Happy Birthday, my dear!





ガラス扉を押し開ければ、ひんやりとした空気が全身を包む。室内の熱さでほてった頬にちょうどよく、スザクは少しだけ目を細めた。バルコニーにいる人物を見とめ、そのまま柔らかく笑みに変える。
「ルルーシュ」
「・・・・・・スザクか」
宵の闇に紛れるようにして、先住者が振り返る。オフホワイトのタキシードジャケットが浮かび上がるように輝き、ルルーシュの髪と目の色を引き立てている。月の光も手伝って、綺麗だな、と純粋にスザクは思った。
「ダメじゃないか、主役がこんなところにいたら」
「別にいいだろ。挨拶回りはちゃんとした」
「ちゃんとダンスも踊った?」
「あぁ」
「内親王とも、アッシュフォード家・フェネット家・紅月家のご令嬢とも?」
「神楽耶ともミレイともシャーリーともカレンとも踊った。ついでにユフィとリア姉上、クロヴィス兄上とシュナイゼル兄上とも踊った」
「そう、ならいっか」
もともと言葉だけのつもりだったのだろう。スザクは笑いながらルルーシュの隣に並び、手すりへと背を預ける。彼の本日の服装はシンプルなスーツだった。日本の現首相の息子ということを考えれば着物でもおかしくなかったのだろうが、今日の主役は自分ではなくルルーシュであると言い、スザクは目立つ服装を辞退した。宮家の皇女である神楽耶は着物をまとっていたけれど、外交における彼女の場合はその格好が当然である。
「誕生日にこじつけて、こんなの体のいい見合いだろ。いい加減うんざりする」
吐き捨てるルルーシュは、整った眉間に深い皺を刻んでいる。そんな様子は今日で17を迎えた彼を少しだけ幼く見せていて、スザクは何だか微笑ましくなった。
「そんなことないよ。クロヴィス様がルルーシュのためにセッティングして下さったんだろ? 料理も楽団も衣装も全部ブリタニア最高級のものじゃないか」
「挨拶とダンスばっかりで食べてない」
「それに、クロヴィス様やシュナイゼル様のときでさえパンツスーツでいらしたコーネリア様が、今日はドレスをお召しになられてるんだよ? お綺麗だったね。ユーフェミア様とはまた違った感じで」
「おまえ、リア姉上みたいなのが好みなのか?」
「ルルーシュに似てきつい感じの美人だなぁと思うよ」
あっさりと告げたスザクに毒気を抜かれたのか、ルルーシュは目を丸くした後に深い溜息を吐き出した。くしゃりと髪をかき混ぜようと手を動かすが、セットの乱れることを危惧したスザクがその手を掴み、不発に終わらせる。むっと彼を睨み、ルルーシュは握られている手に逆に力を込めた。
「痛っ! いたたたたたた!」
「大体おまえ、考えてもみろ。俺はまだ17だぞ? この歳から婚約者なんか決められてたまるか」
「痛い! 痛いよ、ルルーシュ!」
「シュナイゼル兄上は愛人が山ほどいるくせに妻はいないし、リア姉上もクロヴィス兄上も婚約どころか見合いすらしてないのに、何で俺だけ」
「わ、分かったから! ごめん! 僕が悪かった!」
「分かればいい」
ぱっと手が離れる。細い手のどこにこんな力があるのかと思ったが、どうやらタイピンをスザクの指の間に挟んで締め付けてきたらしい。純粋な力勝負なら武道を嗜んでいるスザクに分があるが、ルルーシュは非力な部分を技量でカバーしてくる。ひりひりと痛む手を振っていると、不貞腐れたようにルルーシュが唇を尖らせる。
「婚約者なんか出来たら、休日はそいつのご機嫌取りだ。おまえと会う時間もなくなる」
「・・・・・・それは、嫌だなぁ」
「それに俺だけだと思うか? おまえとユフィの話も皇室じゃ上がってきてるぞ」
「え」
「まぁ、おまえが俺よりユフィを取るって言うなら、俺から話を進めるよう言ってやってもいいが」
ぷいっとそっぽを向き、ルルーシュはそんなことを言う。スザクはきょとんと目を瞬いたけれど、堪えきれずくすくすと笑い出した。ますますそっぽ向いてしまった後頭部を見つめる。
「僕も、女の子よりはルルーシュと一緒にいたいなぁ」
ユフィはいい友達だけど、それだけだよ。そう続けるとタキシードの背中が少しだけ安堵したように綻ぶ。皇子として、また優秀な皇位継承者として内外に知られているルルーシュの、こんな感情の機微を見ることが出来るのはスザクだけだ。この特権は譲れないよ、と心中だけで呟き、すっと手を差し出す。
「ルルーシュ殿下、僕と一曲踊って頂けますか?」
ちらりと、アメジストの瞳がスザクの手と顔を行き来する。尖らされた唇はまだ直っていない。
「・・・・・・言う言葉が違うだろ」
「え? あぁ、そっか。まだ言ってなかったね」
笑いながら膝をつき、恭しく手を差し出す。月光を背にしているルルーシュが本当に綺麗だとスザクは思う。

「誕生日おめでとう、ルルーシュ。君が生まれてきてくれて嬉しい。出会えて、本当に嬉しい」

見下ろしてくるむすっとした顔立ちが、緩やかに、花開くように笑顔へと変わっていく。その様は文句なく美しく、差し出された手を取ってスザクは立ち上がる。そして二人はダンスを楽しむべく、人の溢れるフロアへと戻っていった。





神楽耶さんとはアレです。オープニング映像に出てくる長い黒髪センター分けの女の子です。和風っぽいので天皇家の血筋かなぁと勝手に推測いたしました。公式設定確定により、サクヤ→神楽耶に変更しました。
2006年12月5日(2006年12月20日mixiより再録)