03.愚かな夢に終始する
未だ、夢に見る。いや、未だという程に月日は経過していない。たかが二ヶ月。季節がゆっくりと秋を経過し、まもなく本格的な冬がやって来る。肌寒くなってきた朝に、綱吉は弾かれるように目を覚ます。荒い呼吸に蠢く心臓。額から布団へと滴り落ちる汗に、乾き切った唇。もう何度こうして目覚めただろう。ランボやイーピンとは一緒に寝れなくなってしまった。フゥ太とも。唯一リボーンだけは同じ部屋に吊るしたハンモックで寝ているけれども、きっと彼には気づかれていると綱吉も理解している。その上で何も言ってこないのだ。乗り越えなくてはいけない。消化しなくては。どくどくと五月蠅い心臓をパジャマの上から押さえて、綱吉はベッドの上に蹲る。
二ヶ月前、学校からの帰り道。綱吉は、ひとりのクラスメイトをマフィアの抗争に巻き込んだ。抗争と呼べるのかは分からない。それでも戦いに巻き込んでしまったのは事実だ。ゾーマファミリーが、ボンゴレ十代目と見込まれている綱吉を暗殺しようと大挙して襲ってきた。それにその日一緒に日直を勤め、たまたま共に帰路についていたが巻き込まれたのだ。綱吉には今も忘れられない。銃を手に呆然とし、乾いた涙で頬を汚していた彼女の姿を。薄く白い煙を立ち上らせていた銃口を思い出すだけで気持ち悪くなる。胃がぐるぐると回り、軋む。そう思うことすら許されないというのに、どうしても身体が拒否反応を起こしてしまう。せり上がる胃液に綱吉は口を掌で覆って堪えた。この手はまだ、誰の血にも汚れていない。
けれどクラスメイトの、の手は、穢されてしまったのだ。彼女は人を殺した。綱吉がマフィアの抗争に巻き込んでしまったがために。
崩れ落ちた男の向こう、泣きながら銃を握っていた姿が忘れられない。
「ごめん・・・」
謝るな。ボスが頭を下げるな。すべて呑み込め。誰にも言うな。生涯口にするな。それがおまえを、おまえだけじゃなくを守ることに繋がる。すべての罪悪感を己の内で抱え込め。それがおまえの、ボンゴレ十代目として一般人を巻き込んだおまえに出来る、唯一のことだ。
「ごめん、ごめん、ごめん・・・っ・・・ごめん、・・・!」
ぼろぼろと目から溢れる滴に、あの日、葬式で見た彼女の両親の姿が重なる。押さえた掌からいくつもの嗚咽が漏れた。ハンモックのリボーンの背はぴくりとも動かない。魘されて目覚める朝には絶対に慣れない。
せめて、君が笑っていてくれたなら。あさましい俺は、そう願ってしかたない。
2011年7月16日