護廷十番隊隊長・日番谷冬獅郎は三番隊が嫌いだ。
隊長・市丸ギンのエセ笑いや怪しさは言うまでもなく、副隊長である吉良イヅルも気に入らない。
どこが、と聞かれれば生理的な性格の不一致だと答えるだろう。
とにかく彼は三番隊すべてが嫌いだった。
ただ一人、気になる少女がいるけれども。
スワロウテイル
漆黒の死覇装。
その背に流れる真っ直ぐな髪。
透き通りすぎた白い肌。
血のように紅い唇。
自分より少しだけ背の高い華奢な身体。
抱きしめたら、折れてしまいそうな。
「・・・・・・おい」
すれ違い様、気がつけば声をかけていた。
長く下ろしている黒髪が円を描いて振り返る。
「何でしょうか。日番谷十番隊隊長」
表情のない顔がまるで人形のよう。
外見年齢は自分より少しだけ上。
雛森と同じくらいだな、と日番谷は考える。
ただ、その顔に子供っぽさは微塵もない。
あるのは喜怒哀楽の欠落した表情。
それは容姿とあいまって彼女をさらに人形のように見せていた。
三番隊所属、。
市丸ギンの至宝と称されている女。
傀儡の死神。
嫌いな三番隊の死神のくせに、胸のどこかでつっかえている。
ほんの少しの身長差が不愉快に燻ぶる。
真っ直ぐすぎて縛れない髪。
以前に市丸が触れていた。
不愉快だと、思った覚えがある。
「おまえ」
「はい」
「市丸の野郎は何を考えてやがる」
「あの方のお考えになることは私には判りかねます」
「嘘つけ。アイツがおまえに話してないわけないだろ」
「日番谷十番隊隊長の思い過ごしでは」
「・・・・・・おまえ、俺を馬鹿にしてんのか」
「滅相もありません」
眉一つ動かさずに返してくる言葉。
可愛くないと思う。
でも気になるのも事実。
雛森のように守りたいと思わせるタイプじゃない。
乱菊のように信頼を寄せるタイプでもない。
じゃあ、何?
「日番谷十番隊隊長」
まさか向こうから話しかけてくるなんて。
内心で動揺しながらも顔を上げる。
氷のような、生気のない美貌。
正直、好みかもしれない。
紅い唇がゆっくりと開く。
「私は、三番隊の隊員です」
・・・・・・・・・それは、何よりも明確な。
「市丸隊長の部下なのです」
明確、な。
冷水を浴びせられたような感覚。
手の平を握って、唇を噛んだ。
久方ぶりの感情の動き。
熱を、孕んだ。
劣情の蠢き。
市丸の顔が浮かんでは消える。
憎い。
ずるい。
嫉ましい。
この女が欲しい。
「」
突然降ってきた声に日番谷も、呼ばれたも振り返る。
そして片方は顔を歪め、もう片方は無表情のまま。
日番谷は内心で舌打ちする。
こんなに接近されるまで気づかなかっただなんて。
目の前のに捕らわれすぎてた。
「市丸隊長」
「何や、こんなとこにおったんか。イヅルが探しとったで」
「吉良副隊長がですか?」
「せや。何でも指令が降りたからに付き合うて欲しい言うてたわ」
「判りました。わざわざ申し訳ありません」
「えぇよ。気ぃつけてな」
「はい。それでは失礼いたします。市丸隊長、日番谷十番隊隊長」
音も立てずに去っていく後ろ姿。
黒い髪が揺れる。
引き止めはしない。
伸ばしたいと思う手は、今じゃなくていい。
「十番隊長さんは、のことが気に入ったん?」
変わらず不愉快な声に視線を上げる。
例のエセ笑顔で見下ろされてさらに不愉快になる。
「おまえのとこにいるには勿体無いと思うだけだ」
「あらら。せやけどはボクの部下やしなぁ」
「すぐに貰うぜ」
「それは困るわ」
大してそうは思っていない声音に日番谷が眉を顰める。
「はボクの可愛ぇ部下やから、十番隊長さんにはあげへんよ」
市丸はいつもと同じ笑顔で。
けれどそれはとても楽しそうで。
「はボクのものやからな」
自慢げに、まるで玩具を見せびらかすように。
笑みを刻んだ口元をそのままに市丸が背を向ける。
思わず斬りかかりたい衝動に駆られて、けれどそれを押さえ込んだ。
独占欲で失態を犯すなんて真似、するわけにはいかない。
一人の女をめぐって隊長同士が抜刀?
日番谷は小さく笑った。
日番谷冬獅郎の嫌いなもの。
市丸ギン。
護廷三番隊。
その他色々。
「・・・・・・面白い奴がいるじゃねぇか」
日番谷は楽しそうに笑った。
背中の『十』を翻して歩き出す。
日番谷冬獅郎の気に入ったもの。
三番隊隊員・。
2003年9月26日