周囲のハンガーをすべて破壊し、あらかたのモビルスーツを破壊しつくした頃、アウルはまた新たなモビルスーツが起動したのを見つけた。
ベージュ色の戦車のような機体が、変形して立ち上がる。両肩のフルカビーム砲がやけに目だって見えた。
「バカだねぇ、大人しくしてりゃもうちょっと生きられたのにさ」
笑いながら肩を竦めて、アビスを操る。
一瞬で肉薄すると、ビームランスを振りかざした。
「・・・・・・っ!」
けれど相手は、僅かギリギリのところでそれを交わした。
綺麗な動きで機体を操り、アビスから少し離れたところに着地して、両腕のトリウィム三連装軽砲を構える。
「へぇ・・・・・・やるじゃん」
目の前の機体はガンダムではない。量産型のガズウートだ。火力は侮れないが、他の面では敵にさえならない。
けれどどうやらパイロットの腕は、そこらへんのザクよりも上らしい。
「それじゃ―――楽しませてくれよなっ!」
笑い、アウルは連装ビーム砲のトリガーを引いた。
I wish... 【03】
放たれたビーム砲を、三連装軽砲で相殺する。
だが相手が連射可能なのに対して、こっちは三射が限界だ。両肩のフルカビーム砲で迎え撃つにしても限界がある。
は瞬間的にそう判断し、機関砲をアビスに向けて撃ち、その間に自身は周囲で倒されたザクのビームトマホークを拾って構えた。
「頭ぶつけたりしないでねっ!」
コクピットの中でが叫ぶ。そもそも一人乗りのそこに、今は彼女以外に子供とはいえ三人の少年がいるのだ。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた荷物のように、シートの後ろでシャニが身をよじる。
「平気・・・・・・クッション、あるし」
「そういう問題じゃねぇだろ! 、場所代われ! 俺がやる!」
「オルガじゃペダルに足が届かないでしょ!? だから無理!」
至極もっともなことで反論され、オルガだけでなくクロトもシャニも自分の子供の身体を恨んだ。
この中で今も成長した身体を持っているのは一人。だから彼女が操縦するしかないことは判るのだけれど、でも。
「何でこんなことになるんだよぉ・・・・・・っ」
クロトの声が、泣きそうだった。
先ほどまでは口笛を吹く余裕さえあったのに、今はそれがない。
目の前のガズウートがそれだけ強かったのだ。量産型とは思えない技量で、限られた武器で応戦してくる。
援護を頼もうにもスティングとステラは予定外の新型と戦っているし、何よりアウルのプライドがそれを許さなかった。
「何だよっ・・・・・・どこのどいつだよ、おまえ!」
苛立ちから、思わず通信ボタンを殴りつけるように押して怒鳴った。
ノイズを介した向こうで誰かの息を呑んだような音がする。同時に、アウルのモニターにも映像が映し出された。
ガズウートのパイロットシートに座っているのは、女性だった。
アウルより少し年上だろうか、白いコートが大人しそうで、とても戦闘に慣れた軍人には見えない。私服ということも含め、おそらく民間人なのだろう。
ただ、問題なのはその後ろ。
なんでコクピットに子供が乗っているんだろう。・・・・・・しかも三人も。
アウルは不可解に眉を顰めたが、片口を吊り上げてわざとらしく笑った。
「子連れでパイロットなんて無理してんじゃないの? お・ば・さ・ん!」
挑発するように一文字ずつ言ってやれば、案の定モニターに映る表情が強張った。
優しそうだった顔が一転して怒りを顕にし、瞳が意思を持って鈍く光る。
その強さにアウルは思わず目を瞬いた。この変化の仕方をどこかで見たことがあるような気がして。
『・・・・・・・・・誰がおばさんだって? あたしはまだ19よ!』
『うわぁ! が切れた!』
『バカ野郎、挑発すんじゃねぇよ! 死ぬぞ、おまえ!』
『がイっちゃってるの、久しぶりかも・・・・・・』
子供たちが慌てたように宥めにかかるが、そんなもので女性の怒りは収まらないらしい。
伏せられた顔が笑いで肩を震わす。そして再びまみえた瞳は、狂気的な色に染まっていた。
次の瞬間にはビームトマホークが視界の端に現れ、アウルは息を呑んで身を引く。
『あたしは・・・・・・あたしたちの平和を乱す奴は、絶対に許さない・・・・・・っ!』
段違いで先ほどよりもさらに早くなった攻撃を必死で交わしているうちに、アウルは気づいた。
この変貌はまるで仲間の一人・・・・・・ステラのようだ、と。
フルカビーム砲がやられたけれど、代わりにカリドゥス複相ビーム砲を破壊してやった。
かつてとは違い動きの鈍い機体に、は舌打ちをする。うざい、とシャニの口癖さえ呟いた。
「! 二連装ビーム砲が来るよ!」
「右に交わして奴をハンガーに追いやれ!」
「港はダメだよ。アレ、フォビドゥンと同じで水陸両用だし、たぶん」
最初は止めようとしていた三人も、今はモニターをチェックし、戦場を分析してのフォローに回っている。
エネルギー値がそろそろ危険域に入ろうとしているのを確認し、オルガがくそ、と手を握り締めた。
「時間がねぇぞ!」
「判ってる! 生意気なんだよ、ガキがっ!」
ビームトマホークを振り下ろし、バランスを崩したアビスにファルコーネSSMミサイルを構える。
本来ならば一発で艦さえ沈めてしまうほどのそれを、躊躇いもなくトリガーに指をかけて。
「―――バイバイ!」
は笑って、撃った。
2005年10月12日