01.葬列





晴天でも雨でもない中途半端な曇り空の下、の葬式は行われた。並盛町の隅にあるセレモニーホールで行われた式には、多くの人々が参列した。並盛中学からも校長や教頭をはじめとした教師陣に加え、クラスメイトだった二年A組の生徒全員が行くことを義務付けられた。二時間目と三時間目の授業を休みにして、歩き、向かった先にあったのは額縁に入れられた明るい笑顔の写真だった。白と黒の装飾が誤りのように、彼女は写真の中で満面の笑みを浮かべている。享年十四歳。遺体は損傷が激しく、棺の蓋が開けられることはなかった。
「何で・・・! どうしてが・・・っ!」
いつも一緒にいたバドミントン部の少女が顔を覆って泣き崩れる。テニス部のふたりの少女もそれは同じで、彼女たちは訃報を知ってからずっと涙していたのか、瞼が腫れ上がり顔は酷い有り様だった。だからこそ伝わる。友人の、親友の死に傷つき嘆いている心が。どうして、何で、また明日ねって言ったのに。つられるように他の女子たちの間からも、ぐす、という鼻をすする音が生まれ始める。京子が取り出したハンカチに顔を埋めた。黒川がその肩を抱いて、痛みに堪えながら眉を顰める。男子は焼香という初めての所作に慣れない者も多く、鎮痛の中に困惑を載せて列を作った。
「・・・ひき逃げ、だったらしいな」
ぽつり、左隣から漏らされた呟きに、綱吉は掌を握り締める。背の高い山本はどこか感情を落とした横顔で、花に埋もれるの写真を見上げている。
「犯人はもう捕まったってさ。は打ち所が悪かったって」
「・・・先生も、そう言ってたね」
「あの日、ツナと、日直だっただろ?」
「・・・うん」
「運が悪かったってことなのかな。俺には分かんねーけど」
でも、と続けた山本に、綱吉は奥歯を噛み締める。
「もうに会えねーのかと思うと、すげぇ寂しい」
泣き声が部屋中に満ちている。女子はもう全員が泣いている。男子の中でも唇を噛み締めている者がいた。山本は淡々としていたし、獄寺はクラスメイトへの礼儀を払っていたけれども、綱吉は俯くことしか出来なかった。どうして。どうして。何でが。何で。どうして。
どうしてが死ななくちゃいけなかったの。
少女たちの泣き声に、ぷつりと掌の皮が裂けた。指先が血に濡れるのが分かるけれども、綱吉は歯を食いしばって懸命に堪える。それでも気になって、ちらりと視線を上げてしまった。そして一瞬で後悔する。肉親のために設けられた席では、の父と母と思われる中年の男女が絶望の底に臥していた。父親はそれでも気丈に参列者に頭を下げていたが、母親は泣き乱れて言葉もない様子だった。ひとり娘を喪ったのだ。その気持ちを察するには、綱吉には何もかもが足りなさ過ぎた。
胸が詰まって、呼吸が出来なくて、左手で制服の胸元を握り締める。獄寺が「十代目?」と気遣うように声をかけてきたが、答える余裕があるわけなかった。口を開いてはいけない。喋ってはいけない。何も言ってはいけない。重く圧し掛かるプレッシャーの中、ついに綱吉の番が来た。初めて見る焼香のための道具を朧に捉え、そしてのろのろと顔を上げる。
飛び込んできたの笑顔に、ついに綱吉の目から涙が溢れた。ごめん。ごめんごめんごめんごめん。ごめん。謝罪を言葉にしてはならない。綱吉は必死に口を噤んだ。罪悪感に溺れる彼は、自分のことだけで手一杯だった。
二年A組の生徒たちが去った後、漆黒の学ランを第一ボタンまできちんと留めた雲雀が現れ、彼は作法に則った美しい動作で少女の冥福を祈った。彼にとって並中の生徒は、すべて自身の監督すべき対象だったのだ。





お悔み、を、申し上げ、ま・・・す・・・。
2011年7月16日