「うっわぁ、すっごい人!」
アーモリーワンの賑やかな通りを、小さな少年が駆ける。
橙色の髪が軽快に揺れ、ベージュのパーカーが上下に弾む。
その後ろを追いかける少年は、少しくすんだ金髪に、カーキのブルゾン。
「先に行くな、バカ! 迷子になったらどうすんだ!?」
「ならないよーっだ!」
橙の少年が振り返って笑えば、金髪の少年は更に怒ったように走る足を速めて捕まえようとする。
そんな二人の後ろから、白いシンプルなコートをまとった女性が笑いながら声をかけた。
「クロトもオルガも、転ばないように気をつけてよ?」
その女性の片手をしっかりと握るように、エメラルドグリーンの髪をした少年が、グレーのジャケットを着て立っている。





I wish... 【01】





人で溢れている街中を、三人の少年と一人の女性が連れ立って歩いている。
子供たちは七・八歳くらいなのに対し、女性はまだ二十歳前後。息子にしては若すぎるだろうが、コーディネーターならば有りかもしれない。
すれ違う際に彼らに目を留めた人たちは、そんなことを考えながら一行を眺める。
女性の手には大きなバスケットがあり、子供はそれぞれお菓子の入った袋とレジャーシートとクッションを抱えている。
ピクニックに行くのだろう。誰もがそう思い、微笑ましい気持ちで彼らの背を見送った。
「ねぇ、。何で今日はこんなに混んでんの?」
橙の髪の少年―――クロトが振り返る。
それにと呼ばれた女性は柔らかく笑った。
「今日はミネルバの進水式なのよ」
「ミネルバ? って何?」
「ザフトの最新艦だろ。新聞くらい読みやがれ」
「うっさいな、オルガは! でも最新艦って・・・・・・もしかして、また戦争すんの?」
見上げてくる眼差しの中に確かな不安を感じ取って、はエメラルドグリーンの髪をした少年―――シャニと握っていた手を一時的に離し、クロトの頭を柔らかく撫でた。
きょとんとし、クロトは次いで目を細めて嬉しそうに笑う。
それが気に喰わなかったのか、シャニはがクロトから手を離すとすぐにまた自分と繋がせた。
「そうならないために、カガリが頑張ってるよ」
「カガリって、あのオーブの?」
「・・・・・・あいつで大丈夫なのか?」
確かに今はオーブの元首だけどよ、と金髪の少年―――オルガは眉間にしわを寄せて呟く。
まだ小さなくせにそんな仕草がよく似合って、は癖になりそうなしわを笑いながら指で突いた。
「本人の前で言っちゃダメだよ? 気にしてるだろうから」
「・・・・・・赤いのも来るんだっけ・・・?」
「赤いのって、シャニ。いい加減に機体じゃなくて名前で覚えてあげたら? アスランだよ、アスラン・ザラ」
「アスザラも来るの・・・?」
「・・・うん、アスザラはカガユラアスの護衛だからね。今は偽名でアレックスらしいけど」
「変な名前ー」
クロトが笑い、オルガも肩を竦める。シャニは表情を変えずに手を繋ぎ続け、は小さく苦笑した。
かつて敵として戦い、今は友人となっている不器用な彼らを思い出しながら。
見上げるプラントの空は、青い。



のんびりのんびり歩道を歩く。だんだんと市街を外れて、緑が多くなってきた。
「じゃーんけーんぽいっ!」
勢いよく出された手は、パーが二つにチョキが二つ。
勝者となったクロトは歌うように足を進める。
「僕の勝ち! ち・よ・こ・れ・い・と!」
文字数の分だけ大股で進み、一番前に躍り出た。
同じく勝者だったシャニは、一番後ろからクロトに習い、進んでくる。
「ク・ロ・ト・う・ざ・す・ぎ」
「シャニ! 何だよ、それ!」
「本当のことを言っただけだけど・・・・・・何?」
「ムカつくーっ! 撃滅!」
「はいはい、じゃーんけーんぽんっ!」
始まりそうなバトルを未然に制してが掛け声をかければ、反射的にやはり手が出る。
今度の勝者は先ほど敗者だったオルガとだ。
「お・ま・え・ら・い・い・か・げ・ん・に・し・ろ」
「オルガ、それ文字長すぎ!」
「ずるい・・・・・・」
「うっせーな! てめぇらが性懲りもなく喧嘩すんのが悪いんだろうがっ!」
「それでオルガも参戦しなーい」
笑って、も足を進める。華奢な作りのショートブーツが、歩道を踏みしめる度にかつかつと響いて。
「み・ん・な・だ・い・す・き!」
クロトを追い抜いて一番前まで進み、振り返る。
揺れた髪と満面の笑顔に子供たちは目を見開いて、頬を染めて、嬉しそうに笑った。
「僕も大好き!」
「俺も大好きー・・・・・・・」
「・・・・・・俺も、な」
順位を放り出して駆け寄ってくる彼らを、も笑って抱きとめる。
かつては逞しい胸に抱きしめられる側だったのが、今はカラフルな頭は自分の胸元。それが不思議で可笑しくて、幸せで嬉しい。
今度は四人横に並んで、一緒に歩き出した。

その瞬間、彼らの隣を一台の車が駆け抜けていった。

黄色と、水色と、緑。カラフルな頭。
そのうちの黄色と目が合った。毀れそうに大きな瞳は、純粋さのみを湛えている。
年齢からすれば幼い面だけれども、その奥に何か恐ろしいものを隠していそうな。
そんな瞳の危うさに、は思わず足を止めた。
?」
見上げてくる子供たち。かつて彼らの持っていた忌まわしい炎を。
自分も持っていた、持たされていた、狂気的な切望を。
黄色の少女に見たような気がした。

この道の続く先には、ザフトの基地だけがある。

「・・・・・・・・・嫌な予感がする・・・・・・」
ポツリと小さく呟きつつ、は子供たちに手を引かれてゆっくりと歩き出す。
少女を乗せた車が向かったのと、同じ方向へ。



ねぇ、幸せはいつまで続きますか?





2005年10月9日