にばれないよう気をつけて」
交わされる軽口は、ルルーシュのことを良く分かっていないと言えない内容で、そのことにスザクは机の下で拳を握り締めた。このくらいのことなら、生徒会で一緒のリヴァルだって知っている。だけど彼は見逃せても、何故かカレンは許せない。その理由をスザクは理解している。自分の心の狭さに、何度溜息を吐き出したことか。
「ルルーシュ」
席に戻るため立ち上がったルルーシュに、スザクは思わず手を伸ばしてしまった。触れることで判る見た目よりも細い手首に、庇護欲と共に真逆の感情が膨れ上がる。だけど大切にしたいから、スザクはいつだってそれを押さえ込んできた。好きだから触れたい。だけど怖がらせたくない。好きだから大切にしたい。―――好きだから、他の男に譲りたくない。譲れない。譲らない
「・・・・・・今度の休み、ケーキを食べに行こう。美味しいお店を教えてもらったんだ」
ノートの御礼にどう? と首を傾げて尋ねながらも、心の中は必死だった。どうか頷いてと願いながらの誘いに、ルルーシュはぱちりと目を瞬いた後でゆっくりと唇を吊り上げる。凄惨なその表情はすべてを見透かしてしまいそうで、スザクの心臓が張り裂けそうになっているのを彼女はきっと知らない。
「おまえ、休みなんて取れるのか?」
「取るよ。絶対」
「そうだな、取れたら行ってやってもいい」
「約束だよ?」
七年前のように小指を絡めれば、ルルーシュは呆れたようだったけれども振り解きはしなかった。本当は手の甲にキスを落として宣誓をしたかったけれども、スザクのその行為は、今はユーフェミアにしか許されていない。軍人である手前、彼女の騎士になれという申し出を断ることは出来なかった。気持ちの伴わない誓いも、ルルーシュの安心して暮らせる世界を作るため。そう言い聞かせ、スザクは絡めていた小指を離す。
席に戻るルルーシュの後ろ姿を見つめる。カレンの横を通り過ぎる際、彼が消しゴムを落としたので拾い上げ、手渡す。その指先を捉え、カレンがそっとルルーシュの手の甲にキスを落とした。戯れのような御礼に、ルルーシュが屈託なく笑う。
それだけのことに、スザクの中を醜くどす黒い感情が溢れかえる。カレンの唇が、小さく弧を描いた気がした。





た の し い ・・・!
2007年1月25日(2007年4月5日mixiより再録)