この身体は、罪に塗れています。
いくら懺悔しても、許されないほどの罪に。
溺れています。きっと、一生。

ずっと、一生。





I wish... 【08】





それからのことを、はあまり覚えていない。
激情に駆られたシンは、近くの部屋からアスランが出てきたのを見て、踵を返して去ってしまった。
そんな反応を返される理由をアスランはどうやら知っていたらしく眉を顰めていたけれど、に話そうとはしなかった。
けれど何となく判った。先ほどの台詞だけで十分に。
きっとあの少年は――――――シンは、家族を失っているのだ。先の大戦で、オーブという場所で。
国を悪く言っていたことから、きっとアスハが連合に従わず戦端を開いたことを恨んでいるのだろう。
だとしたら本当に恨まれるべきは自分だ。オーブを炎に変えたのは、紛れもない自分だ。
薬を飲まされ、興奮して戦いに臨み、命令のままに破壊した。忘れはしない、後悔ばかりの過去。
だけど自分たちだって必死だったのだ。死にたくなかった。生きたかった。自由をこの手に握り締めたかった。
謝罪は出来ない。悪かったとは思うが、自分たちだって理由があった。
さん、スーツどうですか? 小さくないですか?」
隣のロッカーを閉めながら、赤い髪の少女―――ルナマリアが聞いてくる。
「うん、平気みたい。ごめんね、借りちゃって」
「いいですよー。こっちだって一人でも多くの手を借りたいんですから」
明るく快活な笑顔は、戦場では珍しい。一種尊敬に似た感想を得ながら、彼女についてデッキへと向かう。
ユニウスセブンの破壊作業許可は、いとも簡単に出された。
が申し出る前に、すでにアスランが嘆願していたのだ。一人も二人も同じこと、ということなのかもしれない。
呆れたような顔をしていた艦長はともかく、緩やかな微笑を見せていた議長は一癖ありそうだ。がそう考えてデッキに入ると、見慣れたカラフルな色彩がすぐに目に入ってきた。
!」
軽く床を蹴ることで器用に無重力の空間を飛んでくる。
狙いを違わずぽすんと抱きついてきたクロトを、は笑顔で抱きしめた。
「デッキ、立ち入り禁止じゃなかった?」
「カワイコぶったら入れてくれた。『お姉ちゃんが心配なんです!』って泣きながらオルガが」
「んなことしてねぇよ!」
「俺はしたけど・・・・・・」
臆面もなく言うシャニも、の手に指を絡める。
ヘルメットを奪い、もう片方の手はオルガが握った。
「・・・・・・気をつけていって来いよ」
「無理だと思ったらすぐに戻ってきてよ!?」
「怪我しないで・・・・・・」
見上げてくる三人は情けなく眉を下げていて、とても心配させているのが分かる。
だからも精一杯の笑みを浮かべて、彼らの頬にキスを送った。
目を瞬いたり、真っ赤になったり、お返しにキスをされたりして、嬉しくて、くすぐったくて。
「必ず帰ってくるから、待っててね」
温かな家族を思わせる四人に、デッキにいたクルーたちは自然と頬を緩めた。



『モビルスーツ発進一分前』
今回に与えられたのは、ガズウートではなく緑色のザクウォーリアだった。
初めて乗る機体だけれど、それはあまり関係ない。どの道粉砕作業だけなのだから、多少慣れていなくても問題ないだろう。
珍しげに並ぶボタンなどをいじくっていただが、聞こえてきた声に肩を震わせた。
『発進停止。状況変化。ユニウスセブンにてジュール隊がアンノウンと交戦中』
「交戦・・・・・・!? た、戦ってるの!?」
『各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を変更して下さい』
画面の向こうで整備クルーたちが慌ただしく動き出す。振動が装備の転換を教え、否応なしに巻き込んでいく。
レバーを握っていた手が震える。フルフェイスヘルメットの下で、冷ややかな汗が浮かんでくる。
『更にボギー・ワン確認。グリーン25デルタ!』
「―――っ・・・・・・」
! 君は降りろ!』
モニターに映った顔が、酷く焦った様子で告げてくる。
「アスラン・・・・・・っ!」
『早く! 今ならまだ間に合う! 君は戦うな―――・・・・・・』
『針路クリアー。ザク、機、発進どうぞ』
誘導に、ザクが勝手に動く。細長いカタパルトの向こう、口を開けて待っている宇宙。
飲み込まれる。闇に。
機、どうぞ!』
「・・・っ・・・ちくしょう!」
乱暴に吐き捨てて、はレバーを握った。震える奥歯を噛み締める。
今にも零れそうになる恐怖を、必死で堪えて。
! ザク、行くよっ!」
二度と戻りたくなかった場所へ、今。



身体が震えるのは恐怖からですか。それとも喜びからですか。
口は拒絶するけれど、手足は自ら向かってませんか。
ほら、声が聞こえてきませんか。

ここがあなたの居場所だと、誰かが囁いていませんか?



ユニウスセブンの周りを飛んでいる機体は、おそらく工作隊だろう。
「ジュール隊って言ってたけど・・・・・・まさかねぇ」
笑おうとして、は自分の口元が引きつったのを自覚する。あぁ、困った。どうしよう、と小さく呟く。
ガズウートに乗ったときは良かった。あの時はシャニたちが一緒だった。彼らがいたから自分はあれだけの状態で済んだのだし、後遺症を再発することもなかった。
だが、今振り向いてもパイロットシートの後ろに彼らはいない。当然のことなのに心細い。逸る心臓を懸命に抑える。
敵機を知らせるアラートが、コクピットの中に鳴り出した。
瓦礫の向こうから直進してくる水色の機体。忘れはしないアビスに、はビームトマホークを右手に、左手にシールドを構える。
振り下ろされたビームランスを、一瞬のところで交わした。
!』
どこかからこの状況を見ているのだろう。アスランからの通信が入るが、答える余裕などない。
戦いになる。一人で。オルガがいない。クロトがいない。シャニがいない。戦いになる。一人で。戦える? 戦える?
身体はまだ覚えている。だけど恐ろしくて仕方なかった。きっと戦いになれば、自分のリミッターは外れてしまう。
戻りたくない。そう心が必死で叫んでるのに。
『おまえ、あのときの女だろっ!』
アーモリーワンでも聞いた、少年の声がする。
『今度こそ決着をつけてやるよ!』
楽しそうな声と共に、アビスの両肩につけられた三連装ビーム砲が火を噴く。
逃げられなかった。
逃げられなかった。この、戦いの渦から。





2006年1月16日