01.崩壊
学校には日直という当番がある。週番だったりとスパンは学校によって異なるかもしれないが、並盛中学校では一日毎だった。出席番号順に、同じ番号の男女が当番を担う。朝は職員室に日誌やお知らせを取りに行き、休み時間になったら黒板を消して綺麗にしておく。時にはノートを集めるように言われたりするけれども、基本的な仕事はそれと号令、後は放課後に机をきれいに並べて、記入した日誌を担任に提出するくらいだ。
その日、は月に一度くらいの頻度で回ってくる日直に中っていた。家では進んで家事を手伝うわけではない彼女も、学校の当番となればそれなりにちゃんと働く。相方の男子に黒板消しとクリーナーを頼んで、日誌を上から順に埋めていく。時間割は一時間目が国語、二時間目が数学、三時間目が音楽で、四時間目が理科、五時間目は体育で、ラストの六時間目は英語。休んだ人はいなくて、コメント欄には当たり障りなく「次の英語は小テストをやると先生が言っていました」と記入した。ピンク色のシャープペンシルを筆箱に戻して鞄に入れれば、机をまっすぐに並び終えた男子生徒が顔を上げる。
「沢田君、終わったよ。日誌はあたしが出しとくね」
「え、いいよ! 俺が出しとくから」
「いいよいいよ。気にしないで」
沢田綱吉は少し迷っていたが、じゃあよろしく、と頼りない感じの笑顔を浮かべた。ダメツナと呼ばれる彼が押しに弱いことは常日頃の獄寺とのやり取りを見ていれば一目瞭然なので、はちょっと強めに言い切った。職員室は一階にあるし、今日は部活もないからまっすぐ昇降口から帰宅すればいい。バイバイ、と日誌を手の代わりに振って、は教室を出た。
職員室にはちゃんと担任教師がおり、日誌を渡して確認の判子を貰えば日直の仕事は終了する。失礼します、と入り口で頭を下げて廊下を進み、昇降口まで来れば先ほど教室で分かれたばかりの茶色の髪が見えた。色素が薄い彼の髪は校則違反じゃないかと思うけれども、風紀委員長である雲雀が特に制裁を加えていないため地毛なのだろう。いいなぁ、とは自身の黒髪をちょいっと触った。下駄箱のところで綱吉も気づいて振り返り、日誌ありがと、とやはり頼りない顔で笑う。
「沢田君って家どこらへん?」
「えっと、俺は並盛スーパーの方。は?」
「あたしは並盛スーパーの先のコンビニ分かる? あそこの裏」
「じゃあ結構近いんだ」
「今日は山本君と獄寺君は?」
「山本は部活で、獄寺君は・・・用があるから先に帰るって」
「へぇ、珍しいね。獄寺君っていつも沢田君と一緒にいるイメージがあるのに」
「え、俺たちってそんな感じ?」
「うん、三人セットって感じ」
中学生ともなれば異性と一緒に帰るのは照れや恥ずかしさがあるだろう。実際、綱吉は気軽に話しかけ、当然のように隣を歩くに少しばかり困惑しているようだった。しかしからしてみれば、綱吉は男の範疇に入らない。彼がクラスメイトの京子にパンツ一丁で告白したシーンを目撃しているし、それから少しだけ注意してみれば確かに綱吉が彼女に片想いしているのだと納得することが出来たからだ。それには綱吉のような、草食系と言えば聞こえはいいような、地味な男子に興味はない。運動をやる身としてはやはり、同じようにスポーツの出来る男子に魅力を感じるのだ。例えば野球部のエーススラッガーである山本みたいな。
のんびりと今日あった授業のことや、コンビニのお菓子の新製品のことなどを話しながら歩く。意外にも綱吉はコンビニのデザートについて詳しく、女子並だね、と言ったら「うちには子供がたくさんいるから」と苦笑しながら返された。一人っ子じゃなかったっけ、と首を傾げれば「父さんの仕事の知り合いの子で」と慌てたように返される。元より綱吉に深い興味があるわけではないので、は「そうなんだ」と流しておいた。あからさまに安堵した彼を気にすることなく、はアスファルトの道を歩く。そこの公園を過ぎたところで、ふたりの道は違えるはずだった。は右に、綱吉は左に。また明日、と手を振り合って別れるはずだったのだが。
「―――ボンゴレ十代目、沢田綱吉だな?」
一瞬にして黒いスーツを身にまとった男たちが、ふたりの周囲を囲んだ。それがが日常に別れを告げなくてはならなくなる、最初の出来事だった。
え? えっと・・・沢田君、知り合い?
2011年7月3日