風邪かなぁ。
今日は練習の後、この間あった都大会決勝のビデオを見ることになった。
私たち女子部は偵察がてら見に行ったけど、男子は練習があったから行けなかったのよね。大会は負けちゃったけど、まだ来年があるんだから。今からのんびりなんてしてらんないわ。
「小島、まだかよー?」
「うるさいわね、文句言うくらいなら自分でやりなさいよっ」
高井に言い返してテレビとビデオの配線をチェックする。よし、これでつくはず。
みゆきちゃんが再生ボタンを押すと、画面には整列してピッチに出てくる選手たちが映った。
「あ、鳴海だ」
「渋沢や藤代たちもいるな」
風祭や水野が画面を指さしてるけど、どの選手のことを言ってるんだか分かんないわ。フォーメーションが分かるように遠くから撮ったから仕方ないんだろうけど。
そんなことを考えてたら、周囲の雑音に混ざって小さな声が入ってるのに気づく。・・・・・・これって、もしかして。
「あんたたち、ちょっと黙って!」
喋ってた奴らを黙らせてテレビのボリュームを上げる。ノイズがうるさくなるけど、さっきの声もちゃんと聞こえた。小さな、女の子の声。
『・・・・・・11番・設楽兵助、9番・鳴海貴志。武蔵森学園中等部、1番・渋沢克郎、3番・・・・・・』
「何や、スタメン紹介もするんか」
豪勢やなぁ、って佐藤が言うけど、これは違う。
「たぶん、私たちの後ろの席にいた子の声よ。その子もビデオを構えてたから、どこかのマネージャーなんじゃないかしら」
「それにしても詳しいな。両校のスタメンを全員言えるなんて。加えてフォーメーションシステムまで解説してるとは」
松下コーチが感心したように言う。確かに切れ切れに録音されてる声は、スタート時の武蔵森と明星のシステムまで判断してる。サッカーに詳しいんだ。惜しいことしたわ、話し掛ければよかった。
「・・・・・・この子の声、どこかで聞いたことあるような・・・?」
「うそ! どこよ!?」
ぽつんと呟いた風祭に思わず詰め寄ると、慌てて腕を組んで考え出す。
みんなの注目の中で風祭は考えていたけど、ついに思い出したのかパチンと両手を叩いた。
「ちゃんだ!」
みゆきちゃんがびくって反応した。って女の子の名前よね? ・・・・・・もしかしてマズイこと聞いちゃった?
「ほら、選抜合宿に来てた、マネージャーの」
「ふむ、確かに声質は似ているな」
「俺は彼女とは話さなかったから・・・」
不破は頷くけど、水野は首を傾げた。ふぅん、合宿に女の子も来てたのね。ただのマネージャーにしては詳しすぎるような気もするけれど。
「高縄中の杉原ちゃんっていうんだ。選手の杉原多紀君の双子の妹さんで、高縄中でもサッカー部のマネージャーをやってるって言ってたよ」
風祭はのんきに言うけど、その子の名前が出る度にみゆきちゃんがびくってしてる。そろそろ話題を変えた方がいいかも・・・・・・って!
「可愛えんか、その子」
「はい、可愛いですよ」
佐藤、余計なこと聞かないでよ! でもって風祭も素直に答えない!
「僕よりも小さくて、髪の毛が長くて。優しい感じの雰囲気の子です」
うーわー・・・・・・風祭は笑ってるけど、高井とか森長とか、他にもみゆきちゃんの気持ちを知ってるやつらはちらちらこっちを気にしてる。佐藤は完全にこの状況を楽しんでるみたいだけど、やっと気づいた水野が慌ててテレビを指さした。
「そんなことより、ほら! ちゃんと見ておけよ!」
言うのが遅いわよ、水野。
その後はみんなおとなしく試合を見てたけど、やっぱりときどき入る試合経過を記録する声に、みゆきちゃんは小さく反応してた。
でも声の評価は適確で、みゆきちゃんには悪いけど、ちょっとこの子に会ってみたいって思っちゃったわ。
くしゃみ一つは誰かの噂。
2006年6月2日