【「奇しき愛が現じた」を読むにあたって】
この話はユーフェミア→ルルーシュ(ゼロ)なので、スザク×ユーフェミアがお好きな方、アニメ22話ネタバレが嫌な方は決してご覧にならないで下さい。
どんな話でも大丈夫という方のみご覧下さいませ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!
▼ 大丈夫です、読みます ▼
ドレスの裾を持ち上げる。あぁ、すごく走りにくい。だけど仕方がないの。だって綺麗な格好で会いたかったんだもの。嬉しかった。嬉しかった。来てくれて嬉しかった。認めてくれて嬉しかった。受け入れるって、言ってくれて、本当に本当に嬉しかった。大好きよ、大好きよ、世界で一番大好きよ。ねぇ、聞こえる? 広がる青空、広がる人々。ねぇ、聞こえる? 聞こえる? 声を張り上げて叫べるわ。
「日本人を名乗る皆さん、お願いがあります! 死んで頂けないでしょうか!?」
手の中の銃を持ち上げる。あの人のもの、あの人のもの。大好きよ、大好きよ、大好きよ。
大好きよ、ルルーシュ。この銃声は私からあなたへの愛の告白!
奇しき愛が現じた
意識を取り戻したスザクが目にしたのは、理想郷から一転して地獄と化した式典会場だった。地を揺るがして響く銃声、吐き気を引き起こす血の臭い、聞こえてくる断末魔。行政特区日本を支持して集まったイレブン―――日本人たちが、ことごとくナイトメアフレームによって殺されていく。目を疑う光景だったが、それよりもスザクが信じられなかったのは、その虐殺が自分の主、ユーフェミアの命によるものだということだった。名誉ブリタニア人だが元は日本人だと言われ、仲間からも銃を向けられる。それを交わしながらスザクはユーフェミアを探した。けれど喧騒で埒があかず、ランスロットに搭乗して式典会場を駆けめぐる。
「ユフィがこんなことをするわけがない・・・・・・っ!」
事実と懇願から来る言葉を叫びながら走り回り、スザクはようやくユーフェミアを見つけた。見つけたくなかったと、彼女を目にした瞬間に、したくなかった後悔をしながら。
「ユフィ!」
ランスロットから降りたスザクに、ユーフェミアはドレスをふわりと揺らして振り返る。向けられた笑顔は、今朝会話したときと変わらない慈愛に満ちたもの。
「スザク、どうかしたのですか?」
「どうしたって・・・・・・!」
まるで焦っているスザクの方がおかしいかのように、ユーフェミアは小首を傾げる。長い桃色の髪が揺れる。白いドレスの裾が紅に染まっている。純白の皇女。その手のひら。花を抱えるのに相応しいその手のひらに、今握られているもの。初めて触れただろうマシンガンを、愛しげにユーフェミアは持ち上げる。
「ユフィ・・・・・・」
「スザク?」
「どうして。何で、こんな」
震えながら問うたスザクに、ユーフェミアは微笑んだ。スザクの初めて見る艶やかな、女の顔で。
「だって、日本人は殺さなきゃいけないんですもの」
囁きはとても自愛に満ちたものだった。彼女の手の中のマシンガンと、足元に倒れている人間たちの存在がなければ、聞き流してしまいそうなほどに。
「どうして! 君はブリタニア人と日本人を平等にするためにこの特区を!」
「ええ、そうでした。でも判っちゃったの。私、愛してるの。愛してるの、愛してるの、愛してるの、大好きなの」
うふふ、と手のひらを唇に寄せる。マシンガンの銃口が彼女の瞳と同じ位置で輝き、そのきらめきにスザクはぞっとした。こんな彼女は知らない。本能がそう告げる。
「大好きなの、一緒にいたいの、守ってあげたいんです、そのための特区だったんです、認めてくれたんです、一緒にって、一緒にって、言ってくれたんです」
嬉しい、嬉しい、嬉しい。頬を薔薇色に染めて、ユーフェミアは顔を上げる。
「だけど気づいちゃったの、怖がってるの、だから守ってあげたいの、私の、この手で、あの人を守ってあげたいの」
「あの人・・・・・・?」
「ごめんなさい、スザク。私、あなたのことを好きだと言ったけれど、それは間違いでした。ううん、好きだったかもしれない。だけど私、もっと好きな人がいたんです」
気づいちゃった、気づいちゃった、気づいちゃったの、私。蕩けるようなまなざしでユーフェミアは語る。
「あの人が怖がってるんです、だから日本人を殺すんです」
「どうして!」
「怖がってるんです、だけど優しいから受け入れようとしてるんです、愛しい人、変わらない、大好き、愛してる」
ユーフェミアは両手を広げる。重いはずのマシンガンをいとも軽々と片手に抱え、空を仰ぐ。周囲を埋め尽くしている虐殺を、まるで我が子のように優しく優しく見回して。
上空の漆黒の機体に、告白を叫ぶ。
「愛してます、愛してます、愛してます、愛してます! 私の世界! 私の平和! 私の希望! 私の夢! 愛してます! 私の愛! 私の、私の・・・・・・っ!」
ガウェインから降り立った相手に、ユーフェミアは駆け出した。放られたマシンガンが躯の上を転がる。スザクの眼前、絶望が晒される。それは殺戮と自愛と共に。ユーフェミアは腕を伸ばして抱きついた。
「私のゼロ! 愛してます! 大好き、大好き、大好きっ!」
どうして。何で。その二つの単語しか浮かばないスザクの前で、ユーフェミアは愛しげにゼロの首へと腕を伸ばし、彼の胸へ己の頬を擦り寄せる。この男が彼女を狂わせたのか。スザクの中を怒りが突き抜けたが、言葉を発するよりもゼロの手がユーフェミアの肩を掴んだ。
「ユーフェミア、もう止めろ! 兵士たちを止めるんだ!」
「どうしてですか、ゼロ。日本人がいなくなれば、あなたも安心出来るでしょう?」
「誰がそんなことを言った!」
「だってあなた、怖がっているじゃない。二つもあるからいけないの。片方がなくなれば怖くないわ。大丈夫、日本人は私が殺してあげるから。そうしたら一つよ。あなたを怖がらせるものなんて何もない」
「ユフィ!」
「大丈夫よ、ゼロ、守ってあげる、守ってあげる、守ってあげる、守ってあげる、大好きよ、愛しているわ、私のゼロ、愛しい人」
白く細い指先が、丁寧にそっと仮面をなぞる。爪先に赤黒い塊がこびりついていて、それが血液なのだとスザクは気づいた。ゼロも悟ったのか、唯一露になっている緋色の眼を歪める。苦痛に歯軋りするかのような気配をなだめるように、ユーフェミアは彼の瞳に口付けた。
「日本人を殺して、幸せな国を作りましょう」
慈愛の微笑みをゼロにだけ向け、彼女は絡めていた腕を名残惜しげに放す。足元のマシンガンを拾い上げてスザクを振り向いたユーフェミアの目に、一瞬前までの艶はない。今朝の穏やかさすらなく、彼女は物を見るかのようにスザクを見据えた。
「そういえばスザク、あなたも日本人でしたね」
はっと息を飲んだのはゼロも同じで、彼は声を荒げて叫ぶ。
「逃げろ、枢木スザクっ! 今のユーフェミアはユーフェミアではない!」
「な・・・・・・っ」
「どうして私は、日本人を騎士になんてしたんでしょう。殺さなければならないのに」
「逃げろスザク! 死にたいのかっ!」
「だって・・・・・・! どうして、ユフィ! どうなってるんだ!」
「馬鹿が! ユフィ、止めろ! ユフィ!」
困惑も懇願も届かない。屍の中、ユーフェミアはマシンガンを持った腕を持ち上げる。皇女の手の中、輝きを放つ銃。
慈愛の皇女、スザクの主、平和を願う姫君。扉を開いてくれた、敬愛すべき少女。彼女は一度まぶたを下ろし、緩やかに露にした瞳でスザクを見つめた。そこに慈愛の色はない。
ただ紫の瞳で。ただ、紫の瞳で、彼女は自愛を囁き続ける。
「スザク、死んで下さい。私とゼロの平和のために」
撃鉄にかけられている指に力を込められていくのを、スザクはスローモーションを見るかのように眺めていた。敵であるはずのゼロが逃げろと言う。味方であるはずのユーフェミアが死ねと言う。真実が溶けていく中、スザクは己の意識が途切れるのを自覚した。翡翠の瞳が、緋色に染まる。生きろと命令が下される。
誰かの泣く声が聞こえた気がした。
ねぇルルーシュ、本当はね、ナナリーのためじゃないの。うぬぼれ屋の、誰かさんのためだったのよ。
2007年3月25日