懐かしい大地。滅ぼした大地。許された大地。在るべき大地。
久しぶりのオーブだけれど、たちにとってはすでに一年前に去った場所。
家などとうにないし、家財道具なども皆アーモリーワンだ。先立つものすらなく、あるのはただピクニックのセットのみ。
「お弁当ももう食べられないしねぇ・・・・・・」
食べられないどころではなく、すでにランチは存在しなかった。
ミネルバに乗っていた期間を考えれば当然だし、毒が入っていたら不味いとの判断もあったのだろう。
けれどは少し悔しかった。何たって自信作だったのだ。あの日のお弁当は。
「とりあえずキラたちに連絡とって、少しの間置いてもらう?」
「えー・・・・・・僕、あそこ嫌いなんだよねー」
「ガキばっかでうざい・・・・・・」
「でも、それが妥当だろうな。逃げるにしても何にしても金がねぇとどうにもならねぇ」
「じゃあ電話を見つけたらバルトフェルドさんにかけるってことで」
未開封だった菓子は無事なので、バスケットの中に入れる。それをオルガが持ち、クロトはレジャーシート、シャニはクッションを持った。
を真ん中にして歩き出すと、街頭のテレビがユニウスセブン落下による被害状況を絶え間なく伝えてくる。
オーブの被害はまだ少ない方だけれども、他では国が壊滅したところも出たようだ。
確認できているだけで被害者はすでに千万単位に到達している。連ねられる状況に、は眉を顰めた。
「・・・・・・・・・始まるね」
小さな声が路上に落ちる。
「始まるね、きっと。もう止まらない」
「オーブは今回は連合側かもね。あのカガリっていうのじゃ止めらんないよ」
「うざい・・・・・・」
「出来るだけ早くバルトフェルドたちと合流するぞ。あそこにはアークエンジェルもあるはずだ」
「まさか、僕らも出んの?」
「やだ・・・・・・」
「・・・・・・うん、嫌だね」
「イヤだよ」
「俺だって嫌だ」
四つの足音が雑踏に混ざる。
「戦争なんて、しても辛いだけなのにね」
行く先はない。せめて離れないようにと願いながら、彼らは歩く。
I wish... 【12】
「・・・・・・・・・不審な女?」
部下の報告に、ネオ・ロアノークは仮面の下で目を瞬いた。
彼の前にいるのは、ボギー・ワンことガーティ・ルーに乗っている研究者だ。
他の艦では見られない職種を持つクルーが、ガーティ・ルーには数多く乗っている。
それらは、この戦闘の要となるパイロット―――エクステンデッドたちのためだった。
白衣の研究者は、手元のファイルをめくりながら報告する。
「はい。アウル・ニーダの記憶を処理していたところ、見つかりました。一度目はアーモリーワンでニーダと交戦し、そのときは私服姿だったのですが、二度目のユニウスセブンのときはザフトのパイロットスーツを着ています」
「だったらザフト兵なんじゃないの?」
「ですが・・・・・・こちらをご覧下さい」
差し出された紙は、アウルの記憶から取ったものだろう。その原理をネオは詳しく知らなかったし、その専門の人が分かっていればそれでいいと思っていた。
――――――だが。
「・・・・・・・・・これって、もしかして?」
目線で尋ねれば、研究者も同じことを思ったのか頷きを返す。
「アウルの記憶は?」
「この件についてでしたら、消しておりません」
「呼んできてくれ」
研究者が敬礼し、部屋を出て行く。
ネオはそれを見送った後で、もう一度手元の紙へと視線を落とした。
かつて見た資料よりも成長した姿。これがもしも例の人物なら、年は19になっているはずだ。
滑らかな頬の線を指でなぞって、ネオは笑う。
「美人になっちゃって、まぁ」
廊下からはアウルの近づいてくる足音が聞こえる。
幸せを望むのは罪ですか。平和を欲しがるのは悪ですか。
どうすれば願いは叶いますか。それとも叶う願いなどないのですか。
運命は作るものですか。それとも決められたものですか。
足掻いてはいけませんか。すべては無駄に終わるのですか。
一つの願いすら叶えてはくれませんか。
私たちの幸せを、叶えてはくれませんか。
バルトフェルドと連絡がついた二日後に、彼は自らジープを運転して迎えに来てくれた。
遅いと文句を言えば、笑って悪かったと謝られる。
こういった良い意味での大人の余裕に、たちは慣れていなかった。彼らにとって大人とは、自分たちを追い込むばかりの存在でしかなかったから。
それ故に彼らはバルトフェルドが苦手だった。どう接すればいいのか、判らない。
「大西洋連邦や連合諸国の声明文を聞いたかい?」
風を切って走るジープの運転席から、バルトフェルドが聞いてくる。
は助手席で流れる髪を押さえながら、うんざりしたように答えを返した。
「もちろんです。オーブに来てからずっと注意してましたし、何度も繰り返されて今や空で言えますよ」
「だけどプラントはすごいねぇ。あの新議長は武力じゃなく対話で解決を目指したらしい。弱腰と批難されてはいるが、いやはや立派なものだよ」
「デュランダル議長ですか・・・・・・」
ちらりとは後部座席を振り返る。
以前なら三人で乗ると窮屈だっただろうが、子供の身体になっている今なら余裕で入る。
オルガが眉間にしわを寄せた。僅かな沈黙の後で、吟味するように言葉を捻る。
「俺は・・・・・・注意した方がいいと思うぜ」
「僕も。なんかタヌキっぽかったよ、あのオジサン」
「俺がシャニに薬飲ますのをじっと見てたしな。気をつけといて損はないだろ」
「・・・・・・笑顔がうさんくさかった・・・」
「って感じです」
非常に端的な感想に、バルトフェルドが声をあげて笑い出す。
「なるほど。一筋縄ではいかない感じか」
「あたしたちとしては、ですけどね。ちょっと痛いところも見せちゃったんで、今後は近づきたくないですよ」
「まぁ普通に暮らしていれば最高評議会議長とお目にかかることなんてないさ」
ジープはだんだんと人里を離れ、静かな森の中に入っていく。
潮風の香りと波の音が聞こえ、クロトはミネルバを思い出した。
小さな手を閉じて開く。この手はまだ銃の感触を覚えている。大丈夫。まだ、守れる。
「・・・・・・核攻撃も、されちゃいましたね」
「だけど、ザフトはそれを全滅させた」
「戦争は避けると言いながらも武力はちゃんと持ってる。連合のトップがアズラエル理事と同じような人なら、たぶんデュランダル議長の勝ちですよ。あの人はかなりのやり手っぽい」
「君たちは今後の展開はどう読む?」
その問いに、は一度息を吐いた。本当はこんな展開を望むわけではないのだけれど。
「連合とザフトで全面戦争。オーブは連合に組み込まれるんじゃないですか」
「・・・・・・あいつに代表は務まらねぇよ」
「理想ばっか語ってる。それが悪いとは言わないけどさ、現実は理想じゃ片付かないことっていっぱいあるし」
「お子様だよね・・・・・・」
厳しい意見だけれども、バルトフェルドは苦笑しただけで何も言わなかった。
つまりは彼も四人の意見に同ずるところがあるのだろう。それがどれかは判らなかったけれど、おそらく全面戦争の意見には賛成らしい。
ジープの先に、大きな屋敷が見えてくる。
「まぁ、オーブが結論を出すまでは少し時間があるだろう。それまではゆっくりしていきたまえよ」
「・・・・・・お世話になります」
代表してが頭を下げた。
温かな包容力を感じさせる態度を、やっぱり苦手だと思いながら。
2006年3月7日