この好きじゃ、ダメなのかな。





夏休みの某日、ちゃんをうちに招待した。まぁ、うちと言っても椎名の家になんだけど。
今後の選抜の予定も話したいし、私が昔使ってたコーチングの資料なんかも譲ろうと思うのよね。ちょっと走り書きもしてあるけど、役に立つだろうし。
応接室で準備をしていると、約束時間ちょうどにインターホンが鳴った。
「翼、ちょっと出てくれる?」
「まったく、自分の客くらい自分で応対しなよね」
ぶつぶつ言ってるけど、いいのかしら? せっかくチャンスをあげたっていうのに。この前の選抜練習以来、微妙に不機嫌なのに気づいてないと思ってるのかしら。
ほら、案の定驚いた声が聞こえてきた。客が誰かは教えてなかったものね。嬉しいでしょ、翼?



見事な仏頂面でちゃんを案内してきた翼に、遠慮なくお茶菓子の準備を頼む。ふふ、断らないところをみると、やっぱり何だかんだ言って気にしてるんじゃない。
そうね、ここは親戚として一肌脱いであげようかしら。
「そういえばちゃん、設楽君とのデートは楽しかった?」
資料を渡し、今後の予定も軽く話して、翼が紅茶を運んできたところを狙って問いかける。あら翼、紅茶をこぼしたりしないでね?
「映画を見に行くって言ってたわよね、確か。何の映画を見たの?」
「えっと・・・・・・『ナニー・マクフィーの魔法のステッキ』です。魔法使いさんが、いたずらっこの七人兄弟の教育係をするお話で」
「あら、楽しそうね。ちゃんは映画が好きなの?」
「はい」
「翼もそうなのよ。翼はもう見たの? その映画」
紅茶とケーキをテーブルに置いて、立ち上がりかけたところに話を振る。何だかまた仏頂面に変わったけど、ちゃんの前でそんな顔していいのかしら? 元に戻らなくなっても知らないわよ?
「・・・・・・見たよ。ストーリーは王道だけど、テンポがよくて結構楽しめた」
「あら、じゃあ今度、私も見に行ってみようかしら」
目線で「座りなさい」と命じると、翼はますます仏頂面になって、だけど結局ソファーに座った。
この子・・・・・・器用そうに見えて、実は不器用なのかしら。恋愛面においてのみそうなら、新しい発見ね。
「それで、オッケーしたの?」
翼の肩がぴくって震える。この子って、この子って・・・!
「オッケー・・・・・・です、か?」
「ええ。『付き合って』って言われたんでしょう?」
「いいえ、言われてません」
翼の顔が戻った。あぁもう笑い出してもいい? 現金ね、あなた!
「でも、設楽君はちゃんのことが好きだからデートにも誘ったんじゃないかしら」
「・・・・・・でも、言われてないです」
「次の約束は?」
「・・・・・・・・・メールするからって、言ってました」
翼の眉間に皺が戻った。見てるのも楽しいけど、何だかちゃんの話も楽しそうね。
久しぶりだわ、こういう可愛らしい恋愛って。
ちゃんは設楽君のこと、どう思う?」
問いかけたら、ちゃんの顔が何だか泣きそうになった。ちょっと翼、ふてくされてないでちゃんと見ておきなさい。泣いたところを慰めてくれる男に女は弱いものよ。
「わたしは・・・・・・多紀ちゃんが、好きです」
「でも杉原君は、あなたの双子のお兄さんでしょう?」
「それでも、多紀ちゃんが一番だから、それ以上に誰かを好きになったりしないです」
思わず首を傾げてしまった。双子は兄弟姉妹とはまた違うって聞くけど、これもそういうことなのかしら。
「じゃあ、もしも杉原君に恋人ができたら、ちゃんはどうするの?」
この問いかけの返答には翼も興味を引かれたらしく、ちらっとちゃんの方を向く。
そして私たちは、思わず目を見張ってしまった。

「・・・・・・・・・どぉしよぅ・・・・・・」

小さな小さな声で呟いて、ちゃんはふにゃりと笑った。
それは何だか捨てられることに怯えている子犬のようだった。





どういうのが恋愛の好きなのか、分からない、よ。
2006年8月17日