シンは整備兵に混ざって、民間人だと名乗るガズウートのパイロットから押収した手荷物を調べていた。
乱暴に丸められていた布を広げると、爽やかな水色が広がる。
「・・・・・・レジャーシート」
薄っぺらなそれを、整備兵へと渡す。
「・・・・・・クッション」
ふわふわのそれを叩いてみるものの、中に何かが入っている感触はない。
「・・・・・・市販のお菓子」
まだ未開封のそれらはシンもスーパーなどで見たことがある。
「それと・・・・・・バスケット」
大き目のバスケットを、一応センサーに通して爆発物が含まれてないことを確認してから開く。
中に収められていたのは銃でもナイフでもなく、美味しそうなランチだった。
外で食べることを考慮してか、どれも手でつかめるものになっている。
具沢山のサンドイッチにゴマやおかかなど混ぜご飯の各種おにぎり。から揚げや玉子焼きなどは冷めている今でも美味しそうだし、デザートのカップゼリーはきらきらと光っている。
「・・・・・・どう見たって、ピクニックの最中ですって感じだよな」
肉巻きに指を伸ばすヴィーノを叩きながら、ヨウランがコメントする。
まだ手もつけられていないランチに、シンの胸に遣る瀬無さが募った。
本当に彼らは民間人だったのだ。少なくとも軍人ではない。きっと四人で穏やかな日常を過ごし、今日だって楽しみにしていただろうに。
それなのにその幸せを、あの三機のガンダム、そしてボギー・ワンが壊し、奪った。
涙で目を腫らしていた女性。そんな彼女を守るように立っていた、小さな少年三人。
幼い彼らに妹の顔が浮かんだ。―――守らなければならない。
シンはきつく両手を握り締める。
湧き上がる憎しみと怒りをどうにか抑えようと、爪を食い込ませたとき。
「では、この度の事はどうお考えになる! あのたった三機の新型モビルスーツのために、貴国が被ったあの被害のことは!」
甲高い声に、心臓が一瞬鼓動を止めた。次の瞬間には、堪え切れず湧き上がる熱。
「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない、互いに手を取って歩む道を選ぶと!」
溢れんばかりのそれは、まるですべてを蝕む毒に等しい。
シン・アスカという人間を象る、毒という名の命。
呼吸がうまく出来ない。耳を塞ぎたい。塞ぎたくない。身体のすべての細胞が訴えている。
止められない。そう、止めたりなどしない。拳を握り、シンは仰いだ。
高い位置にいる金髪の少女を睨みつけ、この世のすべてはおまえが原因だと宣告するように。
「さすが綺麗事はアスハの御家芸だな!」
自分の平和を奪った者を、憎む。
I wish... 【06】
ガーディ・ルーはミネルバに発見されたことにより、すぐさま戦闘配備が布かれた。
パイロットはスーツに着替え、ブリーフィングルームへの集合を命じられる。
アウルは気楽な様子でロッカーを閉め、隣のスティングを振り返った。
「あの新型艦だって?」
「ああ。来るのはあの合体野郎かな」
「なら、今度こそバラバラか、生け捕るか」
「どっちにしろまた楽しいことになりそうだな、ステラ」
もう一人の仲間に声をかければ、彼女はぼんやりとした様子でパイロットスーツの襟元をもてあそんでいる。
その様子に首を傾げつつも、アウルは肩を竦めた。
「でも僕としては合体野郎よりも、あの戦車みたいな機体に来てほしいね。今度こそ決着をつけてやるよ」
「あぁ、そういやおまえ、負けたんだっけ?」
「負けてねーよ! ちょっと油断しただけだ!」
「あーはいはい、そういうことにしといてやるよ」
スティングはヘルメットを掴み、以前ボーっとしたままのステラを小突いて。
「じゃあ行こうぜ。今度こそあいつらを落としにな」
始まる戦闘。鳴り響くアラート。
与えられた一室で、たちはただじっとしているしかなかった。
丁寧に巻きつけられた両足の包帯が、やけに目に付いて仕方ない。
あの頃はどんな酷い怪我を負ったとしても、こんなに丁寧な手当はしてもらえなかった。
自分たちは人ではなかった。生体CPUという部品。もしくはそれ以下の扱いだった。
嫌な思い出ばかりが甦ってくる。
「・・・・・・っ」
「大丈夫? 」
「うん、平気」
先ほどから揺れてばかりの艦体は、紛れもなくこちらが不利だということを示しているのだろう。
ガンダムに乗っていた以前と違って、固定されていない身体は左右へと振り回される。
少しでもそれを防ごうと、四人はベッドの上で固まっていた。
シャニが、ぽつりと呟く。
「戦闘中の艦って、結構揺れるんだ・・・・・・」
オルガがちらりと彼を見て、また視線をシーツに戻す。
「俺たちは、ずっとモビルスーツに乗ってたからな」
「もしかしてあの人・・・・・・何だっけ、艦長の女の人。あの人って結構上手かった?」
「ドミニオンはあんまり被弾しなかったよね。最後の最後で沈んだけど」
「あれは、おっさんが悪かったと思う・・・・・・」
「あいつ無茶ばっか言ってたからな」
「自分は戦ったこともないくせに命令ばっかしてさ。こっちはいい迷惑だったよ」
「でもあたし・・・・・・アズラエル理事に一つだけ感謝してる」
の言葉に、シャニもオルガもクロトも不思議そうに彼女を見た。
あからさまに「どこが」と告げている表情に思わず笑ってしまって。
けれど、大切そうに、一言ずつ噛み締める様にして告げる。
「だって、あの人のおかげで、三人と会えた」
「・・・・・・っ僕も! 僕もそれだけはおっさんに感謝してる!」
「どうしようもなくムカつく奴だったけど、それだけはいいことしたよね・・・・・・」
「あぁ、それだけはいいことしたな」
高いスーツを身にまとって不釣合いな戦場にいた男を思い返し、四人はそれぞれに苦笑した。
散々な目に遭わされたし、今でもそれは尾を引いて仕方ないけれど、それでも感謝してやってもいい。
自分たちを引き合わしてくれた、この奇跡にだけは。
「・・・・・・大好きだよ」
手を握って指を絡めあい、はそっと告げる。
ミネルバはまだ、激しく揺れたまま。
巻き込まれるだけの戦場はこうも恐ろしいものなのかと、四人は身にしみて感じていた。
力があるのに、戦場に立たない私たちを責めますか。
自分のことばかり考えて、世界を疎かにする思考を咎めますか。
逃げてはいけませんか。恐れてはいけませんか。かつておまえたちも同じものを齎したくせにと詰りますか。
望むのなら戦って手に入れろと言いますか。それは本当に最良の手段ですか。
ねぇ、この世界には本当に。
平和というものは、存在するのですか?
2005年12月26日