夏が終わるね。





帽子、飲み物、お弁当。ビデオにノート、筆記用具。
ちゃん、今日は暑いから日焼け止めもちゃんと塗らなきゃ」
多紀ちゃんもそうだけど、あなたたちは焼けると赤くなっちゃうんだから。お母さんがそう言って、ぺたぺたぺたぺたクリームを塗ってくる。
今日の髪形はおだんご。これもお母さんがやってくれた。
「じゃあ行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。気をつけてね」
見送られて、うちを出た。目指すは新宿運動競技場。
都大会決勝、武蔵森VS明星の試合。本日13時キック・オフ。



決勝戦は、ちゃんと観客席もある芝の会場で行われる。
到着したのは11時。早すぎるのかな。人はほとんどいない。
ハーフライン上、間近じゃなくてちょっと上の方の席を選んで、ビデオをセットする。うん、ここならフィールド全体が画面に映る。ワンプレーよりも、どんなフォーメーションで試合が展開されていくのか、それを逃さないように録画しなくちゃ。
三位決定戦を見に行ってる多紀ちゃん、大丈夫かな。プレーに集中しすぎて録画ボタン押し忘れてないといいけれど。
鞄からお弁当を取り出す。今日のメインはサンドイッチ。ピーナッツクリームサンド、大好き。
水筒から紅茶を注いで飲んでると、武蔵森の選手が先にフィールドに出てきた。渋沢さんは大きいからすぐに分かる。
ウォーミングアップから逃さずに録画を始める。あ、藤代君がわたしに気づいた? 大きく手を振って、10番の三上亮さんに殴られてる。
苦笑しながら手を振ってくれた渋沢さんに、わたしも手を振り返した。頑張って下さいって気持ちを込めて。

試合開始間近になってくると、観客席も人でいっぱいになってきた。武蔵森と明星の応援団、それに負けちゃった学校の人たち。わたしと同じ偵察の人も何人かいるみたい。
前の席に座った女の子たちも、ビデオを構えたり、ノートを広げたりしてる。
わたしももう一度カメラの位置を調節して録画ボタンを押した。
13時ちょうど、キック・オフ。



試合はとても均衡したもので、見ているだけでドキドキした。
でも結局は鳴海君のファウルで与えてしまったPKを藤代君がしっかり決めて、それが決勝点になった。
桜上水中との試合を逆にしたみたい。結局夏の大会も、武蔵森が優勝。春夏連覇ってすごいな。うちも負けてられないな。
それにしても鳴海君・・・・・・あの短気さはどうにかしないと、そのうち一発レッドをもらっちゃうよ? せめて選抜ではそんなことがないように、気をつけてもらわなきゃ。力強さとラフプレーは違うんだって分かってもらわなきゃ。
ノートもとりあえずまとめられたし、後はうちに帰ってからにしよう。三位決定戦の方も分析しなきゃ。
「杉原さん」
呼ばれて振り向くと、観客席の下、フィールドに設楽兵助君がいた。まだユニフォームのまま、タオルを首にかけている。
「こんにちは、設楽君。今日はお疲れさま」
「負けちゃったけどね。合宿で杉原さんが言ってた通り、鳴海が馬鹿なのが悪かったんだけど」
首をすくめて設楽君が笑う。その笑い方が何となく多紀ちゃんに似てるな、なんてちょっとだけ思った。

暑い暑い炎天下、夏の都大会が終了した。





趣味に走り始める。レディー・・・!
2006年5月24日