警戒されちゃったのかなぁ。





選抜合宿でコーチの補佐をやってた女が、笠井に連れられてグラウンドに現れた。
今は藤代も加わって話してやがるが、まさかあいつら余計なこと喋ってねぇだろうな・・・?
あの女は高縄中の参謀だぞ? 高縄は今年は都ベスト8だったが、ゲームメーカーが二年だし来年はもっと上がってくるだろ。不用意に情報を与えれば足元を掬われかねねぇ。
とはいってもバカ代だしな・・・。笠井はあいつのことを知らねぇだろうし。面倒くせぇが、ここは一つ釘をさしとくか。
「おい、てめぇら」
「三上先輩」
「そいつにうちのこと喋んじゃねぇぞ。そいつは選抜のマネ以前に高縄中のコーチだからな」
え、という顔で笠井が女を振り返るが、本人は気にした風もなく俺に向かって頭を下げた。
「こんにちは、三上さん。全国大会優勝、おめでとうございます」
「よぉ。分析は進んでるか?」
「全国大会は残念ながら見に行けませんでした。しばらくは大会もないので、新チームが発足してから本格的に調べさせてもらおうかなぁ、と」
「だとよ、笠井。気をつけろよ」
「あ・・・・・・、はい」
来年のキャプテンはどうせ笠井だろ。バカ代は才能はあるが、キャプテンシーはねぇしな。
「へーっ! ちゃんってコーチなんだ? だから合宿でもマネージャーの仕事はしなかったの?」
「うん。これからの選抜でもコーチングを学ばせてもらうだけで、タオル渡したりドリンク用意したりはしないの。自分で用意してね?」
「何だぁ、残念」
・・・・・・藤代の奴、ずいぶんとこの女を気にいってんだな。まぁこいつは惚れっぽいし、放っておいてもいいだろ。
笠井の方は警戒したらしく、小声で俺に聞いてくる。
「・・・・・・三上先輩」
「あぁ?」
「もしかして杉原さんって、今までのうちの試合とか、全部スカウティングしてたりするんですか・・・?」
「全部かどうかは知らねぇが、都大会の決勝はウォーミングアップから撮ってたぜ」
「・・・・・・」
「高縄の相手を攻略する戦術には、桐原監督も一目置いてる。気をつけろよ」
「はい」
渋沢もそれを用心して、練習中じゃない昼休憩に呼んだんだろうしな。
今度は藤代と女が二人で話しているのを俺と笠井で眺めていると、ようやく渋沢が戻ってきやがった。
「待たせてすまない、杉原さん」
「いえ、お勤めご苦労様です」
頭を下げあうおまえらは営業サラリーマンか?
予定表とかいうプリントを渡し、他にもいろいろと伝言や諸注意を述べて、そいつは用が終わるとさっさと帰って行った。
渋沢と藤代に挟まれて校門へ向かうのを見ながら、笠井がぽつりと呟く。
「何て言うか・・・・・・普通なんですけど、独特な子ですね」
「惚れんじゃねぇぞ、厄介だから」
あいつ本人でさえ微妙なのに、あの杉原多紀が双子の兄らしいしな。関わらない方が無難だろ。
「惚れませんよ。ただちょっと、もう少し話してみたかったなぁ、と思っただけで」
それを世間じゃ「惚れる一歩手前」って言うんだよ。そうは思ったが指摘しないで溜息だけ吐き出してやった。何か? もしかしてあいつプリントを渡すのは建前で、本当は次期キャプテンをたぶらかしに来たのか? だとしたら末恐ろしい女だな。
バカ代といい、来年の武蔵森は高縄に負けるかもしれねぇ。まぁ頑張れよ、監督。





タッキー、こんなとこにも候補がいるよ!
2006年11月8日