ジープを走らせて、船の中で一晩休み、渡りついた大陸の海岸沿いを走る。
バルトフェルドが手配してくれたのか、ジープには武器の他にもいくばくかの食料や生活必需品が詰まれていた。
特にたちを驚かせたのはオーブの出入国許可証と、大枚の札束だった。
出入国許可証はカガリの印が入っているということもあり、四人とジープは何ら調べられることもなく国境を越えることができた。
「とりあえずザフトの勢力圏内に向かってみる?」
「そうだな、連合圏内にいるよりはいいだろ。軍事基地を避けてのんびり行こうぜ」
「あっ! 赤いガンダム!」
クロトの声に、もオルガも空を見上げた。
見れば一面の青の中を、確かに赤い機体が飛んでいる。その後ろを追撃しているのは、オーブのムラサメのように見えた。
「もしかしてアスラン・ザラだったりして」
「プラントで議長に説得されてザフトに復帰か?」
「でもって新しい機体でミネルバを探しにオーブに来たら、もうすでにあの艦はいなくて?」
「それどころかオーブと連合が組んだのも知らなくて、間抜けに追い回されてるとか!」
「いくらなんでもそこまでバカじゃないだろ」
「まさかねぇ」
助手席で眠るシャニを他所に、笑いながらジープは進む。
上空では赤い機体がムラサメを返り討ちにして飛んでいった。





I wish... 【16】





「ネオ、マジで生け捕りにすんの?」
発進準備の完了しているデッキで、アウルは気乗りしなさそうに尋ねた。
もうすぐヘルメットを被るというのに、まだマスクをしているネオは気軽に頷く。
「ああ。何たって相手はおまえたちの先輩だぞ? 今は脱走兵扱いになってるが、戦力としては申し分ないからな」
「だけどあの新型艦に乗ってるってことは、今はザフト兵ってことだろ? そんな奴、使えんの?」
「もしそいつが使えないなら、そいつに負けたおまえも使えないってことだな」
「うるせーよ、スティング! 負けてないって言ってんだろ!」
「あーはいはい」
騒ぎ始めた部下二人を、ネオはまるで父親のように宥めすかす。
ステラはきょとんと瞳を丸くして、三人のそんな様子を眺めていた。
「とにかく、使える使えないは別として、お姫様には聞かなくちゃいけないことがあるんだよ。脱走したのは彼女だけじゃない。他の三人もそうだしねぇ」
「・・・・・・ちぇっ! 判ったよ」
不承不承気を治め、アウルはヘルメットを乱暴に持ち直しす。
「だけど生け捕りが無理だったら殺すから。それくらいは許せよな?」
戦闘直前だというのに殺伐とした空気はなく、彼らは穏やかにそれぞれの機体に搭乗する。
それはファントムペインの強みだった。



夢を見ていた。
一面白い場所だった。そんなところは記憶に一箇所しかない。ラボだと、すぐに判った。
何もないその真ん中で、子供が一人泣いている。
それが誰だかすぐに判った。その子供に近づいてきた子供も、顔を見なくても誰だか判った。
『どうしたの?』
高い声が聞こえる。
『どうしてないてるの?』
何て返したか記憶を探る。そう、確かこのときは、親しい友人がいなくなってしまったことが寂しかったのだ。
今なら判る。友人は家に帰ったのではない。薬が適合せずに死んだのだ。
『じゃあ、あたしがともだちになってあげる!』
無邪気に発された言葉に、思わず笑ってしまった。
だけど当時の自分は何も疑わずに、不思議そうに相手を見やる。
『ほんとだよ。いっしょにいるよ。ずっとずっといっしょにいるよ』
その約束は今でも守られている。ずっとずっと一緒にいる。
今までも、そしてこれからも。
『いっしょにいるよ。いなくなったらさがしにいくよ。だからだいじょうぶ。なかないでいいよ』
子供は優しく手を握って、満面の笑顔を見せてくれた。
その瞬間に、彼女は自分の宝物になったのだ。

『だいすきだよ、シャニ』



「シャニ、シャニ」
揺すぶられる感覚に、シャニはぼんやりと意識を浮上させる。
瞼を抉じ開けると、空の青さに目が焼かれそうになる。
けれどその手前に大好きな顔が入り、攻撃的な光を遮ってくれていた。
・・・・・・」
名を呼べば笑ってくれる。あのときから変わらない、宝物そのままに。
「起きた? 今日はこの辺で野宿になったよ。もうすぐご飯だから顔でも洗っておいで?」
・・・・・・」
「んー?」
「大好き」
あの頃もらった言葉を、そっくりそのまま返した。首に腕を回して、キスのおまけつきで。
「あーっ! シャニおまえ! に何してんだよっ!」
「クロトうざーい・・・・・・」
! 早く顔洗ってきて! でないとシャニ菌が移るよ!」
「・・・・・・クロト、おまえ何言ってんだ?」
水汲みから戻ってきたオルガが、訝しそうに眉を顰めている。
そんなオルガにクロトが事情を説明すると、やはり彼も怒りを湛えた目でシャニを睨んできた。
けれどそんなものはどこ吹く風。シャニは肩を竦めてやり過ごす。
は三人の楽しそうな光景に、ただ嬉しそうに笑っていた。



宝物です。大事なんです。
そのためなら出来る限りのことはすると決めているんです。
宝物です。大切なんです。

他の何よりもずっとずっと、守り抜きたいものなんです。





2006年10月4日