トリガーを握る手に、力がこもる。殺せない。殺したくない。殺してはいけない。
何のために自分は、あの地獄のような日々を生き抜いたのだ。
何のために自分は、手にした平穏を守ろうとしていたのだ。
何のために自分は。

何のために、自分は。





I wish... 【10】





の援護にシンのインパルスが加わり、ザク・インパルス対アビスという展開になった。
けれどまだ落とせない。落とすのを、はどうしても躊躇ってしまう。
トリガーを引いたら、殺したら、もう戻れない気がしていた。
それに相手はかつての自分たちと同じ連合の生体CPUだ。殺したくない。
その気持ちがザクを操る手を鈍らせる。決着のつかないまま、彼らは消耗戦に突入していた。
けれどその動きも、思わず止まる。
目の前にあった巨大なコロニーが、大きく割れたのだ。
「ユニウスセブンが・・・・・・」
『まだまだだ! もっと細かく砕かないと!』
通信越し、アスランの声が聞こえる。加えて聞き覚えのある声も割り込んできた。
『アスラン!?』
『貴様ぁ! こんなところで何をやっている!』
『そんなことはどうでもいい! 今は作業を急ぐんだ!』
こんなときなのに、こんなときだからこそ彼らのやり取りが嬉しくて、思わず笑ってしまう。
先の大戦の直後に少し会っただけだけれど、彼らも元気だったらしい。気持ちが落ち着く。手の震えが少しだけ収まる。
笑みを零していると、視界の中にいたアビスが動いた。どうやら粉砕作業をしているアスランたちの方へ向かうらしく、方向転換している。
「ふざけんな・・・・・・っ!」
腕を狙ってハンドグレネードを発射する。当りはしたが、もげはしない。
「アスラン、行ったよ!」
『っ・・・イザーク!』
『うるさい! 今は俺が隊長だ! 命令するな、民間人がぁっ!』
スプラッシュザクファントムが、難なく被弾していたアビスの腕を切断した。
さすがだ、とは思う。イザークはプラントを守るという意思が固く、躊躇いがない分とても強い。
羨ましく思っていると、モニターが開かれて懐かしい顔が映し出された。
『・・・・・・やっぱりだよ』
「ディアッカ」
『なーんでおまえがそこにいんの。オーブにいるんじゃなかったっけ?』
「一年位前からアーモリーワンにいたの。で、見事に巻き込まれてこういことになってるわけ」
『オルガたちは?』
「いるよ、ミネルバに」
粉砕作業を続けながらの、片手間の会話。
けれど久しぶりに会えた相手ということで話が弾む。戦時中は敵対していた彼らも、今はただの友人だった。
誰もがみな戦争をしたくてしていたのではないということが分かって、後悔や蟠りはあれど敵意はない。
二つ目のモニターに銀髪が映り、あぁ、傷を消したんだ、とは思う。
『貴様までこんなところで何をやっている!』
「慈善事業。一宿一飯の恩。もしくは偽善?」
『大体貴様を戦闘に出すなど、あいつらは何を考えている!? 相変わらず馬鹿なのか!』
「相変わらずって傷つく言い方・・・。今回は破壊作業に出る直前でコンディションレッドが発動したの。だから不可抗力」
『ならばアビスなどインパルスに任せておけばいいだろう! 貴様は戦うな!』
「・・・・・・うん、ありがとう」
言葉は乱暴だけれど、心配してくれている。その気持ちが分かるからこそ頷いた。
ボギー・ワンから帰艦信号が放たれ、ミネルバからも同じ命令が下される。
はモニターの二人に手を振って、別れを告げた。
「じゃあね、ディアッカ、イザーク。また会える日まで」
『あぁ、気をつけろよ? ちびっ子たちにもヨロシク』
『ふん。せいぜい地味に暮らすんだな』
「二人とも死なないでよ? 今度は一緒にピクニックでも行こうね」
一方的な約束を取り付けて、返事は聞かずに通信を切る。そのままザクを反転させ、はミネルバへと向かった。
アスランのザクとシンのインパルスがまだ帰投していなかったけれど、きっとすぐに帰ってくるだろうと思いながら。
カタパルトに着地し、ザクを所定の位置へと収める。ヘルメットを外してコクピットを出た瞬間、の足は崩れた。
「あれ・・・・・・?」
無重力空間なので落ちはしなかったが、ぺたりと不恰好のまま宙に浮くことになってしまい、自身それに戸惑う。
知らないうちに気を張り詰めていたのか、それとも誰も殺さなかったことに安心したのか。笑ってしまった膝はしばらく使い物になりそうにない。
どうしたものかと考えていると、不意に横から腕を引かれた。
振り向いてみれば、白のパイロットスーツに身を包んだ少年が、の腕を掴んでいる。
「ミネルバはこれから地球に降下する。デッキは危険だ」
「あ、ありがとう」
引っ張られるようにして通路まで連れて行かれる。そこでもまだ立てなくて座り込んでしまったけれど、はどうにか少年を見上げて礼を述べた。
「あたしは。あなたは?」
「・・・・・・レイ・ザ・バレル」
「レイかぁ。うん、本当にありがとね」
話している間にも焼けるほどの重力がかかってくる。久しぶりの感覚には眩暈がしそうだった。
シャニたちはどこだろう。今すぐ会って抱きあいたかった。





2006年2月26日