さよならと囁く声が波の間に、おいでと招く声が空の間に。
選んだ道は、本当にあなたの望んだものですか。
その道がどこに通じているのか、ちゃんと判って走っていますか。
あなたはまだ、笑えていますか。
I wish... 【20】
キラやカガリとの話を打ち切るようにして港へ戻ったアスランを待ち受けていたのは、ミネルバが発進したというニュースだった。
どこへ、と聞けば、地元住民からの情報で寄せられた地球軍の研究施設を接収しに行ったと言う。
セイバーを駆って追えば、確かにミネルバがあり、その奥の森の中にはインパルスと白いザクがあった。
通信を繋げ、タリアに向かって問いかける。
「港へ戻ったら発進したと聞いて。どうしたんです? 何かあったんですか?」
『地球軍の施設が見つかったの。すでに調査隊が入ってるわ。私たちもこれから様子を見に行くけれど、あなたはどうする?』
「私も行きます」
セイバーを着地させると、ミネルバからタリアとアーサー、そしてシンが車に乗ってやってきた。
巨大な施設を前に、調査隊のものらしいモビルスーツが数機置かれている。慌しい彼らの様子は、ここがただの施設ではないことを教えていた。
用心のため両手で銃を構え、中に踏み込む。薄暗い室内にアスランが目を凝らした。
だんだんと慣れてくる視界に、信じがたい光景が広がる。誰もが息を呑まずにはいられなかった。
「うわあ・・・・・・っ!」
「うっ・・・・・・」
アーサーが悲鳴を上げ、タリアも言葉を漏らして視線を逸らす。
シンは前もって来ていたこともありそこまで驚かなかったが、それでも不快気に舌打ちをした。
アスランの目に異様な光景が飛び込んでくる。
数々の死体。鼻を曲げる腐臭。ホルマリンの中で死に絶えている小さな命。
狂気さえ感じさせるそこは、信じがたい残虐の場だった。
「これは・・・・・・一体・・・何なんですかここは!」
アーサーの声が震えていた。タリアは懸命に冷静になれと自分を叱咤し、常より低い声で答える。
「内乱・・・ということでしょうね。・・・・・・自爆しようとして」
「でも、何でこんな子供が!?」
叫ぶ声を背に、アスランはゆっくり足を進める。
ここがどこだか、何のための研究所だか、すでに彼は確信していた。
大きなガラスは、人を閉じ込めるためのもの。血の染み込んだ診療台は、人を切り刻むためのもの。
奥には何があるのだろうか。戦闘を仕込まれるための訓練場か。例えそうでなくても、決して希望を与える場所ではないはず。
銃を握る手が痛い。目がじんわりと熱さを増す。四人の顔が浮かんでくる。
「・・・・・・・っ・・・こんなところで・・・・・・」
彼らの身体はボロボロだった。度を無視した薬と手術のせいで、命はすでに消えかけていた。
それがすべて、ここでもたらされたものだというのなら。
「あっ・・・! 艦長、あれは・・・・・・!?」
アーサーの驚愕の声に、アスランも力なく顔を上げる。けれど指差す先を見た瞬間、息が詰まった。
動きを止めたモニターには、18歳のクロトが映し出されていた。
――――――『GAT-X370 レイダー』という機体名と共に。
「あれは・・・・・・クロト?」
モニターを凝視したまま、シンが呟く。
アスランはすぐにその画面を消したかったが、調査隊によって電気系統の配線が切られていて出来ない。
隠したかった。クロトという存在ではなく、彼がここで育ったという事実を。今の彼の幸福を、少しでもいいから失わせたくなかった。
「あ、あれは確か、我が艦に一時乗っていた・の家族ですよね!? それが何故っ・・・・・・! し、しかも『レイダー』とは、先の大戦で使われた連合のモビルスーツの名前じゃないですか!」
「連合のモビルスーツ!?」
シンが赤い目に憎悪を滾らせる。
タリアの視線が自分を向いたような気がしたけれど、アスランは顔を背けてそれを避けた。
言うべきなのだろうか。彼らが何で、どういう存在なのかを。
「まさか・・・・・・あいつら連合のパイロットだったのかよ!?」
「落ち着きなさい、シン。彼はまだ子供だったでしょう? 確かに似ているけれど、まだ本人と決まったわけではないわ」
調査隊を呼び寄せ、タリアはモニターを示す。
「データに収められている資料を引き出してちょうだい。出来るだけ早く」
「はい!」
「・・・・・・っ・・・」
アスランはきつく拳を握った。
苛立たしげにシンは周囲を見回し、目に入れるのすら嫌だと言うように怒声を吐き出す。
「本当にもう信じられませんよ。コーディネイターは自然に逆らった間違った存在とか言っておきながら、自分たちはこれですか!?」
「シン・・・・・・」
「遺伝子弄るのは間違っててこれはありなんですか!? いいんですか!? 一体何なんです、ブルーコスモスってのは!」
「・・・・・・確かにな・・・」
ブルーコスモスはコーディネーターの排除をしたいがために、本来ならば同胞であるはずのナチュラルを犠牲にした。
彼らにとって、味方は守るものといった意識はないのだろう。だからこそ四人は改造され、部品扱いされ、用がなくなれば処分されると宣告されていた。
戦うべきではなかったのだ。本来ならば倒すべきはパイロットではなく、その背後にいるブルーコスモス。それなのに、自分たちは果たせなかった。
戦争の原因は何なのか。判りそうで判らない真実に、アスランは唇を噛み締める。
けれど迷うことすら許さぬように、戦場は開かれていく。
「艦長! モビルスーツ1、接近中! ガイアです!」
「一機? 後続は?」
「現時点ではありません」
「どういうつもり・・・? 施設を守るのよ。いいわね、アスラン、シン!」
「はい!」
機械的に答えてしまい、思考はまた後回しになる。戦うべきは目の前の相手ではないはずなのに。
大局が見えない。
過去は決められたものでした。自由はこの手にありませんでした。
それでもあなたは詰るのですか。抗わなかったと責めるのですか。
相対するから認めてくれないのですか。種が異なるから駄目なのですか。
私たちが憎いから、未来を許してくれないのですか。
2005年10月21日