死神を一人倒した後、だんだんと騒がしくなっていく精霊挺の中を石田雨竜と井上織姫は走っていた。
慎重に行動しているのが幸を成しているのか、今のところまだ他の死神には会っていない。
目指すのは遠くに見える白い建物。朽木ルキアの囚われている場所。
この角の向こうに人の気配がないのを確認して、二人は再び走り出した。
建物が混在している向こうに懺罪宮が見えて。
その前に―――・・・・・・。

「あぁ、やっと来たんか。待ちくたびれたで」

黒い死覇装に身を包んだ、二人の死神が立っていた。





勝手にWJ(BEACH109話)





「な・・・っ!?」
目の前に立つ死神たちを、石田は信じられない顔で見つめた。
角を曲がるときには確かに気配はなかった。
それなのに、今は目の前に立っている。
一人は見覚えがある。細身の身体に薄い笑みを浮かべている男。
一度この精霊挺に入る際、黒崎に一撃を与えた死神だ。
そしてその隣、寄り添うようにして立っているのは長い黒髪を散らしている少女。
紙のように白い肌と血のように赤い唇。
年齢は高校生である自分たちよりも少し下だろうか、と石田は思う。
少女には表情というのものがないから、その考えが当たっているかどうかは判らなかったけれども。
石田がギュッと手を握り、織姫は髪留めへと手を当てる。
戦闘態勢へと入る二人を見て死神は笑った。
「ボクは三番隊の隊長、市丸ギンや。でもってこっちはボクの部下で三番隊臨時副隊長の
と紹介された少女は色のない視線を二人へと寄越す。
ギンはその黒髪を丁寧に撫でながら笑みを深くして。
「君らは名乗らんでえぇよ。殺す相手の名前なんか知ってもしゃあないし。せやけど自分を殺す相手の名前くらいは知っときたいやろ?」
サラリと言われた台詞に思わず身体が反応する。
これはきっと不安。
―――死への、恐怖。
「・・・・・・なら、余計に名乗らなくちゃいけないね」
少しでも力を抜けば引きつってしまいそうな頬で、石田は笑った。
「僕の名は石田雨竜」
「・・・・・・井上、織姫」
震えそうな膝を堪えて織姫も言い返す。
そんな二人にギンはその笑みを深くして嗤った。



懺罪宮をバックに背負い、ギンは二人の旅禍を眺める。
「一応聞いときたいんやけど、出てく気はないん? 今ならギリギリで見逃すことも出来るんやけど」
「・・・・・・誰が」
「朽木ルキアなんか忘れて普通の人間として暮らした方が自分らの為やと思うんやけどなぁ」
石田の言葉を遮ってギンが言うのに、織姫が唇を噛んで言い返す。
「黒崎君が頑張ってるんだから、逃げることなんて出来ないっ!」
まっすぐで必死な視線にギンは「んー?」と首を傾げて。
そして言った。



「せやけど君らの仲間、もう一人死んだで?」



ヒュッと息を呑む音が響いた。



ささやかな風が織姫の髪をさらい、次いでの黒髪を撫でる。
それを抑えながらギンは笑みを浮かべたまま言葉を続けて。
「さっき八番隊長さんが旅禍を斬ったらしいで。いくら腕が立つっちゅうでも所詮人間やしなぁ、ボクら隊長格には敵わへんよ」
「・・・まさか・・・っ」
「・・・黒崎君が・・・っ!?」
「名前は知らへんけど、とりあえず報告が入ってきとる。せやから君らも大人しゅう捕まるか、それとも斬られるか」
明らかに顔色を変えた石田と織姫にギンは楽しそうに嗤って。
「どっちがえぇ?」
身の軽さを感じさせる死神なのに、何故だかその力から逃れることが出来ないと確信してしまう。
身体の動きが威圧に抑えられていく。
血を流す自分が容易に想像できた。
「・・・・・・井上さん」
汗がポタッと流れ落ちて。
目の前の死神は変わらず笑みを浮かべている。
こんな自分たちを嘲笑っている。――――――それでも。
「・・・・・・君は先に行くんだ。黒崎か、茶戸君か、誰かと合流するために」
「・・・っ! そんな・・・」
「―――いいから行けっ!」
悲鳴にも似た声に織姫が身体をビクッと震わせ、そして走り出す。
今来た道を戻るように、死神たちとは反対の方向へ向かって。
石田を一人残して行くことに罪悪感を覚えないわけがない。
だけど―――。
しかし必死の思いで走り出した織姫の行く先を一人の少女が阻む。
人形のような無表情は、さっきまでギンの隣にいたはずので。
織姫と石田が小さく恐怖を声にした。
死神はそれに心底楽しそうに嗤い出す。



「ほな、始めよか」



斬魂刀に、手を伸ばして。





2003年10月30日(2005年7月3日再録)