戻ってきてしまった。忌まわしい地に。
戻ってきてしまった。忌まわしい海に。
この大地にいるだけで心が騒ぐ。四方が気になって仕方ない。
見られているような気がする。一時だって、気は抜けない。

どうか見つかりませんように。
どうか気づかれませんように。
どうかどうか・・・・・・ずっと一緒にいられますように。





I wish... 【11】





パイロットスーツから着替えて帰ってきたを、オルガとシャニとクロトは泣き出しそうな笑顔で迎えてくれた。
嬉しい。よかった。無事でいてくれて。心配した。いろんな言葉を告げられて、クロトはほんの少し泣いてしまったりもして。
自身泣いてしまいそうだったから、きつく彼らを抱きしめて、疲れを癒すために一眠りしようと提案する。
シングルベッドに四人は寝れなくて、床にタオルケットを敷いて眠った。
温かな体温がすぐ近くにあることが、生きているということを教えてくれた。
次に目が覚めたとき、艦に伝わる揺れが宇宙とは違っていて、がそれを言えばオルガは欠伸をかみ殺しながら目元を擦る。
「海だろ。オーブに向かってるらしいしな」
「あ、海か。そういえばこんな感じだったね」
「外に出てみるか? それくらいなら平気だろ」
「海? 僕も行く!」
「俺も行く・・・・・・」
飛び起きたクロトは、寝癖で髪が少し跳ねている。
シャニはアイマスクがなくて眠りが浅かったのか、パチパチと繰り返し目を瞬いていた。
三人は、に自分たちが暴走しかけたことを告げていなかった。言えば彼女はこれ以上ないほど心配する。だから言わなかった。
は三人の様子が少し違うことに気づいていたけれど、何も聞きはしなかった。もしも本当にどうしようもないことなら言ってくれるだろうと信じていたから。
警戒態勢の取れた艦内を、のんびりと歩く。開いていたドアの向こうから銃声が聞こえ、けれど殺伐とした雰囲気は感じなかったので顔を出してみた。
手前にいた赤い髪の少女が振り返る。
「あ、さん! もう大丈夫なんですか?」
「ん、心配かけちゃってごめんね」
「いいですよー。お昼を誘いにいったんですけど寝てたみたいだから、そっとしておこうと思って。もう疲れは取れました?」
「おかげさまで、ぐっすり。信じられないくらい寝ちゃった」
照れたように笑う彼女に、疲れた表情は見えない。ルナマリアはホッとした様子で肩の力を抜いた。
は彼女の手にしている銃を指差して首を傾げる。
「それ、訓練?」
「はい。どうせなら外の方が気持ちいいからって、ここでやってるんです。さっきなんかすごいんですよー! アスランさんに撃ってもらったんですけど、もう的の真ん中ピッタリなんです!」
「やめろよ、ルナ。あんなやつの話なんか」
「いいじゃない、シン。あ、でもさんも元オーブの軍人なんですよね? じゃあ久しぶりにちょっと撃ってみません?」
「え」
ルナマリアの突飛な一言に、だけでなくメイリンもシンも驚いたように彼女を見た。
規則的に銃を放っていたレイもちらりと視線を寄越す。
差し出された銃をどうしようかと思っていると、横から小さな手がそれを奪った。
「あっ!」
「僕、撃ってみたい!」
「ちょっと、子供はダメよ! 危険だから返しなさい!」
「大丈夫だよ。こんなご時世だもん。銃を撃ったことくらいあるし、それに僕、シューティングゲーム得意なんだよね」
クロトはルナマリアの腕を交わし、手馴れた様子で銃の具合を確かめる。
弾丸が装填されているのを確かめると、的の正面の規定位置に立った。
「馬鹿、止めなさいよ! さんも止めて下さいっ!」
「あー・・・・・・」
ルナマリアにそう言われても、は苦笑しか返せない。そもそも今はこんな子供サイズになっているクロトだけれど、元々四人の中では一番射撃の命中率が高いのだ。
遠くからの狙撃ならばオルガの方が上だが、全体的に見るとクロトが一番。ちなみに最下位はシャニである。
「たぶん大丈夫だと思うから、ちょっと撃たせてあげてくれる?」
お願い、と言うとルナマリアは渋々と引き下がる。メイリンとシンも場所を譲るように後ろに下がった。
「クロト、おまえ体のこと忘れんなよ」
「・・・・・・一発でもミスったら、三回まわってワン・・・」
「うるさいなっ! オルガもシャニも見てろよ!」
クロトはそう宣言して銃を構えた。セーフティを外し、狙いを定める。子供の指が引き金を引いた。
一発、二発、三発、四発、五発・・・・・・六発。
薄い煙が銃口から立ち昇る。ルナマリアたちは何も言えず、ぽかんと口を開けた。
得意満面な顔でクロトが振り返る。
「ほーら、僕の勝ち! 全部命中! さっすが僕!」
はい、と銃をルナマリアに返して、クロトはへと駆け寄った。
褒めて褒めて、というオーラが出ていて、は苦笑しながら橙色の髪を撫でる。
「すごい・・・・・・全部真ん中・・・」
「アスランさん並み・・・・・・」
シンとメイリンが呆然と呟き、レイは目線を鋭くしてクロトを見やる。
驚きの中に戸惑いを感じ、それが疑心に変わらないうちには笑顔を浮かべた。
「私たちの住んでたオーブは、復興のときに結構荒れたでしょ? だからそのときに護身用として教えたの」
ね? と笑いかければ、うん、とクロトも察して頷く。こういった呼吸が、四人は絶妙だった。
それは決して生まれついてのものではない、長きを経て身につけた、様々なものの結果だった。



ミネルバがオーブに到着した。
カガリとアスランはセイラン家のお出迎えやら何やらで盛大に持て成されていたが、あくまで一般人を名乗っているたちは、そっと静かに艦を降りる。
「どうもお世話になりました」
ぺこりと頭を下げたに、タリアは帽子を脱いで右手を差し出す。
「いいえ、こちらこそ助かりました。あなたの働きにとても感謝してるわ」
も笑ってその手を取り、軽く握った。
「これからどうなるか判らないですけど・・・・・・どうかお気をつけて」
「あなたたちも。またいつか会えるといいわね」
「そうですね。そのときは是非、戦場じゃない場所で」
互いに僅かに苦笑して、手を離す。整備兵からバスケットなどを受け取って、はもう一度深く頭を下げた。
「どうもありがとうございました」
「ありがとうございました」
「ございました」
「ました」
並んでいたオルガ・クロト・シャニも頭を下げるが、感謝の程度は個人によって違うらしい。
思わず笑ってしまいながら、タリアは見送る。
艦の上部からは、ルナマリアたちが大きく手を振っていた。
さーん! さよならー! 気をつけてー!」
「うん! みんなも気をつけてね!」
多少仲良くなれた彼らと別れるのは寂しかったが、それよりも戦場から離れられる喜びが勝った。
ともすれば早足になってしまいそうな歩みを押さえ、ゆっくりゆっくりと港を離れる。
怪しまれないように、不審に思われないように。
降り立った茶色の大地は、どこか生々しい匂いがした。
「これから・・・・・・どうしよっか・・・」
呟いて、足を進める。行く当てなどなかった。





2006年2月26日