重なった眼差しは、偶然ですか。必然ですか。
交わされた言葉はありましたか。瞳は雄弁に告げてませんか。
過去と、今と、苦しみの狭間。

向かい合った相手の顔は、自分のものではなかったですか。





I wish... 【17】





オーブを出て、ジープは時折給油しながらかなりの距離を走った。
人気のあるところでは唯一の身体的大人であるが運転し、誰もいないところでは三人が代わる代わるハンドルを握る。
購入したいものがあれば街により、それ以外は基本的に海沿いに面した道路を走るようにしていた。
「もうすぐディオキアに入るぞ」
風に地図を持っていかれないよう、強く握りながらオルガが声を張り上げる。
現在運転しているのはクロトだ。スピード狂かもしれない彼は、対向車のいない道路を高速で駆け抜ける。
「ディオキアって・・・・・・ディオキア?」
「あぁ」
「あそこって連合圏内じゃなかったっけー? 僕、あそこの近くのロドキアラボ出身だよ?」
「ついこの間、ミネルバがガルナハンのローエングリン砲を破壊して、あそこはザフトの勢力地に変わったらしい」
「ミネルバ?」
何だか懐かしい名前、と思いながらは聞き返す。
「何かすごい嫌な予感・・・・・・。ミネルバって・・・・・・まさか議長はいないよねぇ」
「さぁな? もしかしたらいるかもしれねぇぞ」
「ヤなこと言わないでよ」
後ろから、は助手席のオルガの肩を叩く。
「でもさー? ミネルバってことは、もしかしてボギー・ワンも来たりしてー?」
「うっわ、クロトもヤなこと言った!」
「さらにアークエンジェルまで来たりしたら大笑いだな」
「そうしたらガソリン代と食費の無駄だったってことだよね。逆に笑えないって!」
言葉とは裏腹に笑い声を上げながら、ジープはディオキアの郊外へと入っていく。
そろそろ運転を代わるべきだと思い、は膝に乗せていたシャニの頭を下ろそうとした。
ちょうどそのときだった。



「ったく本気でビビッたぜ。まさかステラがザフトの赤服に拾われるなんてさ」
広い後部座席を一人で占領し、首を仰け反らせてアウルが喋る。
ともすれば風に流されそうな言葉だが、声量が大きかった所為か、ちゃんと運転席のスティングまで届いた。
「ホントにな。ステラ、これからは気をつけろよ」
「でも、シン・・・・・・ステラのこと、守るって言った・・・」
「バカ、そんなのナンパの常套句に決まってるだろ? 間に受けてんじゃねーよ」
「でもシン、守るって言った」
まだ濡れているスカートを握り締め、どことなく嬉しそうにステラは繰り返す。
スティングは心配そうに彼女を見やるが、アウルは興醒めした気分になった。
「ま、僕に迷惑かけなきゃそれでいいけどね」
座席の後ろに頭を倒して、逆さ向きで遠ざかるディオキアの街を眺める。
ちょうどそのときだった。



二台の車が交差する。



「・・・・・・っ!」
「スティング、止めろ!」
腰に挿していた銃を引き抜き、アウルは運転席に怒鳴った。
体勢を立て直して擦れ違ったばかりのジープに照準を合わせる。
間違いない。あの女だった。目が合った瞬間、表情が変わった。
見つけた。そう呟いて銃を放つ。タイヤを狙ったはずの弾丸は、逸れてアスファルトへと刻み込まれた。
「アウル!?」
「バカ、早く戻せよっ! 今のジープに乗ってた奴、例の女だった!」
「マジかよ!?」
思い切りブレーキを踏んで、オープンカーをスピンさせる。
方向転換させて追い始めれば、車の差か、その距離はじわじわと縮まり始めた。
「女が後部座席にいるってことは、運転は別の奴だろ!? 顔は見えたか!?」
「全然! スティングこそ見てないのかよ!?」
「見えなかったんだよ! 擦れ違う車なんか気にするかっての!」
遣り合う二人をきょろきょろと見比べていたステラだが、アウルが銃を構えているのに気づき、自分もシートの下から同じものを取り出す。
そして前を走るジープに向かって、それを構えた。
黒い小さな物体が、前の車から放られる。
「手榴弾か!?」
「やべ・・・・・・っ!」
スティングがハンドルを切るのと同時に、ステラがその物体を打ち抜いた。
爆発するかと思われたがそれはなく、代わりにあたり一面を白い光が覆いつくす。
眩しさに目が眩んで、スティングは思い切りブレーキを踏んだ。
アスファルトのタイヤを焼く音がして、焦げ臭い匂いが道路に広まる。
ようやく目が開けるようになった頃には、もはやジープの姿は愚か、排気音さえも聞こえなくなっていた。
「くそっ!」
アウルが悔しそうに座席を殴りつける。
何がどうなっているのか判らず、ステラはきょとんと首を傾げた。



「・・・・・・クロトの言ったこと、どうやら本当になっちゃったねぇ・・・」
限界ギリギリの速度で後ろの車を振り切って、ようやく一心地つけた頃、はクロトと運転を入れ替わって溜息を吐き出した。
後部座席のオルガは、まだ後ろを注視している。閃光弾を放り投げたシャニは、お役御免とばかりに再び眠りについていた。
「ボギー・ワンも来るかも、ってやつ?」
「今の水色の子、アビスのパイロットだったよ。撃ってきたってことは、あたしのことを敵と認識してるんだ。それがザフトってことならいいけど・・・・・・」
「運転席は緑の髪の男で、助手席は金髪の女だったよ」
「じゃあその二人がカオスとガイアのパイロットか。うっわ、ヤダなー。ミネルバもいるし全面対決しそうな感じ?」
は苦笑しているが、それは笑えない予想だった。
「じゃあディオキアにはあんまりいない方がいいかもねー。買い物したら出てく?」
「だね。連合が近くにいると判ったら、近づきたくないし」
ハンドルを切ってだんだんと賑やかになってきた街の中心地へと向かう。
遠くに見える港に、灰色と赤の軍艦が停泊していた。
適当な駐車場にジープを停めて、は後部座席の二人を振り返る。
「車番、誰がする?」
「シャニでいいだろ。こいつまだ寝てそうだしな」
「じゃあシャニ、何か欲しいものある? あれば買ってくるけど」
寝転んで睡眠を貪っている彼に聞くけれども、返事はふるふると頭を振ることで返された。
「じゃあ二時間後に、ここでね」
バルトフェルドから貰った金を、計画的に少しずつ配分して買っておくものをチェックする。
そしてシャニを一人ジープに残し、三人はそこで別れた。





2006年10月4日