街が華やかに彩られ、雪が舞いながら木を飾る。
十二月、吐く息が白い。





一年間(十二月)





忍足とはまた一学期のような仲を取り戻し、色々と会話するようになった。放課後、やはりクラス委員の仕事をしながら忍足が話しかけてきた。
「なぁ、はクリスマスはどないするん?」
「パーティーに呼ばれてる」
先ほどの会議での内容を整理しながらが答える。
「パーティー?」
「そう。英数国の三科目が揃って白紙の状態で私のことを待ってるからって塾のからお誘いがあった」
「それってつまるところテストやん」
「うん、まぁそう」
自分で言いながらは苦笑いする。それでも仕方がないのだ。受験まであと少し、今ここで遊んだらこの一年やってきたことがすべて無駄になってしまう。そんな勿体無いことをして堪るかと半ば自棄気味に思っている。夏にプールにも行けなかったのを忘れてはいない。元旦は塾も休みなのだ。クリスマスくらいは棒に振るのも我慢しよう。はそう考えていた。
「何や、残念やなぁ」
ふてくされる忍足に少し笑って。
「忍足君は跡部君たちと遊ぶの?」
「まぁせやろな。独り身の男が集まって騒いでも虚しいだけやけど」
「それでもきっと楽しいよ。ケーキ食べてプレゼント交換してクリスマスソング歌って」
榊先生の伴奏で、とは楽しそうに笑う。
「堪忍してや、
忍足も笑った。それを見ては思う。忍足は以前とちょっと変わった、と。彼は前よりも柔らかく笑うようになった。



忍足は目の前の少女を見つめ、話しては笑い、笑っては話した。自分の言葉で少女が笑ってくれるのが酷く嬉しい。胸がキュッとして、温かい気持ちがあふれてくる。好きなのだと、自然に思えた。どこがとか、何がとか、そんなのは判らない。全部という答えも何か違うような気がする。ただ、彼女が彼女だから。だからこそ、愛しい。
こんな風に誰かを想うことが出来る自分を大切にしたい。今まで、冷たい対応しか出来なかった過去の恋人たちへの謝罪も含めて。愛しいと、本気で思う。



一歩外に出て寒さに首をすくめ、聞こえてくるクリスマスソングが耳をくすぐった。今日はクリスマス当日。道行くのはカップルばかりで一人でいる自分が少し悲しくも感じられる。けれどまぁ、今日あったテストも出来は上々。たしかな手ごたえがあったことが嬉しい。早く帰ってケーキでも食べよう。勉強に懸命な自分に家族はとても優しいから。マフラーを巻きなおして足を踏み出した。
「―――
呼ばれて振り向く。ガードレールに腰掛けている藍色のジャケットの男の人。一瞬誰だか判らなかった。私服姿は初めてで。相変わらずカッコイイなぁ、なんて思ったりした。



となりを歩く少女に忍足は緩む頬を自覚していた。二度目の私服姿。最初見たとき、となりにいたのは自分ではなかった。今思い返せばあれがきっかけだったのだ。自分が、を好きだと気づくための。その点ではあの椎名とかいう男に感謝してやらないでもない。まぁ本心ではいないでくれた方が有り難いのだが。あれは今は可愛らしいけれど、きっと将来はとても良い男になる。だけは取られたくない。は自分のものではないけれど、そう思ってしまう。俺のものにならないのなら、せめて誰のものにもならないでいて。
「忍足君、今日は跡部君たちと遊んでたんじゃないの?」
見上げてくる少女に知らず微笑む。自覚している。今の自分がどんなに甘い顔をして笑っているのか。でもそれもすべて無意識のうちの仕草。の、前でだけ。
「ん、ちょお抜けてきたんや」
に会いたくてという言葉は情けないことに言えないけれど。手袋をしていない寒そうな手を見て、温めたいなと思う。
「そうなの? どこでやってたの? 跡部君の家?」
「せや。テニス部の元レギュラーみんな集まってな、もうめちゃめちゃやで。岳人が酒持ってきたからドンちゃん騒ぎや」
「せっかくのクリスマスなのにね」
笑いながら手に息を吹きかける。その手を握りたいと思う。でも、言い出せない。一度入れてしまったポケットから手が出せない。こんなに弱気な自分は初めてで、情けないと思う。と一緒にいて何度こう思ったことか。愛しいと思う分、情けないと思う回数も増えていく。でもそれでいい。・・・それが、いい。



「そういや、跡部と何かあったん? あいつの話するたびに微妙に顔を歪めるんやけど」
どことなく心配そうな声に、あぁやっぱりとは思う。跡部はあのときのやり取りを忍足には伝えなかったのだ。きっと言えば忍足がさらに傷つくと考えたのだろう。友達思いの優しい人だとは思った。さすがホスト部をまとめるだけのことはある、と。
「一度話しただけだよ。ただ少し八つ当たりをしちゃったかもしれないけど」
「八つ当たり? あの跡部にか? やるなぁ、
「ゴメンねって伝えておいて?」
自分は間違ったことを言ったとは思わないけれど、それでも忍足の話を聞いていて印象が変わったのも事実だから。高慢な言い方をするけれど、本当は親切な人なのかもしれない。あのときの自分はそれが判らなかった。
「いい人だね、跡部君って」
「・・・惚れたらあかんで」
どことなく真剣な言葉につい笑ってしまった。
「惚れないよ。友達にはいいかもしれないけれど」
俺様な恋人は欲しくないから、と言ってやっぱり笑う。吐く息が白く濁って、すぐに消えた。
「送ってくれてありがとう。また新学期にね」



門を開けて、ドアの中へ消えていった少女。その背中を見送って溜息をついた。入れっぱなしだったポケットから手を取り出す。結局、手は握れなかった。握りたかったけれど、握れなかった。恥ずかしいとか、情けないとか、拒まれたらどうしようとか、この心臓の音が伝わったらどうしようとか、色々考えてしまって。もう一度、溜息をつく。
「・・・情けなさ過ぎるで、自分」
呟きは星空に消えた。
手の中では渡せなかったプレゼントが光っている。





2004年2月4日