白き騎士、ランスロット。第七世代ナイトメアフレーム。先日ゼロによって討たれたコーネリア第二皇女でさえ認めた、ブリタニア軍の要。第二皇子シュナイゼルの私物。特に優れた機動性を有する騎士は、そこらのグラスゴーでは相手にならない。唯一肩を並べることが出来るのは、黒の騎士団の有する紅蓮弐式のみ。純白の鎧は戦場に立ち、鮮紅に染まる。
「・・・・・・お願いします、ユフィ」
パイロットであるスザクは、唯一騎士の手足となれる人間だ。彼以上の数値を出せる輩はいない。だからこそブリタニア人でもない彼に、黄金の鍵は託されている。確かに彼は強かった。戦場を駆け、これ以上ないほどの強さを発揮した。
「お願いします、ユフィ、ユーフェミア総督、お願いします、お願いします、お願いします」
そんな彼が今、まるで脅迫観念に追われるように、ただひたすら同じ言葉を繰り返している。壊れたレコードのように、途切れ途切れの声で、外れた音階で何度でも。
「お願いします、今度はちゃんとやります、お願いです、お願いします、僕をランス、ロットに、お願いします、お願いします、お願いします」
パイロットスーツに包まれた手は一目で分かるほどに震えている。視線はユーフェミアを捉えていない。どこを見ているのか分からない。恐怖に怯えながらスザクは同じ言葉しか言わない。
「乗らなきゃ、乗ら、なきゃ、今度こそうまく、今度こそうまくやらなきゃ、お願いです、お願い、僕は、お願いします、どうかユフィ、お願いします、お願い、お願い」
顔色は蒼白ではない、だけど血の気を感じられない。彼の正気はすでに奪われていた。白き騎士に搭乗する度、失われていった枢木スザク。乗らなくていいと、ユーフェミアは言った。だけどそれはスザク自身によって拒まれた。戦局もランスロット無しで勝てるほど、ブリタニアの優位ではなくなっていた。
「守ります、守りますから、守られて下さい、守らせて下さい、早く乗らなきゃ、ゼロ、早く早く、早く殺さなきゃ、お願いします、お願いします、守らせて下さい、守らせて下さい、ゼロを殺させて下さい」
「・・・・・・スザク」
「お願いします、お願いします、お願い、お願い、父さん、ゼロ、殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ、ゼロ、消えて、お願い、お願い、お願い、おねがい」
声さえもう届かない。ユーフェミアが手を伸ばすと、彼の震えが伝わった。こんなに怯えているというのに、ランスロットに乗ると言う。乗らなくてはならないと言っている。乗ればさらに彼が消えていくというのに、すでに乗らないではいられない。騎士は彼を飲み込んだ。
「・・・・・・分かりました。スザク、あなたをランスロットのパイロットに任じます」
「ゼロ、ゼロ、ゼロ、ゼロ」
「どうかお気をつけ下さい。私はこれ以上誰も失いたくないのです」
「お願いしますお願いしますお願いしますお願いします」
沈痛な面持ちのセシルが優しくスザクの肩を抱き、ランスロットへと連れていく。ロイドは気にかけることなく鼻歌を奏でながらモニターと向き合っており、ユーフェミアは唇を噛み締めた。シミュレーションのため、スザクがパイロットシートに座る。騎士の口が閉ざされ、パイロットは飲み込まれた。咀嚼される悲鳴が響く。
『うわああああああああっ! いやだ! いやだ! やめてとうさん! たすけてかあさん! たすけて、たすけて、たすけて、たすけてえっ!』
通信機からは切り裂くような叫びが上がりながらも、ランスロットは乱れることなく正常に作動する。スザクが壊れれば壊れるほど、騎士の動きは鋭敏になる。高まる稼働率にロイドが歓声を上げた。。
『いやだ! くるな! くるな! くるなよおっ! いやだいやだいやだいやだたすけてたすけてたすけてたすけて!』
ランスロットは止まらない。スザクがどんなに叫んでも、彼の指示なく勝手に戦場を走り続ける。声も涙も枯れ果てた最後、スザクは常に呟く。
『・・・・・・たすけて・・・っ』
スザクが意識を失うと同時に、騎士も動力が底を尽き動きを止める。引きずり出されるパイロットを前に、ユーフェミアはいつも無力だ。

「たすけて、ルルーシュ・・・・・・」

無意識のうちにスザクは手を伸ばす。頬を流れる涙は。





朋よ、安らかに眠れ





黒の英雄、ゼロ。黒の騎士団を率いるリーダー。先日エリア11の総督であるコーネリア第二皇女を討った彼は、日本解放戦線と組み、キョウトという組織をスポンサーに持ち、名実ともに日本最大の反ブリタニア勢力となった。特に輻射波動を有する紅蓮弐式は、そこらのグラスゴーでは相手にならない。唯一肩を並べることが出来るのは、白い鎧をまとったランスロットのみ。緋色の鎧は戦場に立ち、黄金に染まる。
「コーネリアを落としたとはいえ、白兜は倒せなかった。あいつがいつまでも戦場をうろついているのは目触りだな」
リーダーであるゼロは、強大になった組織を束ねることが出来る唯一の人間だ。彼の策略があったからこそ、コーネリアを討つことが出来た。だから団員たちは皆、顔すら晒さない男をリーダーとして認めている。ゼロの立てる戦略は素晴らしい。誰もがそう思っていたからこそ、人々はゼロの下に集った。
「私がやります。ゼロ、私が必ず、あの白兜を仕留めてみせます」
カレンが手のひらを胸に当て、まるで誓うように進言した。彼女のゼロを見つめる瞳は恋をしている少女のものであり、そしてまた上官を慕う戦士のものだった。
「私があなたの剣になります。あなたの望むすべてを撃ち砕き、あなたの通る道を作ります」
「コーネリアを獲れたのも、白兜を押さえた紅蓮の功績が大きい。おまえには期待しているぞ、カレン」
「はいっ! ありがとうございます!」
滅多にないゼロからの褒め言葉に、カレンが喜色に頬を染めた。彼女の想いが紅蓮弐式に力を与えているのは紛れもない事実だ。ゼロが立てた作戦だからこそ、安心して身を投じることが出来る。彼が自分の後ろにいてくれるからこそ、その場だけは譲れないと思う。カレンはすでにゼロのものだった。想いと共に紅に染まる、ゼロの剣だった。
「では、私は盾になりましょう。ゼロを守る盾に」
神楽耶が穏やかに微笑みながら、まるで祈るように宣言した。彼女のゼロを見つめるまなざしは、優しさと慈しみに溢れ、限りない思慕に溢れている。どれだけゼロを信頼し、想っているのか、彼女の視線が物言わずに語った。
「キョウトの全権は私に委任されました。宮家の名、権威、すべての力を導入し、あなたの世界を守りましょう」
「ありがとうございます、神楽耶殿。あなたの御心に黒の騎士団、全力を持ってお応えしましょう」
「はい。どうか御武運を」
ゼロからの丁寧な言葉に、神楽耶ははんなりと微笑を浮かべた。内親王という血筋だけで、ナイトメアに乗ることも適わない彼女に出来ることは多くない。けれど身を持って盾になると告げた彼女の想いが、本物であることは紛れもない事実だ。彼女はゼロを反ブリタニアの英雄として認めている。そして惹かれた。だからこそ彼にすべてを懸けるべく、安寧の地であるキョウトを離れ随行している。神楽耶はすでにゼロのものだった。想いと共に決意に染まる、ゼロの盾だった。
「新たなエリア11の総督は、ユーフェミア・リ・ブリタニア。戦いを嫌う平和主義者だ。だからこそ白兜を最前線に持ってくるだろう。何より犠牲を抑えるために」
ナリタでの攻防、そしてキョウトとの密約を機に、ゼロは少しの変貌を遂げた。それはとても些細なことで仮面に遮られて姿を隠してはいたけれど、C.Cには手に取るように分かった。自分に入ってきたとき、彼は意識の中で対面したのだ。あのとき触れていたランスロットのパイロットと。親友の、枢木スザクと。
「奴を想定した策を練る。機体はいくら壊してもいいが・・・・・・カレン」
「はい!」
「白兜のパイロットには用がある。殺さずに捕らえろ」
下された命令にカレンが歯切れよく返事をする。ゼロの言葉の裏に潜んでいる本音を知るものはいない。ただC.Cだけが密やかに眉をしかめた。
「次の戦いで白兜を落とす。総員、心してかかれ」
ゼロの言葉に、騎士団が揃って了承の意を示す。まるで皇帝に賛意をしめすかのように。喝采を受けた仮面の下、ゼロは呟く。
「・・・・・・おまえを守りたかったよ」
「ゼロ、何か?」
「いや」
尋ねてきたカレンに首を振り、今度は心の中だけで呟いた。

『おまえを守りたかったよ、スザク』

彼にこの世界は辛すぎた。完全に壊れてしまう前に、せめてもの救いを。
君が愛しいから、だから。





おまえをすべてから解放することが、おまえを壊したブリタニアの皇子である俺の役目。すべてを忘れて、おまえは生きろ。おまえの望む国は俺が作るから。だから朋よ、安らかに眠れ。
2006年12月26日