座卓の上、食べ終えた食器を重ねる小さな手。
二人分の皿をちゃんと揃えて。
一度じゃ持ちきれないから、最初は茶碗だけを手に立ち上がる。
台所と居間との往復を数回繰り返して、最後にはお盆の上に急須と湯のみを持って戻ってきた。
熱いお茶を入れて目の前に寄越し、自分の分も入れた後で、共に持って来た桃を剥き始める。
小さな手が器用に包丁を操るのを見て、ギンは楽しそうに笑った。
「今日な、十三番隊の副隊長さんが死んで、部下が大泣きしたんやって」
きょとんと自分を見上げてくる幼子に、さらに笑みを深めて桃を銜えた。





勝手にWJ(BLEACH134話)





花柄の着流しは、ギンが買い与えて着せたもの。
普通の子供サイズのそれは、にとって少し大きい。
だから丈を詰めて、袖も絞った。小さなはまだ裁縫が出来ないので、ギンが笑いながら針を走らせ、大きさを測って。
そうして直した着物を、はとても大切に着ている。
剥き終えた桃を皿に入れて差し出され、ギンは楊枝ではなく指でつまんだ。
、あーん」
口元に持っていってやれば、幼子は言われるままに小さな唇を開ける。
可愛いなぁ、と思いながら、ギンはまるで雛鳥に餌を与えるかのように桃を食べさせた。
「副隊長さんの奥さんが虚に殺されたから、その仇を取ったんやて」
あむあむ、と咀嚼する幼子に話を続ける。
「せやけど死んでもうたら意味ないやんなぁ? 仇を殺した後で笑うからこそ復讐になるんやで」
自分も同じ指で桃をつまみ、ぱくりと口にする。
は肩口までの黒髪を揺らし、ただ無表情のままギンを見上げている。
小さな子供はまるで人形のようで、ギンはさらに笑みを深めた。
「で、そこの隊の死神が副隊長さんの死体を抱えて大泣きしたんやって。女の子やったらしいから、そいつに惚れとったんかな」
長い睫が音を立てそうに瞬きをして、変わらずにギンを見上げる。
「せやからボクもちょお思ったんやけど」
残り一つになった桃を、相変わらず指で幼子の口元へと運んでやって。



「もしもボクが死んだら、もボクの死体を抱きしめて大泣きしてくれる?」



ニッコリ笑ってギンは聞いたが、それは一瞬の間もなく首を振って否定された。
パラパラと散る黒髪にギンは軽く驚いて、思わずその顔から笑みを消す。
まだ自分をまっすぐに見上げてくるに、ほんの少し首を傾げて。
「・・・・・・泣いてくれへんの?」
こくり、と首が縦に振られる。
「何で?」
この子にこんなに手をかけてあげているのに、泣いてもくれない?
かすかな理不尽をギンが感じたとき。



「だって、、ギンよりあとにしなない」



幼い、けれどハッキリとした声だった。



後に死なない。
先に死ぬ。
駒となって、望む通りに。
盾となり、あなたを守って。
先に死ぬ。

だから、抱きしめることは出来ない。
ごめんね。



向こうで待ってるから、一人で死んでね。



手を伸ばして、花柄の着流しに触れる。
小さな体を抱き上げるようにして自分の膝に引き上げ、そのままぎゅっと抱きしめた。
まだ幼い体は温かくて、心臓はちゃんと音を立てていて。
「・・・・・・おおきに」
抱きしめて、耳元に囁く。
くすぐったそうに身を捩ると、今度は間近で目線を合わせて。
ギンは常とは違い柔らかく笑った。
「せやけどはボクのやから、ボクの許可なしに死んだらあかんよ?」
こくりと、またしてもすぐに頷かれて、ギンは思わず苦笑する。
頬を合わせればすべすべの肌を感じ、小さな手を握れば幼さを悟り。
けれどこの小さな体に納められている力を知っている者としては。
――――――知っていて、利用することを決めている者としては。
もそろそろ死神に向けて勉強始めんとなぁ」
腕の中で見上げてくる幼子に変わらず笑って。
「学院に入るまでには席官クラスになれるよう指導したるから、頑張ろ?」
こくん、と頷きが返される。
ギンはその頬に軽く唇を押し当てて、目尻にも口づけを送った。
ゆっくりと歯車を回しだすために、今、手を翳す。
「おおきに、
笑って幼子を抱きしめた。



小さな体。
温かな熱。
幼い子供。
それでも、確たる意思をもって彼に従う。



連れて生きたいとギンは思った。





置いて逝きたいと、ギンは思った。





2004年5月31日