何の力が働いたのかは知らないが、ゼロことルルーシュと、彼の部下であり紅蓮弐式のパイロットであるカレン、第三皇女ユーフェミアと、彼女の騎士でありランスロットのパイロットであるスザクの計四人は、式根島から無人島へと飛ばされた。しかもその際にゼロとユーフェミアの義母兄妹組と、アッシュフォード学園生徒会日本人組の二手に分かれてしまった。それぞれが敵と一対一という環境だけれども、それなりに少なくとも命は無事で一晩を過ごし、翌日、彼らは闇の中に見えた光を探るべく山頂へとそれぞれに向かった。そして両者は対面した。ユーフェミアに向かって銃を構え、ゼロはスザクを威嚇する。スザクの注意が逸れている間にカレンは後ろ手の拘束を前へと移動させ、その腕を被せるようにしてスザクを捕らえた。ユーフェミアが叫び、カレンが言い返す。
「お止めなさい!」
「黙ってろ、お人形の皇女が! 一人じゃ何も出来ないくせに!」
自分を守ってくれている姉のコーネリアや、同じ皇子だけどゼロとして行く道を決めたルルーシュに言われるならまだしも、何故初対面の少女にそんなことを言われなくてはならないのか。むっと年相応に頬を膨らませ、ユーフェミアは再度叫んだ。

「何ですか! あなたなんてペチャパイのくせにっ!」

あれ、何か激しく話が変わったぞ、とゼロとスザクは心中で同時に首を傾げた。





女の戦い in 神の島





ぴよぴよと鳥が鳴いている。あぁ、あれを昨日の夜に食べたかった。そんなことを考えながらゼロは空を見上げる。雲一つなく晴れている青はいっそ清々しくもあり、現状を忘れさせさえしてくれそうだ。しかしぽかんと目と口を開けていたカレンが我に返ると同時に現実をも思い返させる。
「な、何を言う! 私はペチャパイじゃないっ!」
「嘘はいけませんわ! その赤い服に包まれた胸は平らじゃありませんか!」
「これはパイロットスーツに押し込めているからだ! 私はペチャパイじゃない! 撤回しろ!」
「まぁ、パイロットスーツとはそういうものなんですか? ですが入れることが出来るくらいの大きさなわけでしょう?」
「違うと言ってるだろうっ! 違いますからね、ゼロ! 私はペチャパイじゃありませんからっ! 信じて下さい、ゼロっ!」
途中からカレンはユーフェミアにではなく、ゼロに訴えるようにして主張している。その顔はどこか泣きそうにさえ見えて、鳴き声から鳥の種類を推測していたゼロは「あぁ」と曖昧に頷いた。けれどそんな彼の態度に、今度はユーフェミアがむっと唇を尖らせる。
「ゼロ、あの胸の小さな方は一体あなたの何ですか?」
「あぁ、カレンは」
「ほら! ゼロだって今、『胸の小さな方』であなたのことを紹介しようとしましたわ! やっぱりゼロだってあなたはペチャパイだと思っているのです!」
ガーン、とカレンはショックを受けて顔色を青褪めさせたが、今のは間違いなくユーフェミアの揚げ足取りだろうとスザクは思う。ちなみに昨日、拘束する際に不可抗力に見てしまった彼からしてみれば、カレンの胸は間違いなくこの年にしては大きい方だと評価出来る。しかし当然ながらユーフェミアのサイズは分からないため比較のしようがない。
「ゼ、ゼロ・・・・・・っ!」
「落ち着け、カレン。私は別におまえの胸が小さいと言ったわけじゃ」
「じゃあゼロ、私とその方ではどちらの胸が大きいですか? あなたは昨日、私のすべてをご覧になられたでしょう?」
「「ゼロ!?」」
「誤解を招くような発言をしないで頂きたい、皇女殿下。私はあなたにマントを貸しただけでしょう」
「ええ、服を乾かしている間、あなたは親切にもマントを貸して下さいました。あなたの香りに包まれて過ごした一晩・・・素敵でした」
カレンとスザクのはもった声に、ゼロは冷静に訂正を促す。しかしユーフェミアはうっとりと両頬に手を添え、恍惚に瞳を潤ませる。しかしカレンの瞳は違う意味で涙に潤んでいた。
「ゼ、ゼロ・・・・・・!」
「落ち着け、カレン。私と皇女殿下の間には何もなかった」
「そうです、よね・・・!」
「それでゼロ、私とそちらの赤い方、どちらの胸の方が大きいですか?」
結局話題はそこに戻るのか。ユーフェミアの空気が読めないのはコーネリアが守りすぎたためか、それともスザクの主の所為か、むしろ読めないんじゃなくて読まないんじゃないだろうか。そんなことを考えながら、ゼロは仮面を東の空へ向ける。しかし逃がさないと言うかのように、ユーフェミアの両手が彼の顔を自分へと向けさせた。ぐぎっと鳴った関節の音は、カレンの悲鳴に掻き消される。結局、しばらくの沈黙の後、ゼロは答えた。
「大きさは同じくらいだろう。・・・・・・だが」
だが、と他三人の呟きが重なる。
「ユーフェミアの方が、柔らかそうではある」
あぁ、余計なこと言った、とスザクは思う。そんな彼を拘束していたカレンはすでに立つ気力さえ奪われたのか、その場に崩れてしまった。拘束となっていた腕から抜け出せば、スザクの目にピンクのオーラを蛍光へと変えているユーフェミアが目に入る。なんだか自分の出る幕はなさそうなので、スザクはおとなしく少し離れた場所に胡坐をかいて静観することにした。はらはらとカレンの瞳から溢れた涙が地面へと吸い込まれていく。
「確かにっ・・・・・・! 確かに、私は鍛えてます! 鍛えてますから柔らかそうには見えないかもしれませんけどっ! でも触ってもらえれば分かります! ちゃんと柔らかいです! 大丈夫です!」
「落ち着け、カレン」
「落ち着いてなんかいられません! お願いします、ゼロ! 触って下さいっ! 確かめて下さい! ちゃんと柔らかいですからぁ!」
何だったら脱ぎます、とカレンは黒の騎士団のジャケットを脱ぎ捨て、パイロットスーツの襟元に手をかける。落ち着け、とゼロは繰り返すけれども、その言葉は聞こえていないらしい。腹部まで勢いよく下ろされたジッパーから仮面を背けるゼロは紳士だなぁ、とスザクは感心する。
「柔らかさは女性にとって命ですもの。ゼロだって筋肉隆々の女性よりも、柔らかい女性を抱きたいと思うでしょう?」
「ユーフェミア、私達は」
「いいえ、今なら結婚だって出来ます。ふふふ、私、嬉しいです」
ユーフェミアのきらきらとした笑顔に、ゼロは微妙に沈黙した。カレンはこれでもかというように胸をゼロへと押し付けて抱きつく彼女に、立ち上がって怒鳴る。
「じゃあ次は腹で勝負だ! 私の腹は鍛えてるけど腹筋は割れてないし、だけど贅肉は欠片もついてない! 書類整理ばっかりの皇女なんかとは違うっ!」
ぐっとユーフェミアが言葉に詰まる。あぁ、とゼロは頷いた。
「そうだな、腹はカレンの方が美しい」
「ゼロっ・・・ありがとうございます! 一生この腹を維持します!」
「わ、私だって最近はちゃんとダイエットしてます! ロデオだってお小遣いで購入しました! 今だって一日に一時間は乗って・・・っ」
「はん! どうせお飾りの皇女様は書類にペンを走らせる必要なんてないんでしょ。判子だけ押し続けて、右腕だけ筋肉隆々になるがいいわ!」
「まぁ! 何てことを!」
カレンは高らかに笑い、今度はユーフェミアが拳を握り締める。その中央にいるのは紛れもなく漆黒の存在で、あぁ、ゼロってもてるんだなぁとスザクは思う。ぴよぴよと鳥が鳴いている。小腹が空いたので取って焼こうか、と考えていると、今度の対決は順番どおり下半身になったらしい。
「膝枕は男のロマンです! 筋肉のついているあなたの足じゃゼロは休むことなんて出来ません!」
「尻の引き締まり方は私の方が上だ! 大体私とおまえじゃふくらはぎの太さと角度が違う! 足首だってほら、見てみろ!」
「まぁ、何て色が濃いんですの!? そんなに日焼けして荒れた肌に触られたら、ゼロが怪我をしてしまいますわ!」
「何だと!? 一人じゃ何にも出来ないお嬢様風情が! 苦労知らずの手にゼロが癒せるものか!」
ぎゃあぎゃあと主張しあっている女二人の間で、ゼロは空を眺めている。それが自分と同じく鳥を追っているのに気づき、スザクは彼も小腹が空いたのかな、なんて思った。試しにそこら辺にあった石を拾って投げれば、直撃した鳥が力なく地へと落ちてくる。ゼロの視線も一緒にスザクの元へと降りてきて、信じられないような雰囲気を向けられる。スザクは手を合わせて祈ってから鳥の毛をむしり始めた。
「「ゼロっ!」」
「・・・・・・何だ」
「「ゼロは一体どんな女性が好みですか!?」」
叫び声に鳥から視線を戻せば、今度はユーフェミアとカレンの真剣な眼差しに直面することになる。ゼロは仮面を北の方向へと向けた。どんな女性が好みかと言われれば、思い浮かぶのはいつだって大切な妹と尊敬する母親の姿である。なのでゼロは率直に答えた。
「優しくて、芯の強い女性だ」
あ、何だかものすごく良い意見を聞いたかも。石で起こした火を枯葉で大きくさせながら、スザクは感心した。どうやらゼロは女性の外見よりも中身を、特に本質を重視するタイプらしい。やっぱりもてるタイプだなぁ、と思いながらスザクは棒に鳥を吊るして火にかける。
「優しくて、芯の強い女性・・・・・・。分かりました! 私、頑張ります!」
「そうか、カレン。頑張れ」
「はいっ!」
「私も頑張りますわ、ゼロ! お飾りと言われないよう努力します!」
「そうか。それは特に頑張ってくれ、ユーフェミア」
「はいっ!」
女性二人が意気込んで頷く。どうやら決着がついてしまいそうで、鳥の焼き具合はもう少しなんだけどなぁ、とスザクは少し残念に思った。しかし次の瞬間ばちっと飛んだ女同士の火花に、まだ余裕があると分かって安心する。むしろ彼女達の睨み合いで鳥が香ばしくなりそうだ。
「大体、なんであんたがゼロと一緒にいるのよ! ゼロは私達のリーダーなの! ブリタニアの皇女なんかが近寄らないで!」
「あなたこそ、品のない方が部下なんてゼロが可哀想ですわ! ゼロは気高く美しいのです! あなたのような方が傍にいていいわけがありません!」
「何も知らない甘ちゃんがっ!」
「スザク! どうしてこの人を拘束しなかったのですか! こんな人、ぐるぐるに巻いて大西洋に沈めてしまえば良いのです!」
「え? あぁ、申し訳ありません」
いきなり矛先がこっちに飛んできて、鳥をくるくる回していたスザクは適当に謝罪の言葉を口にする。しかしカレンは激昂したらしく、手首を締め付けていた紐を引き千切った。ここらへんが「品のない方」と言われる所以なのかもしれない、とゼロは少しだけそんなことを思う。
「ゼロっ! 今すぐこの女を殺します! いいですよね!? やっちゃっていいですよね! 東京湾に沈めちゃってもいいですよね!」
「落ち着け、カレン」
「ゼロと一晩を共にしただなんて、許せない・・・っ! 私達の、私の、私のゼロが、こんな女に穢されるなんて!」
「待て。一晩くらい、アジトでおまえたちとも過ごしているだろう」
「この女はゼロと裸で、ゼロのマントで、ゼロと一緒に一晩過ごしたっていうのに、何で私はあんな男に裸なんか見られなきゃいけないのよっ!」
「・・・・・・ほう」
ゼロの声が僅かに低くなり、スザクを振り返る。今度は手の中の鳥ではなく、しっかりと彼自身に目が向けられていて、あれ、出番ですか? とすっかり観客気分だったスザクは目を瞬いた。
「私の部下を随分と可愛がってくれたようだな、枢木スザク」
「可愛がられてなんかいませんっ! ゼロっ! 私、まだ処女ですから! あなた以外に捧げるつもりもありませんから!」
「・・・・・・落ち着け、カレン」
「ええと、言い返していいのかな。だったら君こそ、ユーフェミア皇女殿下を実に丁寧に扱ってくれたみたいで」
「はい、ゼロは最初から最後まで紳士でした。濡れていた私にマントをかけて下さり、夜は寒くないか気を使って下さり、とても優しくして下さいました」
「あぁ、そう・・・・・・それは良かったね」
ぶっちゃけちょっと黙っててくれないかな、とゼロとスザクは己の部下と主にそんなことを思った。皮肉さえも通じないとは、これは一体何がどうした。一晩で何が彼女達を変貌させたというのだろう。少なくともここまで変えるようなことを自分はしていないつもりだ。では相手か、と思って仮面と翡翠の瞳がかち合うけれども、それも何となく違うことをゼロとスザクは察する。敵だというのに妙な連帯感さえ生まれてしまいそうだ。とにかく、とスザクは立ち上がる。香ばしく焼けた鳥を右手に握ったまま。
「・・・・・・僕ら、何しにここに来たんだっけ」
「・・・・・・確か、夜に見た光を確認しに来たような」
「あぁ、そうだったっけ。何かすっかり忘れてたよ」
「私もだ。すごいな、女という生き物は」
すでにゼロの手にあった銃は彼のマントの中へと姿を消していて、疲労さえ感じているらしく、スザクはそんな相手に鳥の足を一本引き千切って手渡す。仮面で食べれないかもしれないことに気づいたけれども、ゼロは素直に礼を言って受け取った。その間もカレンとユーフェミアは再び額を突き合わせ、黄色い声で相手を貶しあっている。
「空が青いな・・・・・・」
ゼロの言葉に、スザクも頷いて頭上に広がる空を眺めた。

彼らの立っている地面が急降下を始めるのは、それから三分後のことだった。





ひな祭りらしく女の子メインになったんじゃないかと。良かった良かった(待て)
2007年3月3日